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私と、慌ただしい休憩時間について。

 先生の表情が動く。あれ、これ、この表情、見たことある……?

「王族に関する様々な噂があるかと思いますが——問題にされないのは実害がないからです」

 急に話が変わったな、と思ったのはヒロインもだったみたいで、きょとんとしてる。

「実害があると判断された場合は不敬罪に当たり、実刑が下ります」

 変わってなかった。

「この国の法律では不敬罪と反逆罪の差は非常に曖昧です。王子殿下の寵愛を受ける方が被害者となれば、加害者には反逆罪が適用されるでしょうね」

 ……ちなみにこの国の反逆罪は死刑である。全然話変わってなかった。

 話の裏を読むのが苦手な私でもこれはわかる。つまり簡単に言うと『お前がな』だ。

 私が死んだ理由も判明。さっきわかったと思ったけど多分こっちの方。

「だから?」

 いやだからじゃないから。え、まさかヒロイン、反逆罪の法定刑知らないわけじゃないよね? 

 いや私もさっき自分の地位の高さ自覚したばっかだから人のこと言えないけども。一応私には言い分があって、私はほら、悪役令嬢なだけあってどうせ途中退場するし、王族の種類について先生の授業受けてた時も、準王族というのは日前じゃ馴染みのない概念だったので、ここは試験で間違わないようにしなきゃ。みたいな感じで、現陛下から数えて何親等以上以内の親族かっていうそっちにばかり気を取られ、王子・王女の婚約者も含まれます、って言われた記憶も確かにあるけど、なるほど、親等と合わせて引っ掛け問題とかになりそうみたいなことばっかり考えてて、現実に当てはめたことがなかったんだ。

 いや、待てよ?

 同じなのか。ヒロインが転生者であるなら、この世界で罪に問われることはないはずだ。私はどうせ退場するからと自分と結びつけて考えることがなかったけど、ヒロインは自身と結びつけたからこそ、関係ないから覚えなかった?

 だけど——

 チラッと上を見る。空とかそういうんじゃなくて、先生の表情。


 反逆罪で訴えられた場合は、ガチのデッド・オア・アライブ。懲役刑や罰金刑はなく、死刑一択。だからもし逃亡した場合は手配書に生死を問わずの一文が載る。大人しく捕まった場合も、無罪を勝ち取って生き残るか、有罪で死ぬか。

 先生のこれは、冗談で済ませてやっているうちに矛を納めろと言う忠告。

 否、忠告というよりは——脅迫めいている。

 平民とスクールの教師。前に殿下に対して事実と異なる疑いをかけたという前科のある平民の生徒と、賢者の称号を持つ貴族の教師。

 貴族社会での信用は比べるべくもなく先生に軍配が上がる。

 喧嘩を売った時点で負けが確定している。だから先生は冗談と言ってくれたんだろう。あの時点ではまだ温情を。だけど今は?

「冗談で済む範囲を超えた場合ですが——風説の流布、という言葉を知っていますか」

 ひく、と喉が動いた。私は何回もそれをしたことにされて、何回かは多分されもした。

「不名誉な噂が流れた場合、男性よりも女性の方に瑕疵があるとされやすい。アリス・キャロル嬢。理解した上での言動ですか」

 ——あぁ、なら、また、私が死刑になるのか。メイドも巻き添え。

 否定したところで無駄だ。こういう……のが絡んだ場合、いつも悲惨な目に遭うのは女の方だ。

 それに、私の——体質は理解されにくい。例外がいる時点で、そこを突かれる。そして私は、この手の話になると、何も言えなくなる。

 いつも、口から出るのは喘鳴のような呼吸音で、勝手に涙が出そうになって、肝心の言葉は何一つ出てこない。金縛りみたいに体もろくに動いてくれなくなる。

 まともな治療をしてこなかった弊害だ。説明なんてできない。なんとか押し出せても、違うという言葉くらいで、どう違うのか説明できない。

 本当に違うのならちゃんと説明してみろ、できないのはそれが嘘だからだろうと言われて、弁解すら。

「アイザック先生がしてることって、グル——」

 何か言いかけたヒロインが、パッと頭を動かす。それに倣うと、校舎のある方から、駆けてくる護衛その2が見えた。

 足音が聞こえない。

 あぁ、耳が、聞こえてない。全力疾走した後みたいになってる。あの距離で足音が聞こえないのはおかしい。

 言いかけたのではなく、何か言ってたのかもしれない。ヒロインの口は動いてた。私の耳が聞こえてない。

 葉擦れの音や鳥の鳴き声、そんないつも聞こえてるはずの音もいつの間にかしない。

 ……呼吸を。深く。吸う方よりも吐く方に意識を向けろ。

 大丈夫。大丈夫だ。まだ、死ぬのは、卒業パーティーの日。まだ生きてる。ここはまだ、私が生きてても許される世界だ。悲惨な目になんて合わない。

 息を吐き切れ。


「やー実に興味深いお話してるようで。是非俺にも聞かせてもらえませんかね? 深窓の御令嬢の耳を汚さない場所で」


 良かった。聞こえた。環境音も復活した。

 ただ、——駆けつけてきた護衛その2が指で校舎側を指し示しながら笑顔で言ったその言葉は、なぜか『お前ら場所考えろやコラ』と言ってるように聞こえた。朝そんなセリフを聞いたからかもしれない。


 先生はこっちを見て、痛ましそうな表情になって、私の呼吸を落ち着かせてくれる時と同じ、背中側の肺の位置に手を置いてくれた。

 ヒロインは不思議そうな顔でこっちを見て、それから慌てた顔で口に手をやった。うん、そんな顔も可愛い。


「マリー様、このバカどもは俺が連れてくんでもう大丈夫ですよ。後で殿下がこっち来ますんで。さっき聞いたことは綺麗さっぱり忘れて殿下とこの前の話でもして上書きしてもらってください」


 ――今、先生とヒロインのこと、バカどもって言わなかった?

 護衛その2は、言いながら先生を私から引き剥がし(?)、テーブルを回り込んでヒロインを立たせると、そのまま二人の腕を掴んで二人を連れ去った。


「ちょっと、あのマリー様とアーサー様を二人にするとか正気!?」

「今のアンタらより殿下の方がマシってことです」

「私の方が!」

「少なくとも殿下は使用人をバカにしたりしないんでね」

「してないわ!」

「自覚がなくてもしたんですよアンタは。特にレディーズ・メイドをバカにするとか正気ですか」

「何?!」

「おい先生、このバカ基礎からやり直させろ」

「私の担当ではありませんが、先ほどから目に余りますね」



 何、あれ。


「……嵐、みたいでしたね」

 突然来て突然去る、みたいな。

 そう呟いてみて、声が震えたことに気づく。

「あ……」

 喉に手をやろうとして、さっきまで先生の手に置いていた手を見る。

 メイドが「お嬢様」といたわるような声をかけてくれる。

 メイドの方を向くと、心配そうな表情だった。

「殿下がいらっしゃるまで、私と一昨日の話をしましょう」

 それは――どの話だろうか。先生の怪我のこと? 怪我をするに至った経緯なら、話したくない。あんまり、考えたくない。

「私もあのオペラ、小さい頃に見たことがあるんです」

 じゃああれ、本当に有名なオペラなんだ。

 なんだか頭に靄がかかったみたいだけど、それでもオペラの話なら、私も歓迎だ。それなら泣きそうになんてならない。

 だからそうやって、ぎこちないながらもオペラについて二人で話し始めて、少しした頃。

 さっきの護衛その2の足音よりも軽いけど、同じように急いでるらしい足音にそちらを向くと、殿下がやっぱりダッシュでこっちに来てる。

 さっき先生がいた四阿の入り口まで来ると、殿下は立ったまま膝に手をついた。肩で息をする、という状態をまさに体現した感じだ。

「悪い、遅くなった」

 漫画だったら『ぜえはぁ』とか擬音語がつきそうな呼吸の合間に、そう言われて、私はぽかんとした。

 そういえば、同席するって言ってくれたっけ。

「いえ、あの、大丈夫ですか?」

「あぁ、……悪い、少し――運動不足で」

 殿下が視線を彷徨わせながら上体を起こし、流れる汗が伝う顎を拭った。

「ユニウスは、騎士の中で一番、足が速いんだ。だから……、いや、これじゃ言い訳だけど……」

 あの人やっぱ王国最強なんだ。

「生徒会室からだと、ここは少し遠くて……うん、これも言い訳か」

 深呼吸なのか溜息なのか、深く息を吐いてから、殿下はやっとこっちを見た。

「キャロル嬢に勝手に触られたりしなかったか」

「……はい」

 ちょっと近くて怖かったが、触られてはない。

「あぁいや、違う、その……同席すると言ったのに、すまなかった」

「いえ、生徒会室にいらっしゃると伺いました。私の方こそ、その、……急に思い立って行動してしまって。……オペラが、楽しかったので、今ならできるかもと思って」

 殿下はちょっと笑った。

「複雑だな。楽しんでもらえたのは嬉しいが、無茶をされるのは困る」

「……年頃の、女の子とのお話が無茶になるとは思っていなかったのですが、……私には難しいみたいです」

 殿下はそれに笑った。笑わないようにと言う気遣いは感じ取れるけど、どうしても無理だったみたいな表情で。

「年頃って。それを言うなら同い年だろう?」

 ……そうだった。私の精神年齢がもうとっくにお婆ちゃんなもので、些細な言葉選びを間違う。この体はヒロインと同年齢だ。

 私も笑った。

「一対一でお話した同い年は、殿下だけでした」

 社交の場にも出ず引きこもっていた私には、スクールでしか同い年の子供と接する機会はなかった。そしてそのスクールでも、主に殿下の態度と私の性格故に私の評判は散々で、早々にクラスメイトとの交友を諦めて図書館通いを始めた。

 もちろん、些細なやり取りはある。その些細なやりとりがあるからこそ、日前の私はヒロインをいじめたことになったわけで。

 でも差し向かいで時間をかけてゆっくり話す、みたいなことは、私は殿下としかしてこなかった。

 その殿下との会話も、最初の頃は割と一方的で、護衛その2が現れてからは、彼がちょいちょい手伝ってくれるようになり、やっと双方向らしきものになってきたところだった。

 最近はまた、私が一方的に語り聞かせている感じもあるけど、あれは一応殿下のリクエストだから。

 心の中で誰にともなく言い訳を付け足す。

 殿下はなんだか少し顔を赤くした。

 いやまって。今の中で怒る要素どこ。社交が足りないのは認めるけれども、私が誰かと仲良くするの見たくないって言ったのあなたですよね?


 ――いや待て。おかしくない?

 殿下の婚約者に求められるのは、一にも二にも社交のはずでは?

 どんなに知識を積み重ね技術を磨いたところで、上には上がいる。突出した才能は、血を選ばない。

 だから貴族は実務をこなす人間を雇う。

 だからこそ替えの効かない貴族自身が何を行うかといえば、それは社交だ。

 だから平民のヒロインが王子様の婚約者になれる。

 愛嬌で。優しさで。思いやりで。芯の強さで。

 それは社交の武器だ。そして後天的に身につけるのはとても難しい。

 だからそのオンリーワンな魅力で、乙女ゲームではヒロインが王子妃にまで駆け上がるんだろう。

 だから平民を婚約者に据えるなんてタブーを、王子がしても許されるのだ。

 鎖国ができる立地条件でなければ欠かすことのできない外交。

 王家への忠誠心を高めるのに必要な慰問。

 実務能力よりも、人間性がアドバンテージになり得る場が多くあるからこそ。


 なのに、殿下は私に社交を求めない。

 私はそれがありがたかった。

 だからこのおかしさを見落としていたのだろうか。


 だとしたら殿下は怒っているのではなく、恥じているのかもしれない。

 殿下はまともな人だから、もしかしたら私が、殿下の命令を律儀に守って、同年代と会話することが無茶だと思えるくらいに、社交能力に問題ありな人間になったことを悔いているのかもしれない。

 

 私は元々こんな人間だ。

 人の顔と名前を覚えられず、仲良くなれたと思った後には、いつも雑に扱われて疲弊する。

 人と接するのはとても疲れる。だから一人が楽で落ち着く。


 だから殿下が悔やむ必要はないのだけれど、私は反省するべきだよね。

 優しさに甘えて、殿下に見えない場所での社交すらしてこなかった。

 お母様について、オペラに行ってみるのも良いかもしれない。

「……オペラ、本当に、ありがとうございました」

「ああ……うん。また。今度は他の演目も、どうかな」

 私はお礼を言ってから、殿下に座ってもらった。

「次はどんな演目が良い?」 

「あ……もし……子供向けの恋物語があれば」

 男の子たちには退屈かもしれないが、一応あの女の子への詫びとしてやっているから、女の子が楽しめそうなものをリクエストしておこう。

 でもオペラって日前の知識だと悲恋物が多いイメージなんだよね。

 やっぱり難しいのか、殿下は固まっている。

 なんて言うか、返事がないっていうレベルじゃなくて、あの怖い笑顔じゃないだけマシなんだけど、静止画みたいに固まってる。

「あの、難しいようであれば、殿下にお任せしたいです」

 別に恋物語じゃなくても満足してくれたわけだし。

「……それは恋愛の恋、であってる?」

 殿下は何故か、物凄く懐疑的な表情と声でそう訊いてきた。

「え? あ、はい」

「興味が出てきた?」

「ええ。オペラは楽しいです」

 メイドとセキュアさんがほぼ同時に咳払いをした。……何か変なこと言った?

 ならええと、話題を変えて……

「子供向けの作品は、教訓、のあるものが多いのに、幸せな結末を選んでいただけたので、とても感謝しています」

「ああ」

 殿下は少し、おかしそうに笑った。よし。話題転換成功。

「それは、マ……、君が言ったんじゃないか」

 え?

「子供向けの演目が良いって言われたら、そういったものを選んだかも。でも『子供でも楽しめるもの』と言っただろう?」

 ……そうだったっけ。

「教訓も確かに大切だと思う。でも僕は、やっぱりハッピーエンドの方が、楽しかったって言える」

「わかります」

 我が意を得たりとばかりに頷く殿下に、私も同じように大きく頷く。

「良いよね、ハッピーエンド」

「はい。……すごく、そう、思います」

 三文小説と言われようが、浅いと言われようが。

 物語はハッピーエンドが良い。

 不幸なんて現実にありふれているんだから。架空の世界くらい、バカみたいに幸せな結末がほしい。

「――ぃ」

「え?」

 殿下が何か言ったけど聞き取れない。小声すぎて。

「あ、いや。なんでもないんだ。これも、……家族に言うと、子供みたいって顔されるんだけどね」

「……まぁ」

 同じすぎて笑える。でもきっと、殿下の家族は、私の日前の家族みたいに嘲弄ではなく、きっと微笑ましく思ってるんだと思う。

 良いじゃないか。ハッピーエンド。何より、王子という立場の人が、それを好きだと言ってくれるのは、すごく希望が持てる。きっとこの国の未来も大丈夫って、根拠もなく信じられる。

「私も、ハッピーエンドが大好きですわ」

 あんなに文句のつけようもないハッピーエンドを見つけてくれるとは思ってなかった。

 私のあんな言葉尻をちゃんと捉えて、選んでくれたのは本当に嬉しい。

「ごめんちょっと待って」

 ……殿下がまた顔を手で覆ってる。

 まぁ別に、授業までまだ時間あるし、待つのは全然構わないけど。

「あ、あの、それと、殿下、あの時は、御手を強く握ってしまってすみませんでした」

「――言い方!」

 ……怒鳴られた。なんで。最近なかったのに。私そんな悪いこと言った? 言い方って、ちゃんと敬語を……

 こう言う時、いつも代弁してくれるはずのセキュアさんをついつい見てしまうと、顔を逸らされた。

 え。私ほんとになんかまずいこと言った?

 メイドを見ると、非常に困った顔をしていた。あとなんか耳が赤くなってる。

 ……朝先生を睨んでた時のあの顔と比較すると、怒ってるわけではないと思うんだけども……

 だって帰り際に思いっきり手を握っちゃって、痛くなかったかと思って……それを自然に離させてくれた、お礼も言いたかったんだけど。

「……あの、すみません。その、痛く」

「ちょっと黙ってて!」

 ……何で。だって会話が必要って。殿下もいったのに。

 って、やばい。なんかこれあれだ。メンヘラな部分が出始めてる。やばいやばいやばい。

 ちょっと深呼吸しよう。黙ってろって言われたし。

 深呼吸の数が10回を超えたか超えないかくらいで、殿下は小さく「怒鳴ってごめん」と言ってくれた。

 ほっとして息を吐く。

「だけど」

 だけど。えっと、つまりお怒りではあると言うことだよね。

「僕が言えた立場じゃないのは分かってるけど、誤解されそうな発言はしないでほしい」

「誤解」

 鸚鵡返しすると、殿下はやっと顔を覆っている手を外してこっちを向いた。

 なんか怒ってるような疲れたような顔をしてる。

「……ノートン。これは僕が穢れてるせい?」

「殿下はどこも汚く」

「君は黙ってて」

 ……はい。うん、確かに、殿下が名指しした人との会話に口を挟むのはマナー違反だった。

 でもだってなんかこの前から妙に殿下が自分のこと変に罵ってるからちょっと気になって……。

「ノートン?」

 殿下が横目にセキュアさんの方を見る。

 殿下の再度の問いかけに、セキュアさんは非常に追い詰められた表情をした後、目を閉じて諦めたように首を左右に振った。

 まぁ殿下が汚いわけがないので。

「だよね。……僕がなんで怒鳴ったか分かってないなら」

 ……うん。

「君はこれからも僕以外と話さない方が良いよ」

 ……なんかヤンデレ彼氏みたいなこと言い始めたけどどうしました?

 さっきまで私が社交してないことに対して責任を感じてたはずでは?

 殿下はちょっと大きめに息を吸うと。

「一昨日のオペラの帰り、馬車を降りる際に、体勢を崩してしまった君を支えようとした僕の手を少し強めに掴んだことなら、全然平気だから気にしなくて良いよ」

 さっきまでより大きめの声量で、妙に通る声でそう言った。説明口調がちょっと気になる。しかもちょっと事実と異なる。

 私の納得しかねるという心のうちが表情に出ていたのか、殿下はため息を吐いた。

「君は恋愛小説は読まないと言ったけど、少し読んでみたら良いんじゃないかな。子供向けではなく年齢に見合ったものを」

「……でもあの、……共感できないので興味が」

 それに年齢に見合ったものって私が気持ち悪くなりそうなことを匂わせる描写とかありそうですごく嫌だ。

「自衛のために」

 じえいって自衛で合ってる? 恋愛小説が自衛ってなんの禅問答? 恋愛小説って大抵浮ついたものでは?

「……ノートン、子供をいじめてる気分になってきた」

「……ユニウス殿に相談しておきます」

「お願い。それと一応聞くけど――想像してないよね?」

 セキュアさんがすごい勢いで首を振った。あとちょっと離れたところにいる殿下の他のお付きの人たちも。

「良かった。知ってると思うけど、僕は心が狭いから。――どうなるかわかってるだろうな」

 言葉自体は疑問のはずが、イントネーションが疑問じゃなくて命令に近い。

 っていうか言葉尻が私に対するものだ。殿下は普段、私以外にこういうきつい言い方をしない。

 顔はこっちを向いてないけど、言われてるのは私? 私なのか? 何を想像?

 私が脂汗を滲ませながら、回転の鈍い頭を必死で働かせようとしていると、セキュアさんをはじめ、殿下のお付きの人たちが、一斉に跪いた。

 ……最敬礼だ。

 不安になってメイドの方を向く。ちょっと手招いて寄ってもらう。

「私も、したほうがいいですか……?」

 メイドは何か致命的な失態を犯したみたいな顔をしたまま、そっと頭を振って否定を示した。

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