表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

もやもや

教室に駆け込むと、ちょうど5時間目に休み時間だった。音楽は6時間目なのでぎりぎり間に合ったということだ。俺は自分の席に思い切り座って、大きく深呼吸した。すると、汗がとめどなく流れてきた。駅から学校まで全力疾走した弊害だろう。俺はポケットに入っていたハンカチで顔を吹いた。

 「ねぇ、大丈夫?」

 高山が心配そうな目でこちらを見つめる。音楽室に行くところなのだろう。その手には音楽で使う教科書やファイルがあった。

 「ああ、いやちょっと寝坊しちゃってねー。もうマジ疲れた。てか、聞いて!起きたの12時50分よ!マジ死んだかと思ったよ!ほんと、マジで危なかったわ」

 走り終わって興奮してたのかハイテンションになってしまった。急にハイテンションでキモイよなと少し後悔していると、高山はクスッと笑い

 「私先行ってるね」

 と言って、音楽室へ向かっていった。その後ろ姿をつい目で追っていると、山本に後ろから肩をたたかれた。

 「よっ!遅かったじゃんか。今日はもう来ないと思ったぜ」

 山本はいつもの軽口をたたいてきた。

 「いやー、朝起きたらもうお昼でよ。マジで焦ったわー」

 「はは、いやお前昼過ぎはさすがにえぐいやろ、完全に昼夜逆転してるやん」

 俺は山本と話しながら、ロッカーにしまってある教科書を持ち音楽室へ向かった。


 音楽室は異様な空気に包まれていた。先生がピアノを弾き、出席番号順にクラスメイトが前に出て課題曲を歌っている。だが、今歌っているやつは緊張しているのか全然声が出ておらず、ピアノに声がかき消されている。先生は気を遣ってなるべく優しくピアノを弾いているが、それが逆にいたたまれなさを演出して非常に気まずい雰囲気になっていたのだ。

 そして今、出席番号で俺の2個前のそいつがちょうど歌い終わった。彼はほっとしたような顔で自分の席に戻った。前のやつが歌い終わったらいよいよ俺の番だ。そう考えると緊張で足が震えてくる。全力疾走でかいたはずの汗はとうの昔に乾いて、代わりに冷や汗がだらだらと流れるのを感じる。気分は最悪、モチベーションは皆無だ。

 だが、やるしかない。前のやつが歌い終わり席に戻ってきた。去年と同じ轍は踏まない。何のためにわざわざカラオケに通い詰めたか、その成果を見せてやる。

 

 俺の発表はそつがなく終わった。去年、音をはずしまくったときの気まずい空気はなく、長々と続く発表会に飽きた様子のクラスメイトがそこにはいた。俺は軽やかな足取りで自分の席に戻った。

 その後も淡々と発表が行われ、高山の番になった。正直、高山の歌声を聞くのはこれが初めてだ。正確には去年も聞いてるのだが、去年は音痴過ぎた自分が恥ずかしすぎてその後の記憶が全くないのだ。俺は、姿勢を正して集中した。

 息を大きく吸う音がかすかに聞こえた。そして、普段の淡々とした低温ボイスからは想像つかない声量で美声を響かせ始めた。中低音域は当然のことながら高音も余裕をもって出していた。俺はあっけにとられてしまった。はっきり言って、高山がこれほど歌がうまいとは想像もしていなかった。エロ漫画を描くくらいだから、いわゆるオタク系の女子だと思っていたのだ。

 高山の発表が終わるとこれまでの倍、拍手が響いた。俺も拍手をしながら、なんとなくモヤモヤした気持ちを抱えていた。この気持ちの正体のわからぬまま発表会は終わり、俺たちは教室へと戻った。


 6時間目が終わり、もう放課後なので教室には弛緩した空気流れていた。俺たちは席に戻り、帰りのホームルームのために担任を待っていた。

 「高山ってめちゃくちゃ歌美味いんだね」

 俺はさっきの歌声が忘れられず声をかけた。

 「そう、ありがとう」

 高山は微笑んだ。続けて、

 「それより、高坂君去年より全然うまくなったね。なんかびっくりしちゃった」

 と言った。

 「え、あ、ありがとう」

 まさか褒められるなんて。あまりに想定外で動揺してしまった。するとそんな反応を面白がったのかクスッと笑って言った。

 「練習でもしたの?」

 「まぁね。さすがに去年と同じはやばいしね」

 「だね」

 その時、扉がガラッと開き担任が教室に入ってきた。担任はいつも通りの適当なホームルームを行うと、各々部活だったり遊びだったりそれぞれの行くべき場所に向かっていった。俺も体育館に行こうかとカバンを持ったところで、なんとなく気になったことを聞いてみた。

 「なぁ、高山ってなんか部活入ってんの?」

 高山は一瞬考えるしぐさを見せてから、言った。

 「入ってないよ、このまま帰るとこ」

 「ふーん、結構珍しいね」

 うちの学校は基本的にすべての生徒が部活に入ることを推奨している。部活に入ってないのはかなり少数派のはずだ。

 「そう?逆に高坂君はなんか入ってるの?」

 「俺はバスケ部入ってる」

 「バスケかー。私やったことない。楽しい?」

 「まぁまぁかな。もうすぐ大会だから練習頑張んなきゃなんだよね」

 「それは大変だね。頑張って」

 「ああ」

 俺は高山に軽く挨拶を済ませ、体育館に向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ