私と、合同授業後の休憩時間について。
やっと待ちに待った休憩時間。
めちゃくちゃ心配そうな表情のメイドがぱたぱたと駆け寄ってきてくれて、私はちょっとだけ気が楽になった。
入学式もそうだったけど、いつも近くにいてくれるメイドがいないとやっぱちょっと不安になる。
殿下は元護衛がセキュアさんと一緒にお説教するとかなんとか。
あれは私が悪いからと言ったんだけど、噂に信憑性を持たせるような行動はやめてもらわないと困るんだとか。
その噂について聞きたかったんだよなそう言えば、と思ったところで、元護衛に耳打ち(離れてはいるけど)された。
「四阿へ行ってください。後で手当てしにあいつが行きます」
手当て——?
顔を見上げると、元護衛は腕を指差した。
四阿についてすぐ、メイドに紅茶を淹れてもらうように頼んだ。
ちょっと一人になりたかった。
「あぁもう最悪……」
夏服でもラインナップされていた長袖の制服に、どれだけホッとしただろうか。私はなるべく肌を晒したくなかった。
自分の体が汚いからという、別の体を与えられてさえ逃れられない強烈な思い込みともう一つ。
周りを見まわし人影がないことを確認してから、袖を少し捲る。
爪痕は赤く裂けていた。
自分を傷つけないようにと先生に言われ、私はそれに頷かなかったし肯定もしてない。「先生も」と言っただけだ。
詭弁だけど、嘘は吐いてない。それでも後味の悪さはある。
どうせ何をしても殺されるのだから傷つかないのは不可能だ。そしてその過程で、逃げ出さないでいるためにはこれが……
「……構ってちゃんかよ……」
こればっかりは言い訳も思いつかない。
昨日、制服の胸元を思いっきり握り締めて皺になって申し訳ないなと思ったせいか、いつもみたいにスカート握り締めれば良かったのに、無意識に日前みたいな真似してた。
爪痕はピッタリ私の手に合う。
逃げてしまおうか。
血も止まってる。手当なんか必要ない。弁解するのも面倒で恥ずかしい。
この世界の人は私にも気を配ってくれてる。
お風呂や寝る時だったらバレなかったのに。
殿下がヒロインに対して言った言葉が嫌だったのか、それともあの声が嫌だったのか、久しぶりのわかりやすい不機嫌さが怖かったのか、真っ向から反論するのが怖かったのか。
自分の仇に自分の死因の探りを入れてるって言う状況自体、そもそも無理だったのか。
前世までのずっと無言の殿下に私は——安心してもいた。
日前の家族は常に私を馬鹿にすることでコミュニケーションをとっていた。あの家族にとっての会話は、人を貶してそれを笑うことが普通で、何か反論すれば怒鳴られるし暴力だって付いてくる。
そんな環境で育っていたから、何を言っても怒鳴らず、暴力もなく、終始無言の殿下は、得体が知れないという怖さはあるものの、心理的安全性のようなものは確保されていた。
——甘えていたのかもしれない。
ループ中の世界では、殿下に。思い出せば出すほど、大抵の私は壊れていて、どうしてそんなことをしたんだと今になってみれば頭を抱えたくなるようなことばかりしていた。
それでも断罪の日までは、お咎めなしだった。
もう無理かな。まだ、舞台が始まってない。もう少し。
もう少しだけ。
日前の私も真っ黒に日焼けする家族の中で一人だけ、赤くなるだけで普段は白かった。今の肌はそれより白い。だから余計に赤が目立つ。
あの時、元護衛が顔を顰めたのは、私のこれに目敏く気付いたからか。彼の心の傷はもしかしたら先生の自傷かもしれない。こんな形で知りたくなかった。
リアクションありがとうございます。嬉しいです。
短くてすみません……が、なんとか更新を。
今月末には文章量戻ると思いますし、加筆編集したいと思います。




