私と義弟のお茶の時間とその顛末について。
結局あの後ヒロインは四阿に戻って来なくて、授業が始まり、今日は義弟がいるので放課後真っ直ぐ帰った。
あんまり収穫なかったような。もう1回なんとか機会を作るべきだろうか。
いつも帰宅すると真っ先に駆け寄ってくる義弟がいなかった。
先に着替えを済ませても音沙汰なし。
流石に心配になって、部屋を訪ねる事にした。
無理をしすぎて倒れていたらどうしようと思ったのだ。この前の顔色は明らかに青白かったし。
朝食の席では普通だったけど、人の体調なんていつ限界が来るか分からないから。
メイドがドアをノックすると、なんだか上の空な「はい」という返事が聞こえた。
義弟付きの使用人が内側からドアを開けてくれた。
初めて訪れた義弟の部屋は、恐ろしいほど殺風景だった。いや、整理整頓が行き届いた、というべきなのだろうけれど、何故かその部屋は殺風景に見えた。
その殺風景な部屋の中で、義弟は画布に向き合っていた。
「すごいな……」
「お姉様!? なんで――」
振り返った義弟は、驚いた顔で振り返ると、その画布を背中で隠すようにして立ち上がった。
耳が赤いから、多分見られたくなかったんだろう。これは先に謝るのが勝ちだ。
「……ごめん、もう見えちゃった」
義弟は複雑そうな顔で黙り込むと、諦めたようにソファを勧めてくれた。
「お父様の方の親戚のご令嬢?」
「え?」
「その髪色と瞳の色は父方の家系だろう? 同年代のご令嬢がいたんだね。いつか会えると良いな」
私の交友関係の狭さと厄介な性格がネックで、親戚付き合いすらほとんどしてないが、義弟の方は貴族子弟らしくせっせと社交に力を入れているから、そこで知り合ったんだろう。
「……お姉様が鏡を見ればいつでも会えます」
呆れ気味の声音がらしくないと思いながら、絵から義弟に視線を向ける。せっせと絵筆を片付け始めている。
……鏡。ということはつまり……
「まさかこれ私?」
義弟は黙ったまま。ということはこの場合は多分肯定。
「いくらなんでも美化しすぎでは!? 家族の欲目にしたって限度があるだろう!」
「お姉様こそ姉の欲目が過ぎますよ! こんな絵よりもお姉様の方がずっと綺麗です!」
耳を擘く大音声に耳鳴りがした。
いや、うん、びっくりし過ぎて先にでかい声出したのは私だからそこは悪かった。
だけど、こいつは今も昔も、音量調整ド下手か。変なところ似ちゃったなぁ。
「……いや、絵自体は本当にすごいよ。私は芸術系の才能がないから、人物画をこんなふうに描けない。すごい才能だし、努力もしたんだろう」
「お姉様はダブスタ過ぎます」
ダブ……何て?
「……こんな華麗な美人にはなれないなぁ」
「お姉様はもっと百倍綺麗です」
こんな太陽みたいな明るい美人の足元にも及ばないと思うのだが。
「お前が描くと、この色味でも輝いて見える。それはすごいことなんじゃないかな……」
夜空に星が輝くみたいに、それをイラスト的じゃなくてちゃんと写実っぽく描けてる。
それに色味は夜なのに、受ける印象は太陽。
華麗と言ったけど、その華やかさは確かにあるんだけど、その言葉よりも柔らかい。
砂漠の太陽じゃなくて、小春日和の太陽のような柔らかさがある。
会ってみたいと言ったのは、きっと優しそうだと思ったから。
「お姉様が輝いているからです」
「……ふ」
義弟も来年は入学する。そこでヒロインに会う。暴言を吐くよりかは、多少チャラく思われても、褒め言葉の方が良いだろう。
「なんで笑うんですか」
「ごめん。いや、女性を褒めるのも立派なマナーだけど、入学したら私への褒め言葉は程々にした方が良い。姉離れできてないとか誤解を受けるから」
「……別に誤解じゃないから良いです」
「ありがとう。私は碌な義姉じゃなかったが、それでもそう言ってくれるお前が家族になってくれて助かったよ」
「……お姉様以上の姉なんてどこにもいません」
「そんなことはないよ。世界は広いんだ。上には上がいるし、下も際限がない」
「知ってます」
「それもそうか」
私より交友関係広いんだから。当たり前のことを言ってしまって恥ずかしい。
「それでも、僕にとってはお姉様が一番です」
「そういうところを治してほしいって話なんだけど」
「それは命令ですか」
「え?」
「筆頭公爵令嬢としての命令でしたら、たかが男爵家出身の僕は従うしかありません」
「……お前への命令は、私を名前で呼ばないことと、触らないこと。それだけだよ。他はお願い。別に従わなくたって、お前は男爵家出身の現公爵家令息であることに変わりはない。もしお父様の命令で、お前が不当に思うものがあったら言ってほしい。私なりに考えて、お前が正しいと思えば、私からお父様に交渉する」
「……誰とも結婚したくないって言ったら」
義弟は絵を見ながらそうぽそりと言った。
なんでメイドといい義弟といい、私の周りは私みたいなこと言い出すの?
「王女殿下との婚約なら、多分なんとかなると思う」
多分、断罪の日にヒロインの真横に立ってた人がその時のヒロインが選んだ相手のはず。義弟が真横に立ってたこともあったから、その場合、義弟はヒロインと結ばれて、私は断罪されて死んだから、別に公爵家の人間と王家の人間でどうしても婚約しなければならないってことはないはず。
「私が倒れたせいで悪かった。そこはお詫びになんとかするよ。だからあんまり思い詰めなくて良い。好きな人と結婚しなさい。相手が望んでくれたらだけど」
「絶対無理」
「……王女殿下はそんなにお前を気に入ってるのか? 断ったら内紛とか起きそうなくらい?」
「王女殿下が気に入ってるのはお姉様です!」
「……私会ってないんだけど」
拝謁は両陛下のみだった。王女殿下も王弟殿下もあの場にはいなかった。それに本来、王宮に出入りするはずの年齢になっても、今世ではお父様と先生と殿下のおかげで、私は家に引きこもっていることができた。
だからお会いする機会がなかった。
「お茶会で会うたびお姉様のことを訊かれます。あのご様子なら殿下へもそうでしょう。一方的に知ってる気分になってるんじゃないですか」
「それは……共通点として話題に出してるっていう可能性も」
「早くお義姉さまとお呼びしたいって会うたび言ってますけど」
「王女殿下がお前と結婚してもそう……」
っていうかそれ求婚では? やばくない? 王女殿下もヒロインのライバル的立ち位置?
「ありえません」
「あぁ、……うん、お前が嫌なら、断る方向で話を」
「あちらも嫌でしょうからそっちは簡単にまとまります」
「……さっき絶対無理って言わなかった?」
「好きな人と結婚の方です」
「あぁそっちか。……まぁ難しいだろうけど、絶対でもないんじゃないか?」
「僕が誰を好きか知らないくせに勝手なこと言わないでください」
言い方がちょっと酷くないか? 今度こそ反抗期? まぁ反抗期は自立のための一歩だからそれで良いんだけど。
あと知ってるよ。ヒロイン。
「そういえば、いつ出会ったんだ? お茶会?」
は、無理か。彼女は平民だし。てことは、観劇とかの行き帰りかな? 先に出逢ってるとかロマンチックだね。やっぱ王道ってやつか。
そんなことを頭の中で考えていると、「お姉様のばか!」と言われた。
あ、ああそうか、からかってるみたいに思われたのかも。
興味本位であれこれ聞くのは良くないよね。思春期にこういう内容で揶揄うのは非常に良くない。まともな恋愛に支障が出る可能性だってあるだろうし。
「今、なんと?」
……メイドが凶悪な声で聞いた。あなたそんな声出せたんです?
それと、護衛その1が鯉口を切った。
だから待ってそれ私の義弟であって曲者じゃないから!?
義弟付きの使用人が後ろで震えながら「坊っちゃん謝ってください早く!」とせっつく。
「ああええとごめん、今のは私が悪かった。デリカシーがなくてごめん。出直すから」
「えっ、違、待って、お姉様!」
引き止めてくる義弟に頭を振る。悪くないのに謝らなくて良い。なんだか臨戦態勢になってしまったメイドと護衛その1を促した。
退散しよう。
そういえば、もしかしてヒロインじゃなくて、護衛その1のことかな。私の入学式のエスコートのために、男装を披露してくれた日のことを思い出す。
ヒロインにまだ会ってないのだとしたら。
「……義弟のこと、どう思いますか」
すらりと背の高い護衛その1を見上げると、いつもの無表情が若干不愉快そうに顰められていた。
「許可さえ頂ければすぐに屋敷から叩き出します」
……ごめん、義弟。やっぱ絶対無理かもしんない。
文化祭……?
庭に出てきてくれた義弟とお茶の席を囲みながら、体調について聞いて、無理しないようにと伝えた。けれど義弟に「そんなことより」と切り出された話に、首を右に左に傾げた後、私は無意識に胸元のペンダントを握りしめた。
パッと思い出せないそのイベントは、あのノートに書き出したことがあったろうか?
いやでも、そうだよね。学園物の定番といえば、文化祭や運動会。
小さきは幼稚園保育園から、高校まで。大学でも学祭がある。
園児の頃のお遊戯会ではダンスにお芝居に音楽隊にと毎回何故か私は出番が多くて、当日のタイムテーブルを把握していなかった先生にどこにいたの! とお叱りを受けた記憶がある。さっきまで舞台上で踊ってたんですけど。
高校の頃は小芝居やったな。あとはダンスと、なんだったか。
ただ、フィクションの世界では定番の喫茶店は、保健所の許可が出ないからと中高経験しなかった。
確かにそう。衛生観念の微妙な子供達に、飲食物作らせるとか怖い以外の何ものでもない。
潔癖症気味だった私はそう思ってしまう。
さりとて、乙前の記憶がほぼないんだけども。
サボってたのかな。
「絶対に演劇は出ないでくださいね」
義弟に異様に真剣な表情で頼まれて、私は首を捻った。
貴族子女が何を出し物にするのか知らないが、多分そういうメインっぽい出し物に出るのは殿下とヒロインでは? という思いでちょっと返事を躊躇ってしまった。
というか、王子とお姫様という設定が多分お芝居では鉄板だと思うんだけど、この世界でもそうなんだろうか?
殿下が王子様役やるっていうのはなんかこう、アレでは? 王子が王子役するの?
それ役と言える?
ヒロインがお姫様役やるのはなんの異論もないんだけど。
「お……父様と、お母様に、聞いてみるよ」
そもそも拒否権ってあるの? 日前じゃ、高校時代の演劇は完全に多数決の他薦。お遊戯会に至っては先生が全部の役を決めてたんだけど。
「お姉様そんな出たがりじゃないでしょ?」
「……あぁまぁ、私は注目を集めるのが嫌いだからね。あのオペラもどきはお前の為だから例外だよ」
義弟はティーカップをがちゃんと置いて、急に咳き込んだ。
「やっぱり体調悪い?」
そういや紅茶ってカフェイン多いんだっけ。
赤い顔で頭を振る。
「本当に? 無理してない?」
「それお姉様にだけは言われたくないです」
「……私は別に、無理なんか」
「いつもしてます。だから倒れるんです」
……それ、お前が言うんだなぁ……。
目が熱くなってきて、私も項垂れた。
弟が、少しでも咳き込むと大袈裟なくらい心配する両親は、私が風邪を引いても見向きもしなかった。
無理して頑張ってたせい、だと自分では思った。雨の日の夜に外に追い出されたせいもあったかもしれない。それでも朝から家事をしていたせいだったと思う。
私の体調不良と弟の体調不良は全く違ったらしい。それでも、小さい子供にとってその仕打ちはどうしようもなく辛かった。
辛さを、無理してることを、わかってもらえるのはこんなにも嬉しい。
「僕がどんな気持ちだったかわかりますか。あんなのもう嫌です。お姉様がいなかったら、僕が生きてる意味なんかないのに」
「ちょっと待て」
自己憐憫に浸っていようとも、いくらなんでも聞き捨てならなかった。
「生きてる意味めちゃくちゃあるから。私がいなくなったら尚更」
公爵家の跡取り大事よ。
「嫌です。お姉様がいなかったら僕に居場所なんてないです」
「……うん、わかった。お父様とお母様とは私が話をつける」
義弟がマナーもへったくれもない立ち上がり方をしてテーブルが動いた。
「お姉様!」
「何?」
「お父様たちに何を言うつもりですか」
「自分たちの都合で連れてきておいて居場所がないとか言わせた私たちがどう落とし前をつけるかについて話し合う」
「やめてください!」
「……大丈夫。今ちょっと言い方が汚かったけど、冷静に話し合うだけだから」
「絶対冷静じゃないですよね?! 目が据わってます!」
おっとやばい。私は悪役令嬢なので、きっととんでもない見た目になっていただろう。
「ごめん。怖がらせた」
「良いんです、それは良いんですけど! 意味が違うからお父様たちに話すのはやめてください!」
「意味?」
「僕が言いたかったのは――お姉様が、いてくれないと……生きてて、楽しくないんです」
言い辛そうに言い始めて、それから言葉を探すように視線を彷徨わせて、結局なんだか諦めたような感じでそう言った。
……それはなんだ、生き甲斐ってこと?
そう言うのって孫に対して思うのでは?
「……あんまり、楽しませてやれた覚えはないんだけど」
「いてくれるだけで良いんです」
そんな泣き笑いみたいな顔で言われても。早く来年にならないかな。お願いヒロイン、早くこの子を救ってほしい。
何を言うべきか悩みながら他力本願なことを考えている私に、義弟は明らか無理してるとわかる顔で笑ってから、かなり強引に話題を変えた。
「お姉様にお願いがあります」
「……演劇は、お父様とお母様に聞いてみるから」
「もう一つあります」
いてくれるだけで良いとか言いながら要求多いな。
と、最低なことが頭を過ぎる。
「ダンス、2曲でやめて下さいね」
――……ん?
そういえば中学の時の文化祭、締めのキャンプファイヤーの周りで学年別にフォークダンスやらされた記憶が蘇る。
お披露目の時に殿下に逆側に回るかも、と言ったのは実体験だ。私の中学時代、あの学年では女子が多くて男子が足りない分、男性教師が補っていた。
私とダンスは致命的に相性が悪い。ジャズダンスとかは大丈夫なんだけど(なんなら褒められたし評価も良かった)、やっぱりどうしても接触のあるのはダメだった。
ひたすらフラッシュバックの恐怖に怯えながら耐えていた時に、ちょうど教師と踊るタイミングでしくじってターンする方向を間違えた私に「逆側だ」と。
多分普通に生徒同士ならされない注意をされてしまった。
はい現実逃避の閑話休題。
文化祭最終日の締めはダンスパーティーだったらしい。
勿論ここが推定乙女ゲームの世界であるからには、フォークダンスとかじゃなくて本格的な。
服装も正装。制服は準正装扱いだからいけると思ったら、ダメなんだとか。
まぁ私が愛用している制服のタイプは、丈はあるけど踊るには布が微妙に横に足りない気もするし、ヒロインが愛用しているタイプは丈も横も足りないだろう。アレでくるくる回ったら確実に中が見える。
中学の文化祭ですら、最終日はキャンプファイヤーの明かりが映える夕方から夜にかけてだった。
と言うことは当然乙女ゲームのこの世界では、露出なしでいけるデイ・ドレスではなく、肌見せありの……いわゆる、乙女ゲームを題材にした小説の挿絵や漫画でよく見るタイプの、腕丸出しで襟ぐりの開いたあのドレスなのでは……?
あれで? 踊るの? この私が?
この前の殿下が贈ってくれたドレスはデイ・ドレスだった。私への誕生日プレゼントに髪留めをチョイスしてくれるほど私を良く見ててくれる殿下は、ドレスもちゃんと露出のないものを選んでくれた。
え、待って。どうしよう。
イブニングドレスで露出なしはむしろマナー違反だ。
無理だ。それで踊るの? 手袋ありでもあの有様だったのに?!
「……あの」
「はい」
自室に引っ込んだ私の唐突な呟きみたいな声にも、メイドはちゃんと反応してくれた。
「スクールの文化祭のダンスって、……義務ですか?」
「……はい」
「自由参加ではありません」
「……最低、2曲は必須で、一応、その後休憩しても大丈夫ですが、大抵の方は5回以上踊ります」
すっぽかせないってことか。
返事まで間が開いたメイドも、護衛が口挟むのも珍しいなって思いつつ、つまり参加は強制。
うん、無理。
私は虚な声でお礼を言って、引き出しから久しぶりにレターセットを取り出すと、脇目も振らずにペンを走らせた。
スクールで先生に手渡すと物議を醸しそうなので、メイドにお願いした。幸い文化祭までまだ時間もある。
「……お嬢様、ダンスのお誘いは基本男性からで……」
当然のことを言われて驚いた。え、なに? なんでそんな顔……
「――違いますよ!?」
それ先生にダンスの相手をお願いする手紙じゃないから!
「え、違うんですか?」
逆になんでそう思うんです!? 入学式のエスコート頼もうとしてたから!?
ちゃんとあれは厚かましかったって反省したよ!? そこまで学習能力ゼロじゃないから!
「ダンスの逃げ道を聞こうと思ったんです……」
先生の頭の良さならワンチャンこう、裏技的な……?
メイドは一瞬ほっとしたような風情を見せたが、その後なんだか多分に同情的な表情になった。
ちゃんと婚約者もいるのに逃げようとする私が哀れだった?
逆に全力で逃げを打とうとする婚約者を持った殿下が可哀想だった?
それとも、頭の良さをそんなことに使われようとしてる先生に同情したとか?
いやほら、先生は無理なものはちゃんと断ってくれるし。本音を書いてスッキリしたかったのが大部分を占めるというか。
中身はほぼ愚痴である。
この前の殿下とのオペラは楽しかったけどエスコートはやっぱりどうしてもおまじないがないと耐えられそうにないこと、あと消毒(って言って良いのかわからないけど)してもらえて本当に助かったと言うお礼と、文化祭でイブニングドレス姿でダンスするのは考えただけで冷や汗が出ること、だからもし義務でどうしようもないなら大変申し訳ないのだけれどもやっぱりおまじないをお願いしたいことと(あとできたら消毒も)、校則の抜け穴みたいなのはないかと言うことを、迂遠に遠回りして回りくどく書いた。
っていうか書いてる途中で気づいたよね。だからこのタイミングで退学させようとしてくれたのかなって。
私にダンス2回とかね……苦しませたくないって思ってくれてたんじゃないかなって。
今になって両親の優しさに気付く。
私は本当に、人の優しさを踏み躙ってばかりだ。気づけず踏み躙っておいて、自己憐憫に浸るとか、本当に悪役以外の何者でもない。
翌日の朝食の席で、私はお父様とお母様に、文化祭の出し物はどのような感じで決まり、またもし演劇があるのであれば、役の選出方法とその拒否権について尋ねた。
「演劇が嫌なの?」
違う。
お父様の優しい微笑みと問いかけに、私は頭を振った。
嫌とは言ってない。そもそも断れるのかについて訊こうと思った。義弟は出てほしくないと言っていたけども、ここはなんかはっきりさせておかないとダメな気がした。
お父様とお母様は私に激甘である。親の心子知らずな私の意見をホイホイ聞いてくれちゃうところがあるので。下手したら演劇自体出し物から抹消されかねない。
何せお父様はスクールへの影響力が半端ないので。
殿下とヒロインの演劇は見たいじゃないか。ヒロインはあの通り可愛いし、殿下も攻略対象であるからには多分スーパーヒーローなので、演劇だって上手いはずだ。
漫画や小説だと恋が芽生えたりもする。
それを期待してもいた。
正直、殿下と2曲続けて踊るのは、私のメンタルが危ういので、何卒ヒロインと1曲踊っていただきたい、と言う下心もあった。
だからって殿下以外の誰かと1曲踊る気力はもっとないのだが。殿下は信頼できる。予め決められた箇所以外に触れたりしないと信じられる。だから、……本当は殿下と2曲、と言うのが、私にとっては一番マシなのだろうけれども。
殿下のことは好きか嫌いかと問われれば今は間違いなく好きだと答える。だけど私の中のこれは好悪とは関係がないらしい。
殿下と楽しく出かけた直後でもアレだったのだ。
「役決めは自薦・他薦問わずの公募よ」
お母様が教えてくれた。
メイドも護衛もスクールの卒業生だが、現在でも来賓として招かれているお父様とお母様の方が詳しかろうと言うことで、聞いたのは当たりだった。
「脚本は予め決まっているの」
え、そうなんだ?
お母様と、お父様によると、代々1年・2年・3年と受け継がれていく演目があるそうだ。
何もかも手探りな1年生には簡単な演目が指定されている。
クラス単位ではなく、学年単位なのだそうだ。
それなら大丈夫かな。1学年100人以上いるわけだし、私みたいな友達付き合いのない人間は選ばれない。殿下とヒロインはきっと出るのだろうし、今から楽しみだ。




