同業者
アンジェリカ。金髪でモデルのような8頭身体型の魔人。だが胸は無い。
ベリルの大学での同期で、彼女も同様にダンジョンの運営者だ。
「最近はどう?」
「仕事は全然ダメ。・・・・・・それが密着取材中って言ってたやつね」
ここは魔界焼き肉屋。少し高級店の和室を貸し切っている。
他社と会議の名目で昼休憩と2時間の時間を取ってある。
僕のことは気にしないでと手を振った。
「どこの評判が特に悪いの?」
「1層かな、どうにも手ごわいとされてるみたいで、奥まで入る前に満足するやつらが多くてさ」
「放流してるモンスター、どんな内訳にしてるの?」
「アンタのとことほとんど一緒よ。コボルドにゴブリンにヴォーパルバニーにジャイアントセンチピード。森林系の」
「そうかぁ。・・・・・・もしかして天然物使ってる?」
「そりゃあそうでしょ。活きがいいもの」
「あー、最近は養殖のほうがいいかもよ。みんなぬるいのに慣れてるから」
大手が養殖モンスターを使い始めて早10年ちょっと。
手でマップを描いていたころとは違い、今では地図も魔法で自動筆記されるような時代になった。
それに合わせてダンジョンも複雑化し、多様化した。
そして便利な魔法アイテムやインチキ能力に胡坐をかき、身体や精神が未熟な冒険者たちが増えたのだ。
「―マジ? 軟弱になったねぇ人間どもは」
「うん。養殖に変えてからウチのとこでは1層の文句はあんまりないもの。大体2層か3層」
ベリルが注文していた薄切りネギタン塩が6皿ほど届く。ベリルはタン塩でご飯を包んで食べるのが大好物だった。
この後はしばらく仕事の話は無く、歓談。
「ところで土曜の外部視察は一緒に行けるの?」
「たぶん大丈夫。夜には帰らないとだけど」
「ふぅん。彼氏でもできた?」
「違うわよ、叔父さんの誕生日会で高級お寿司が食べれるの。タダで」
日付は進み、土曜日。
今日のベリルの予定は午前中は魔界配達の荷物の受け取り。
高価なものが含まれているとのことで幹部が対面で受け取る必要があった。
そして午後はダンジョン外周の街を視察だ。これは3か月に一度定期的に行っていて、都度ダンジョンの評判を直に聞いたりしている。
目立たないように質素な服に着替え、いったん街の外の窓へ出て、外壁の通行門へ。
偽造通行証を渡し、街の中へ潜入した。
あ、僕は視覚的、物理的な透明化の魔法に無害化を発動しているため警備には引っかかりません。
街の中でアンジェリカと合流。
石畳の街中をぐるっと一周。建物はレンガだったり、木造だったり様々だ。
「ダンジョンで採れた薬草だよー。一束30ゴールド!」
「・・・・・・」
「どうかした?」
「あんなもの採って帰れるところに生やした覚えがないんだけど、おそらく偽物ね」
「だいたい街から持ち込みがあるんだから、1層とかじゃあ傷に効くやつを置くには早いのよ」
「それもそうね」
昼食ついでに、人間がたむろするギルド内の酒場とやらで色々注文してみていた。
「う~ん、微妙ねぇ・・・・・・」
「この前食べた高級焼肉と比べちゃうと、どうしてもねぇ」
一番高いステーキを頼んだのだが、11層の魔界側食堂より数段クオリティが低い。
端的にいうと、全部あまりおいしいものではなかったようだ。
掲示板の依頼とやらにも目を通す。
そのほとんどが街の外でのモンスター討伐、もしくはお使いの類だった。
ちょこちょこあるのはダンジョン内でのアイテムの採集依頼。
しかし、これは設置を管理するベリル次第で取れるものが変化するだけなので、いじわるなベリルは3層までは、簡単にはレアなモノを取れない場所に設置していた。
食事を終え、外に出て歩き始めると、
「おいおい、ねえちゃんたち俺たちと遊ばない?」
『チッ、一人は貧乳かよ』
軽薄そうな青年たちがベリルたちに声を掛けてくる。
3人組だ。
「おニイさんたち冒険者?」
「おうよ。まあこのダンジョンは予約がなかなか取れなくて、入るのは2か月以上あとだけどな」
「すっご~い。お金持ち?」
「そうだな~高級ホテルにでも行こうか?」
「え~。どうする~」
ベリルもアンジェリカも"見た目だけ"は魔界でも相当美人な部類だ。
毎回視察ではこうやって声を掛けてくる人間が後を絶たない。
「ダンジョンから~帰ってこれたらイイコトしましょ?」
「よっしゃあ、約束だからな!」
「私たちはしばらくこの街にいるんで~。探してくださいね♡」
「あんな奴等すぐくたばる。顔は覚えたでしょ? 絶対生かして帰すんじゃないわよベリル」
ベリルにもアンジェリカにも後ろの男の呟いた悪口は聞こえていた。
「わかってるって。来たらバジリスクでも放つよ」
バジリスクは3層にたまに出している蛇のモンスターだ。管理は1層のリィラがしている。
石化の邪眼のある超危険モンスター。
ということで視察は終わった。




