今回の決着
5層。魔導機械のひしめく旧文明の荒野。
機械はオートリペアが働くから、しばらくすれば復活しまた勇者どもを攻撃できるだろう。
強い電撃攻撃にさらされなければだが。
「当然機械に電撃攻撃はセオリー。冒険者が雷を知らなくとも、チートどもには常識だものね」
どんどんと破壊されていく魔導機械。
かなり痛手だが、次の階で侵攻はいったん止まるだろうとベリルは読んでいるようだった。
「ひとまずはしのいだな」
6層のアンチチート階層から勇者ども4人の歩みが遅くなった。
当たり前だが、男以外は現地の冒険者か何かのはずだから、男が使えなくなったら普通の足手まといを連れているだけになる。
すでにリィラが黒狼は1層の牧場に移動させている。
あれは一匹狼という言葉どおり、まわりが騒がしいとストレスがたまるだろうが仕方ない。
「7層以降はどうしましょう?」
『今は9層までだ。そこまでで殺すなり、撤退に追い込め』
パソコン上にはいかつい魔人男性の顔が映し出されている。彼の後ろの景色はヤシの木が映えるリゾートビーチだった。
ベリルはカメラ付きのオンラインボイスチャットで上司の判断を仰いでいた。
「承知しました。そのようにします。失礼します」
ベリルは挨拶して、通話を切った。
「全員の判断がいるわね・・・・・・」
そう独り言ちると、端末を操作し、幹部だけのチャットメニューを開いて、
『緊急招集。全員18時に11層の会議室に集合せよ』
すぐに既読がついていく。
午後6時。
11層の会議室。長方形に並べられた机と椅子。
集まった面々。
ほとんどが人型。最低でも上半身くらいは人型だ。
「現在勇者どもは6層で苦戦中。しかし、明日には7層に降りると思われる」
監視係のポーロがそう言った。
「7層以降はどうなりそうかしら?」
『現在8体のドラゴンを確保しました。いずれも若いですが最低限戦えるかと』
サブが音声だけで返事をする。
「8層以降は?」
「悪魔たちはまるで募集の目途が立っていません。活動時間から22時以降になります」
「・・・・・・厳しいか。9層に呼べる神はいる?」
「今から交渉して間に合うかはわかりません。そもそも3層と5層の被害が大きすぎます。金銭面から7層で終わらせるのがいいかと」
ベリルの質問に魔事補佐6層管理人のラミアのメイが答える。
「なら儂が出よう。必ず仕留めてみせる」
手を挙げて立ったのは、片目の潰れたドラゴン。
今は作務衣を着た少年のような人型だが、本当の姿は100m級の大型ドラゴン。
彼は会社の障がい者雇用枠で雇っている幹部の一人だ。
ドラゴン界最強と謳われたハイイロドラゴン。
その名はユーベルト。
現在は一線を退いて久しいが、その爪は魔銀の鎧をやすやすと切り裂き、炎のブレスは10万度という生きる伝説。
彼の主な仕事は偏屈なものが多いバイトや派遣のドラゴンたちの勤怠管理が主だ。
ドラゴンというのは特に労働環境に文句が多い種族として有名で、昼飯のメニューにアレがないだのコレが足りないだの、昼寝時間を1時間よこせだの、ついでに掛布団もよこせだの、定時だから帰るだので文句ばかり。
かといってダンジョン外で移動が簡単な人間体で活動できるドラゴンは少なく、邪見に扱う訳にもいかないのだ。
ちなみに彼らドラゴンがバイトや派遣などで、会社に属さない理由は束縛が嫌い・・・・・・なこともあるのだが、一番は月給定額の給料より給料が高いからだ。
365日勤務のベリルやサブマスターの給料が最も高いのは言うまでもないが、時給換算すると大したことがなく、バイトドラゴンの方が相当貰っている。
そんなドラゴンたちの調整役がユーベルトだ。彼が若かりし頃の武勇伝を聞かせると大体のドラゴンが文句を言わなくなる。
俺たちの時代はこうだったというのではなく、だから今はこうすべきだというのが彼の言いくるめの常とう句だ。
「ではユーベルト、勇者の始末はアナタに一任するわ」
「承知した」
「では、上層階はいつも通り冒険者の対応をしてください。勇者を始末してから、3層をコピーと入れ替えます。では全員仕事に戻ってください」
「了解!」
威勢のいい返事と共にベリル以外が会議室から出ていく。
「サブ、日雇いのドラゴンはどのくらいで用意できた?」
『7か8くらいですかね。緊急でしたのでかなり日当が高額になってしまいました』
「そうか~。じゃあ最終到達7層でもしかたないよね?」
『十分ではないでしょうか。力を温存して、どうせ舐めた態度でかかるでしょうし。どのみち8層には耐えられませんよ』
「ありがと。次のチート持ちにはちゃんとやらないとね。じゃあ、ドラゴンの配属は任せるから」
『わかりました。では』
「うん。じゃあ」
ピロン。
「さ、て、上への報告書を書き始めないとね」
ベリルはこれから起こることを見もしないでパソコンのキーボードをたたき始めた。
今日もベリルは忙しい一日だった。




