35 交渉
翌日、早速真君を誘って話をつけようと決心したのに、委員長に呼び止められて、放課後は文化祭のコンテストエントリーの為の写真撮りをすることになり、女装(?)する羽目となった。
男と勘違いしている私がエントリーするから、クラスの子達は繊細に扱ってくれる反面、煉の期待に応えたいと必死さえあった。
クラスの一部の女子に化粧までさせられて、委員長の指示であれこれとポーズをとらされたのだが、ここのいるのは数人の女子だけ。同じクラスであっても、当日までは私の女装のお目見えはないらしい。
そこまで秘密にしなきゃならないほど、可笑しな出来上がりなのだろか?だったら始めから可愛いもしくは美人の子を選べばよかったのに。と思ったことを委員長に聞いてみたら。
「他のクラスも似たり寄ったりで、エントリーした子の名前まで伏せている場合も多いわ。どんな服装でどのような仕様にするかは大体当日まで隠しているわよ。皆の反応を楽しみたいからね」
と、本当に楽しそうに満面な笑みを浮かべている様子は、優勝よりも楽しかったらいいのよ。といった感じだった。まぁ確かに文化祭は楽しんでこそのところはある。
「何人落とせるか本当に楽しみだわ」
ぼそりっ呟いた委員長の言葉に困惑し、なんだか何処かで見覚えのある、でも実際に自分が着たら恥ずかしい格好をさせられていても、平和なこの一時を見つめながら噛み締める。
出来ればずっとこの平和が続けばいいのに…
あ、いや、玩具にされるのは嫌だけど。
文化祭目前に近づけばおのずと忙しくなるのも必然で、私がというかクラスが落ち着いたのは文化祭の数日前だった。
喫茶店のメニューも決まり何度か練習をして食材の手配と内装の準備も、後は取り付けだけとなった。飾り付けや取り付けは前日にするから、後は本当に当日を待つばかり。
私のクラスは落ち着いたけど、他のクラスのことは知らない。真君は劇をすると言っていたけど手が空くのだろうか。
目前まで練習をしていそう。でも、通り魔も見つからない今の状況で、真君の協力は取り付けないと。
兎に角、真君に会いに行こうと一人で赴く。
「ようやく来てくださいましたね」
劇の練習をしてた真君のクラスを覗き込むと直ぐに僕を見つけた真君が飛びっきりの笑顔で迎えてくれた。
僕が来ることを知っていた風に―――どういうこと?
なんで私が来ることを予測していたのだろうと考えながら、休憩を入れるよ。とクラスメイト達に断りを入れた真君の後を付いて行った先は、校舎の影で余り手入れのされていない鬱蒼とした木々が多い繁る場所。
これ程大きなマンモス校だ、すべての手入れをするのは無理だろう。だけどこんな薄暗い場所があるなんて、あの中庭とは光と闇程に違う。
「あのさ、真君、さっき教室での言葉の確認なんだけど、僕が来ることが分かっていた?」
真君の言動は分かりにくいから、分からないことは聞いた方が良いと、本題切り出す前に訪ねることにした。それに対し、真君はクスリと笑みを浮かべるが、今までの無邪気な笑みと違ってどこか謎めいていた。
うわっ、なんだか変に色気があるよ。男の色気ではなく妖艶な感じの!これが同世代とは凄いなぁ、なんて見とれていたら。
「もうご存知なのでしょう?私が何者かということが。だったら返事など必要ないですね」
もう、手を隠すのを止めたのだろうか。簡単に白状してしまった。本当に真君は…謎な言葉を言ってみたり、そうかと思えばあっさりと…。
小さくため息をついて、色気に見とれていた気持ちを入れ替えて真君に向き直る。
何者か分かっているのなら返事は必要ないですかぁ、はぁ、作用でございますか。来ることが分かっていたというよりも、十二天将がかけた術の質まで理解して、誰にばれたかまでお見通しで、その上で来るのを待っていてくれていたんですね。
やっぱり前世が信長だけあって幼顔していても、どうどうとしている彼はどこかしら迫力があるな。
うまく話を進めることが出来るのかな、私。
真君は僕が十二天将を使って彼の従者である蘭さんに術をかけ、情報を引き出したことを掴んでいるということだ。だったら当初考えていた、何も知らないフリをして真君には霊力があるから邪塊をやっつける手助けをしてください。という安直に考えた手は使えないのかぁ。う~ん、本当にどうしよう…
「私に何か用事があったのでしょう?敵である私に会いに来るほどの」
いつまでも私が切り出してこないことに、真君が代わりに口にする。が、何処か楽しそうなのは、私を追い詰めたいと考えているのだろう。
対等に話し合いをしたいと思っていたけれど、それすら適いそうもない。それどころか、私の記憶が蘇ったことすら知っているみたいだし、これはこっちの方が分が悪い。
「あなたが十二天将と話し合っている現場は押さえています。記憶が戻ったのでしょう?」
私を追い詰めて楽しんでいると思ったのは、ゆっくりとだが私との間を詰めてきているからだ。
それに真君は言葉こそ丁寧だが、一人称が『僕』から『私』に変わっている。
信長が丁寧な言葉を話するなんてイメージじゃないから、そのうち口調も変わりそうだな…
それまでに話を進めないと、私が緊張しすぎて頭が回らなくなりそうだ。この雰囲気だと緊張だけですめばいいけど。
「嘘をついたり賭け引きしたりするのは苦手だから、正直に話すけど、まだ記憶が戻ったとはいえないんだ。あ…言えないです」
「いきなりどうしたのですか?『です』『ます』口調を使わなくてもいいですよ。前世はどうあれ今はあなたの後輩なのですから」
とは言ってもね…迫力が違うんです!その獲物をロックオンしたような眼で見ないで下さいよ。
「記憶が戻っていなくとも、十二天将達と親しくなるにはそれなりのことがあったはずですが、違いますか」
「え~と…」
記憶が戻っていないことに疑問を抱いている?ま、そりゃそうだよね。真君が信長だと知っているわけだし、何も知らない普通の高校生では通らないですよねー。
「僕の記憶は失ったままで、眞那の知識だけを少し吸収したって感じ…です」
彼に嘘をついても不利になるだけのような気がして、素直にありのままを教える。
「ふ~ん、で、私に用というのは、もしかして邪塊と関わりがありのでしょうか?」
「え!どうしてそれをっ!?」
というか私の記憶云々はほぼスルーですか?それにどうして邪塊のことまで。『邪塊』という名前は私達の間で付けた名だ。
敵であった真君が知るはずもない。どうして知っているのだろう?と疑問を抱き驚いていると、つと、真君が横に歩を進めた。距離が近くなるから私も真後ろじゃなく斜めに後ずさり同じ距離を保つ。
「情報提供者がいるものでね。驚くことじゃないですよ」
意地悪く微笑むそれは妖艶。内容を耳にしていなければ思わず見惚れてしまいそうになっただろう。
「…情報…提供者…?」
真君の視線が彼の後ろ上を指したので、僕もつられて見上げるが、そこのあるのは空間のみ。しかし眼を凝らしてそこを見つめると僅かな歪みが。
私の視線に気づいたようで、空間の歪みがスゥと消えてしまった。
「―――」
…ああ、情報提供者……なるほど。
私がそこに何があったのか僅かな表情から読み取った真君が。
「驚かないのですね」
と、意外そうに言う。
「別に……あ、いや、少しは驚いているけど、納得もします」
「そうですか。衝撃を受けると予想していたのですが、残念です」
何が残念なのでしょう?私に何を求めているのやら…流石は信長様、理解不能ですよ。苦笑いを浮かべていると、再び歩を前に進めて詰め寄ってくるので、その分私は後退する。
「さて、理解していただけたようで、交渉に入りましょうか?」
「え~と、交渉?」
「貴方は邪塊を倒すのに私が必要なのでしょう?」
「…あ、」
「私を説得にきたのではありませんか?」
「…そうでした」
話がそれたというよりも、気をそらされた為に本来の目的を攻略相手に教わることになるとは、私はなんて間抜けなんだろう。
ふうと細い息を吐き出し、気合を入れなおして「そこまで知っているのなら単刀直入に邪塊を倒す手伝いをお願いします」とかける言葉を浮かべ、気合と共に表情を引き締めよとしたとき、肩にトンという軽い衝撃があったと思ったら、背中にも物が当たる感覚が。
「?」
それに気づいたと同時に自分の目の前に影が出来てしまった。
いくら鬱蒼とした木々であっても太陽は昇っているのに、一気に視界が暗くなった。何が起きたのか?原因を探ろうと顔を上げれば―――
「!!――っ!」
真君の顔が直ぐに目の前にあり、その表情があまりにも妖艶で、二度吃驚してしまった。
い、い、一体いつ動いて僕の目の前に、そ、そ、そ、それもこんなに近くに近寄ったの??
彼の軽くウェーブのかかった前髪が僕の額に付くほどの距離で、ほぼ目線が同じ位置から瞳を覗き込まれている。
そのことに動揺して、心の言葉すらどもってしまう。
「――そ、そ、そんなに…近寄らなくても……話はできるでしょう?」
「そうですか?ですが交渉内容によっては、これぐらい近いほうが話を進めるのに丁度いいかと思いますね」
どんな交渉ですか!それはっ!!
と、言いたいのだけど、体制と言わせない圧力みたいなものを感じて、喉元でうぐうぐするだけ。
「貴方には隙だらけですね」
怪しく微笑んでくださるけれど、そういうのは私にじゃなく他の女の子にしたほうがいいと思うし、真君は前世で敵であっても、あの時代の背景がそうさせただけであって、憎む相手でもないし、まさかこんな展開になるなんて思ってないから、隙がどうこうなんていわれても。
「訳が分からないという顔をしていますね。では、純粋潔白の貴方に合わせて、含みなしでストレートに言いましょう」
はい、その方が助かります。頭を使うのは苦手なので。でも、何を言われるのだろうか?
「私のものになってください。それが条件です」
「…………は…?へ?………ものって……?」
主従のこと?家来になって欲しいのかな?
「本当にストレートでないと分からないのですね。鈍い…」
「ごめんなさい」
と謝るもの、分かっているのもあるよ?邪塊を倒す為の条件が、あなたの物になるというのは、だけどそれがどのような条件下なのか言っていないんだけど。それって僕が悪いのだろうか?
「分かりやすく言うと情人、恋人になって欲しいのです。貴方の全てを私にくれと言っているのです」
「ああ、なるほど!―――って、恋人!?情人!?私が!??」
面と向かってそんなこと言われたことないし、というか記憶が無いけれど、真君が何を求めているのか意味が分かって真っ赤になってしまう。
そんな意味だなんて……。
「反応が可愛いですね。顔をしかめた眞那とは違いすぎる」
この人、眞那にも言ったんだ。私はストレートに言って欲しいと願ったけど、他の女性に雰囲気もなしにこんなこと言われると、怒る人もいると思うよ。
それにしても、へぇ、眞那にも言ったんだ。敵である雲霧に求愛されていたと知っている。でもそれは政略であると伝わっている。言った台詞までの細かい記憶は受け継がれていない。
何百年、何千年も前のことなのに、それでも求めてくるってことは政略ではなくて雲霧は眞那のことが好きだったのかな?
長い年月思っているに対して悪いけど…
「僕は眞那じゃないんだけど」
見た目も違うし、記憶を失ってからでは多少の性格も変わっている。いわば別人。眞那を求められても私は違う。そういう意味で言ったのに。
「見れば分かるさ。それでも魂は同じだろう?」
あの、え~と、言葉使いがとうと変わっているんですがっ!それに私が言いたい意味が伝わっていない!見た目も性格も違う別人だといいたいのに、何?魂が同じ!?意味が分からない。そんなレベルで話されても困るよ。
うん?見た目も性格が違ってもいいってこと?私が言いたかった意味は通じているってことなのかな?でも彼は求めているのは眞那だよね?う~ん、分からない。
「再度言う。私のものになる、それが条件だ。肯定以外は聞き入れない」
貴方の騎士達よりも霊力が上の私が必要なのだろう。と耳元で囁かれ、考える余地なく私が選ぶ道は一つしかないのだと、強い意志を持った瞳で覗き込まれた。
…そう、…私には真君の力が…必要なんだ。…何をおいても……
誘導されるように知らず知らず頭が下がっていた。
怖っ!!信長、怖っ!!!私一人で来たのは間違いだったかも…と思い至った時は既に遅し、である。
手直ししてようやく新しいのを投稿できました。全て手直ししていますが、話の内容は変わっていません。
更新は遅くなると思いますが、思い出深い物なので、ラストを目指したいと思っています。




