過去
高山と別れた後、俺は家に帰った。
「ただいま」
そう言って扉を開けるがそこにおかえりはない。キッチンの方からはトントンと食材を切る音がする。そして、リビングからはテレビを見てるのか、父親と弟の楽しそうな話声が聞こえる。そんな音を聞きながら、俺は自室へと戻った。
自室で軽く勉強をしたのち、8時になっていたので俺はリビングへ向かった。我が家は夕食の時間が8時で固定なのだ。リビングに入るとすでに両親たちは食べ始めていた。彼らは俺の方をちらっと見たが、すぐに視線をそらした。さっきまであんな楽しそうにしゃべってたくせに、俺が入った途端黙りこくった。
俺はテーブルにつき、軽く手を合わせ、今日の夕食であるカレーを食べ始めた。ジャガイモとひき肉、玉ねぎの入った王道のカレーだ。俺はそれを黙々と食べていると、俺の斜め前に座っている父が遠慮がちに口を開いた。
「なぁ、、、優斗」
「なに」
「いや、最近学校はどうだ?仲良くやってけてるか」
またこれか。
「ぼちぼちだよ」
「そうか…」
何でそんな遠慮がちなんだよ。昔は全然違ったじゃないか。俺の知ってるあんたはもっとおしゃべりで快活だったはずだろ。
心がざわざわする。むしゃくしゃしてしょうがない。いつものカレーが急激にまずくなっていくのを感じる。ご飯をかんだときに感じるねちょねちょ感、普段は何も感じなかったものが不快でしょうがなくなる。俺は強引にカレーをかき込み、逃げるように自室に戻った。こんな時、逃げることしかできない自分が本当にみじめだ。
2年前、中学3年のとき俺は高校受験に失敗した。父は京大出身のエリートで、教育には特に力を入れていた。俺は小学生のころから塾に通い、県内トップ校である公立蛍が丘高校を目指していた。その頃は、両親は俺のことを献身的にサポートしてくれたし、弟も俺のことを応援してくれていた。そして俺もその期待に応えようと必死に勉強した。その甲斐あって模試では常にA判定をとれていた。
しかし受験本番、得意だった数学を解いてる最中突然頭が真っ白になった。いつもなら、問題を見れば自然と回答への式が頭に浮かんでくるのに今回は全く浮かんでこなかった。きっと緊張してるのだと考え、俺は手に人と書いて飲み込んだり、深呼吸をしてみたりした。だが、いくらやっても無駄だった。アニメや漫画の世界ではないのだ。簡単に緊張がほぐれたら苦労はない。俺は数学で見事に失敗し、つづく英語や社会の試験でもケアレスミスが相次いだ。そして、結果発表当日張り出された紙に俺の番号はなかった。家族は俺のことを決して責めたりしなかった。次がある、次頑張ればいいと言ってくれた。だが、俺自身が自分を許せなかった。
受験に失敗した俺はすべてに対してイライラが抑えられなかった。休日も決して外に出ようとせず一日中ベッドの上で腐っていた。親が定期的に話しかけてくるが、俺を憐れんでいるように感じいつも怒鳴っていた。そんなことを続けてるうちに親の俺への態度がよそよそしくなった。リビングでばったり会っても会話はなく、仮に話しても2ラリーで終わってしまう。そんな日々を繰り返してるうちにいつの間にかそれが当たり前になっていた。
自室に戻った俺は、ベッドに思い切りダイブした。この瞬間が一番好きだ。俺は枕に顔をうずめて、今日のことを振り返った。いろんな場面が頭の中をぐるぐる回っているのを感じる。
あの突飛な行動もそうだが、つながりが欲しいって何だ。友達が欲しいってことか?確かにあいつ友達はいなそうだが、それで何でエロ漫画になる?てか冷静に考えて、何で同級生がエロ漫画書いてんだよ。ほんと、マジで、意味わからん…
得体もしれない眩しさが俺を襲った。
「うーん」
俺はベッドからゆっくり起き上がると、太陽が俺の顔に直接あたってるのに気づいた。どうやら寝落ちしてしまったらしい。俺は寝ぼけながら風呂場へ向かった。
風呂場で軽くシャワーを浴び浴室から出て、リビングに入ると食器が2人分テーブルの上に置かれていた。すでに両親は出かけたようだった。俺は麦茶を入れ、なんとなくテレビをつけると、「ヒルナンデス!」。陽気な声が聞こえてきた。
「は」
俺は全身から血の気が引くのを感じた。俺はあわてて時計を確認すると12時50分。もう完全に遅刻だ。背中を冷や汗がだらだら流れるのを感じる。しかも今日は音楽の歌唱発表の日。この日を逃したら、別日に改めて一人でみんなの前に立ってやらされることになる。音楽は今日の6限、今から全力で学校に向かえば間に合うかもしれない。
俺は、カバンにスマホと財布を突っ込んで駅に向かって走り出した。




