飛びます
誤字報告、感想をありがとうございます!
この辺からちょいちょい時間が飛んで行きます。
おはようございます。
まだ夜なので天気は分かりません。
寝返りうったら床が固くて起きた俺です。
夕べは二ヶ月半の演習最後の日だったので、早めにダンジョンから引き上げて、ワイワイと夕飯を皆で作り、大いに食べてアールスハインのベッドで寝たはずなんだけど?
今、身を起こして座ってる場所は木の床です。
そして目の前には両手を下向きに広げ、仁王立ちで牙を剥く、レッサーパンダ?
手足が短く、色合いが微妙に違うような気もするけど、暗くて分かりづらい。
前世の甥っ子達を連れて動物園で見た、レッサーパンダそっくりの生き物に、全力で威嚇されてる模様。
大きさは俺と同サイズ。座ってるから俺の方が目線は下だけどね。
薄ボンヤリとした照明に照らされて、
「ヤー、ヤーヤヤー!」
とか吠えてる。
それは鳴き声ですか?
妙にファンシーで可愛らしい生き物である。
眺めるだけで一向に反応しない俺に、レッサーパンダは根負けしたのか、威嚇を止めてちょっとだけ近付いて匂いを嗅いでいる。
俺は改めて自分の状況を整理しようと、周りを見回した。
フム、檻に入れられておりますな!
ボンヤリした照明では部屋の隅々までは見えないけど、結構な広さの部屋である。
埃っぽく床のザラザラ加減から、あまり良い建物では無い様子。
高位な屋敷ほど床がツルツルになるからね。
周りには他にも大小様々な檻があり、全ての檻の中に何かの生き物が入れられている。
そこら中から唸り声や叫び声が聞こえてくる。
糞尿も放置されているのか凄く臭い。
状況から考えて、誘拐されたようです?
ただし妖獣として。
獣扱いはとても不本意。
学園の部屋で寝た記憶があるので、学園関係者の仕業?目的は?
全くわからない事ばかりなので、取り敢えず部屋全体に洗浄の魔法を掛ける。
ブワンと空気の震える気配の後、匂いが収まる。
と同時に獣達の声も収まった。
その時パキンパキンと軽い音がして、首の辺りから何かが落ちた。
見れば首輪。小さくライトの魔法をつけて、まじまじと観察すると、首輪の裏に魔法陣。
魔法の阻害効果のある魔道具らしいよ。
何故か普通に魔法を使っただけで壊れましたけど?弱くない?
ライトで照らされた檻の床にも魔法陣。
こっちも魔法の阻害効果で、ど真ん中に亀裂が入っている。弱くない?
鍵は閂のような簡単な物なので、サクッと開けて檻の外へ。
あまりに簡単に脱出出来てしまったので、馬鹿にされてる気がしてきた。
ちょっと俺の事侮り過ぎじゃね?
檻の外を歩いていると、服の尻の辺りを引っ張られる。
見ればレッサーパンダが、尻の辺りの布を咥えて付いてきてる。
俺が止まると、
「ヤーヤ?」
キョトン顔で見上げてくる。
可愛いけどなんなの?
まあ気にせず進むけど。
通り過ぎるごとに檻の中の獣が檻越しにチラ見してくる。
害が無い存在と思われてますな!
ちょっとライトを強くして周りをよく見る。
窓は高い位置に数ヶ所、部屋の広さは体育館くらい、柱が等間隔に並んで、半分くらいの場所を、汚い布で仕切られていて、奥の方の獣はなんと魔物でした!
グルガル言ってるのをスルーして、更に奥に進むと、一つだけ隔離するように離れた位置に、ちょっと他よりも豪華?頑丈そうな檻があり、その中の獣を見てみたら、なんと!もはや懐かしさすら感じる元聖女が、ガーガーイビキをかいて大の字で寝てた!
何でここに?それにしても獣、魔物扱いって!笑うしかないね!
元聖女の檻の奥に扉を発見。
当然ながら鍵がかかってて開かない。
フワンと飛んで窓の外を見ると、この建物が森の中にあり、半地下の建物であることが分かる。
月の光で外の方が明るい。
見える範囲に人影は無い。
下に降りるとレッサーパンダがプルプル震えながら待っていて、降りた途端しがみつかれた。
自分と体格の変わらない奴にしがみつかれてしまったので、転びはしなかったけど前が見えない。
仕方無いので背中を擦ってポンポンしてやると、落ち着いたのか、ちょっと離れてまた威嚇のポーズをされました。
「ヤヤー、ヤヤヤ!」
うん、可愛いだけですな。
誰が何の目的で集めたのかは分からないけど、檻の中の獣達は、皆結構な魔力を持っていそう。
って事は、また元女神関係?
最近は大人しかったし、魔道具の事も魔王の事も阻止出来たので、油断してたかな?
だが、奴に俺を誘拐する実力と知恵が有るとは思えない。
キャベンディッシュやその取り巻き達も、あまり賢そうな奴は居なかった事から考えて、新たな協力者が出来たのだろうか?
このまま捕まったふりで、相手の出方を見る?
それともさっさと脱出しちゃう?
さてどうしましょう?
色々考えてみたけど、兎に角眠い!
幼児な体は睡眠を求めております!
なので考えるのは起きてからにしよう。
元の檻まで戻り、集められた妖獣だけサクッと解放し、部屋の奥で一塊になって、バリアで安全確保してモフモフに囲まれて寝ました。
再びのおはようございます。
バリアをバンバン叩かれる感覚で起こされました。
まだ眠いのに。
目を擦りながら周りを見れば、モフモフに埋もれてました。
様々なモフモフは、同じ方向を見て其々に威嚇のポーズを取っている。
威嚇のポーズも、動物によって違うのね。
呑気に観察しながら、威嚇先を見れば、いかにも三下っぽい奴等四人が、何度もバリアに弾かれながら、バリアを壊そうと奮闘してて、なんだか間抜けね。
遮音を解けば、
「くそ、なんだよこのバリア!?」
「知らねーよ!それよりも早くこいつら檻に戻さねーと、俺らがヤバイぞ!」
「わかってるっつーの!だから今壊そうとしてんだろーが!」
「おい、全然壊れねーんだけど、どうする?」
「………………はあー、しょうがねー、上に報告してこい!」
「お、俺は嫌だからな!昨夜の見張りはお前なんだから、お前が行けよ!」
「くそっ!分かったよ!何だよ、魔道具が有るから、見張りは最小限で良いって話だったろーが!?」
ブツブツ言いながら一人が離れて行くと、バリアへの攻撃が止まり、残りの三人が話し出した。
「だいたいよー、さっさとこいつら売っぱらっちまった方が早いだろー?何でこんな倉庫まで用意して溜めとくんだよ?」
「さーなー、なんか実験に使うとかで、魔力の多い奴を兎に角集めろって話らしいぜ?」
「実験?ろくでもねー匂いしかしねーなー?」
「まあ、俺等は金さえ貰えりゃ、どんな実験しようが構わねーけど」
「だけどよ、その金はちゃんと払って貰えるんだろーな?まだろくに前金も貰ってねーって話じゃねーか?」
「そん時はそん時で、こいつらを売っぱらっちまえば良いだろう?この場所は奴等には知らせてねーんだし」
「あー、頭はその辺用心深いからなー」
「だろ?だから、どっちにしても俺等に損はねーって話さ」
「ふーん、なら良いけどよ!でもその依頼主って誰だよ?」
「さーな、俺も詳しくは知らねーけど、何でも腕の良い魔道具職人だって話だぞ?」
「はあ?腕の良い魔道具職人なら、何で俺等に依頼が来んだよ?城に囲われてる魔道具職人なら、素材に困る事なんてねーだろ?」
「だから、腕は良いが、頭がイカれてて、ヤバイ魔道具ばっかり作ろうとして、城を追い出された奴なんだよ!」
「あー、それなら分かるけどよ、でもそんなヤバくて城から追い出された奴が、金持ってんのかよ?」
「そこはほら、ヤバイ奴には、ヤバイ権力者が目を付けて、金を出してんじゃねーの?」
「ふえー、ろくなことにならねーだろーなー?」
「あの頭のイカれた女もその実験に使われんだろーなー、実験に使われる前に、俺等に使わしてくんねーかなー?」
「フヒヒッ、確かに!頭はイカれてるけど、見た目はそこそこ良いからなー!」
「いやー、あのイカれた女は止めといた方が良いと思うぞ?全然言葉が通じねーって話だし、起こした途端、暴れるし喚くし、えらい目に合うらしい」
「あーそりゃ面倒だ!」
「いやいや、そーゆーのを押さえ付けて無理矢理ってのが良いんだろー?」
「うわっ出たよ!鬼畜!」
とても下品で聞くに耐えない話になってきたので、また遮音をして暫く考える。
城から追い出された魔道具職人とは、前にテイルスミヤ長官が言ってた人物の事だろう。
調査の結果、行方不明で消息不明だった人物だ。
そいつが依頼主なら、間違いなく元女神も関わっているだろうし、もう少し様子を見るべき?
俺をどうやって拐ったか、方法は分からないけど、魔道具の性能といい、檻の強度といい、俺を完全に侮っている様子から、脱出は何時でも出来るだろうし。
バリア内が安全と分かっているのか、妖獣達は寛ぎ始めてるし、どーしよっかなーと悩んでいると、バリアの外にいた三下達がワタワタと動き出したので、また遮音を解いて聞いてみると、
「頭!これです!このバリアが全く破れねーんでさー」
「使えねー糞共が!こんなもんはこうやって!」
頭と呼ばれた大男が、巨大な斧を振り上げて勢いよく振り下ろす。
だが俺のバリアは反撃バリア、ボヨンと受けて同じ強さで跳ね返す。
結果派手にひっくり返って後頭部を強打する頭。
「オグウウウウウ」
とか言ってのたうち回っている。
ちょっと面白い。
暫く悶えた後に、漸く起き上がって、バリアを確かめる頭。
「おい、このバリアを張ったのは、どの獣だ?それが分かれば弱点もわかんだろうが!」
「いや、それが、朝来たらこの様で、どの獣の仕業かは分からねーんでさ」
「夜の見張りは何してた!?」
「それが、見回った時はなんともなって無かったんでさー」
「そんなわけあるか!こんだけの獣が動けば、音や鳴き声で気付くだろうが!テメーサボってやがったな?」
「いやいやいや、音なんかしなかったし、鳴き声は何時もの事で、昨日が特別五月蝿かったわけでもありやせんでした!魔道具が有るから、見張りは最小限でいいって言ったのは、頭じゃねーすか!」
「…………くそっ!どうすんだよ、こいつらの引き渡しは今夜なんだぞ!それまでに何とかしろ!」
「頭にどうにか出来ねーもんを、俺らがどうにか出来るわけねーじゃねーですかい!」
「チッ、まあいい、こんだけ強いバリアなら、すぐに魔力が尽きて解けんだろー、それまで目を離すんじゃねーぞ!バリアが解けたらすぐに檻に入れろ!取り敢えず、今夜の取引はあのイカれ女と魔物だけで何とか誤魔化す!分かったな!?」
「「「「へい!」」」」
話は纏まったようで、頭は部屋から出ていった。
取引は今夜だそうです。
バリアは、俺が任意で解くまで解けないけど、奴等が動く前に脱出して、尾行してみよう!
そうと決まれば今は特にすることも無いので、モフモフを堪能してみよう!
合間に聖魔法玉をあげれば、皆へそ天で撫でさせてくれる良い子達です。
然り気無く俺を見張りから隠してくれてるし!
俺は、自分の魔法玉を食っても腹は満たされなくて、ちょっとひもじい思いもしたけど、モフモフしたり、夜に備えて長目に昼寝したりして時間を潰した。
多くの感想を頂きました!ありがとうございます!
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