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33 帰還



 もう嫌だ……


 授業中に天空たち聞いた内容に心底驚いて、声を上げそうになるのを堪えるために机に伏した。それを見た先生が、気分が悪いのなら保健室に行きなさいと言ってくれて、教室を出た後、誰もいない廊下を歩きながら遠慮無く唸りまくった。


 緑川さんが安倍晴明だということだけで、精一杯の頭なのに、真君が織田信長だって~~~っ何だよ!!それそんな聞きたくなかったよ。私はただ彼が「雲霧」かどうか知りたかっただけなのに…

 雲霧もかなり危険人物だと思ったけど、織田信長に繋がるんならなんとなく納得するところもある。でも…あの大人しそうな真君が、と考えると信じられない。


 どう説得したらいいものか……悩むところだ。

 他にも悩むことは、天空たちがやったことによって真君の出方だ。天空には幻影を見せることが出来る能力があるんだけど、真君のことを聞き出すときに蘭という女生徒に術をかけ、強固だったから無理やり聞き出したそうだ。それを感づかれたかも知れないという。誰の仕業かわからないから、今近寄ったら誰彼と真君は警戒するだろうなぁ。


 凄い人物過ぎて恐れ多い気もするけど、兎に角、幼い時分に前世を思い出して真君が精神崩壊していなくて良かったと思う。

 私には眞那の記憶の知識しか知らないけど、他の人達はあれから幾度となく転生して、違う人生を歩んでいたみたい。その重さに耐え抜いていってる彼らは本当に強い。

彼らの宿命を私は背負えるのだろうか?


「……」


 保健室に行くことなく、屋上でいつくるか分からない煉を待とうと思っているんだけど、彼も凄い人物だったら本当にどうしよう?ま、その前に、煉が来てくれているかどうかだけど。

 だけどその心配は必要なく、屋上に出る扉をゆっくりと深呼吸をしながら開けると、屋上の手すりにもたれながら遠くを眺めている煉の姿が目に入った。


「……」


 勾陳達は作られたような美貌でかっこいいけど、煉は本当に雰囲気からカッコよさがにじみ出ているよ。どうして、彼が私なんかを…と煉をみていると、釣り会わなさ過ぎて落ち込んでくる。

当時は鏡がなかったから与えられた記憶には眞那の姿を知る術はないけど、彼らの態度から想像するに絶世の美女だったのかな?


 暫く煉の姿に見とれていた私に彼のほうが気づいてくれて、「よう、久しぶり」と照れくさそうに目を伏せた。


「本当だよ。急にいなくなるなんて心配したんだからね」

「悪い。どうしても自分が許せなくて…」

「で、修行をしていたの?」

「あ、あいつ!言ったのかよ」


 内緒にしてくれと勾陳に言ったのかも知れない。でも勾陳はあっさりと言っていたから約束までは取り付けていなかったのだろう。バツが悪そうな顔をして頭をかく煉に私はもっとひどいことをするかもしれないと思うと申し訳ない気が襲う。


「あのね、煉―――」


 どう切り出そうか迷っていると、煉が「分かっている」と静止の言葉に僕は吃驚する。


「何が?」


 私の言葉を遮って何が分かっているのか。


「あ~え~と、急だったのは悪かったと思うが、行動自体は、俺は悪いとは思っていない」


 煉から出た言葉に私はスカシを食らった気分でガックリと肩を落とす。分かってないし。


「………あのね~煉。もしかして謝ろうとしている?だったらそれは謝罪になってないと思うよ」


 悪いという気持ちがなかったら謝罪にならないよね?


 それに私は謝罪して欲しくて呼び出したんじゃない。でも煉はあのときの強引さを謝って欲しいと思っているのだ。違うよ。全く違う。


「あのことでの話し合いは必要だと思うけど、今はそんなことを言っている場合じゃないんだ。どうしても煉の力が必要なんだ。助けてくれる?」


私もそうだけど、煉の中もぐちゃぐちゃになっているのかもしれないと、いきなり本題を切り出して、頭を切り替えさせようとした。

『分かっている』っていうからこれからのことが分かっているのかも?とちょっと期待したのに。あの場にいてこうして皆そろったのだから、決戦が近いのを知っているはずなのに。煉には記憶が受け継がれていないのかと本気で疑ってしまう。私たちの転生は呪いなのだからそんな訳ないのに。


「助けが欲しいって、通り魔がまた現れたのか!?」

「………」


本当に記憶の欠片もないの?思い出すのは個人差があるみたいだけど。それとも今の私は記憶がないから…前世とは縁が切れたと思っているとか…?でも、勾陳が私の使いで煉に会いに行った時点でおかしいと感じてよね。


「通り魔は文化祭のときに来る可能性が一番高い。それよりも重要なことがあったはずだよ。那岐」


 かっこいいけれどちょっと抜けている煉に一番分かりやすくネタばらしをしてやると、彼はこれでもかというぐらいに目を見開いた。


「!!!―――雫、お前、思い出したのか!?」


『那岐』の呼び名で顔色を変えた煉。信じられないような顔で、そして絶望したような瞳を私に向ける。何故に!?


「すまん、本当の俺は馬鹿なことをしたと思っている。どうして眞那を裏切るまねをしてしまったのか、今も理解不能だ。あの時は本当に悪かった。今更謝っても遅いかもしれないが、後悔しているっ」


土下座をしそうな勢いに、私は逆に面食らってしまった。


「れ、煉、違うよ。謝ってもらうために呼んだんじゃないんだ」

「え?……俺はひどい裏切りをしたんだ。それじゃないって…許しも受け入れてくれないほど許せないってことか…」


 だから、どうしてそう結びつくんだよ。ったく、頭がパニックになっているのは煉だけじゃないっていうのに、何、早合点しているの!


「勝手に結論出して勝手に落ち込むな!!」


 私にしては珍しい怒鳴り声だったから煉は豆鉄砲を食らったみたいになっている。こりゃ話が長引くかな?と、大きなため息を一つついた。


「那岐がしたことは村の裏切り行為だけど、そうなるようになったのは穢れの所為だよ。だから僕は…というか眞那は怒っていない」

「……怒っていない…?…村を売ったのに?」


 あ~あ、その間抜け面、男前が台無しだよ。煉。


「眞那はね。でも健彦と雲霧は分からないから、仲直りしたければ歩み寄ったほうがいいよ。それより邪塊のことは覚えている?」


 煉はボソリとあいつらとは仲良くなりたいと思わないから別いいい。って切って捨てだけど、それはどうだろう?と私は思うけど煉の問題だから口に出来ない。


「じゃかい…ジャカイ…ってあの穢れの王の邪塊じゃかいか!?覚えているぜ」


 って本当に覚えていたの?かなり時間がかかっていたけど。


「その邪塊がこの現世でもいるんだよ。浄化に失敗しているから、いつ復活するわからない」

「あれが復活するだって!?本当かよっ!」

「十二天将のお陰でかなり浄化できたけど、あと一つの封印が残っているんだ。核の部分だから復活すると邪塊に戻る」

「ちょっと待てよ。眞那が封印してからどれだけの年数が過ぎたと思っているんだ?それなのにまだ浄化できないでいるのかっ!」

「そうだよ。肉体は封印して、早くに浄化出来たみたいだけど、核の部分はこの世の中で自然に浄化するのは難しいだろうね」


 穢れとは人の負の感情の集まりだ。それらの王が穢れをエネルギーとしているのだから、そう容易く消滅はしないだろう。常に戦争や争いが絶えず起きているのだから。


「まさか、その為に俺達は集まった?」

「その、まさかだよ。邪塊の呪いを受けた僕達は、記憶を失うことなく生まれ変わり、復活の時を…悲劇を目の当たりに出来るように、観客として選ばれた邪塊がかけた忌まわしい呪いだよ。だからね、煉、君の力が必要なんだ」


 ようやく核心に触れることが出来たというのに、またもや煉が自信なさげに戻っていく。


「――――――俺の力が役に立つのか?雫も守れない俺が…」


 晴明から受けた言葉がかなりの力を持っているようで、煉は項垂れてしまった。


「……」


 健彦恨むよ~~~


「眞那は…邪塊に取り込まれた兄を助けるために力の大半を使い切った後に戦いに挑んで、ちゃんとした浄化が出来なかった。でも、今回は違う。本来の力を貴方達に授けることが出来る」


 兎に角、煉の自信を取り戻さないと。


「は?授けるって何を?何を言っているのか分からない」

「眞那は一人だったんだ。強力な巫女として崇められ、皆に協力してくれと言えなかったらしい。愛してくれる人がいても孤独に苛まれていた…」


 私には感情が蓄積されていないが、彼女が凛として戦う姿を見た。周りには那岐も水豊も幼い健彦もいたのに。彼らを守ることを選び、一緒に戦うことをしなかった。それは多分『孤独』。そういうことなんだろう。

 眞那に任せておけば全て上手くいく。という信頼から無理なことでも押し通していたのだろう。その結果が、悲劇を生み出したのだ。


「だから、君達の本来の力は発揮……」出来ていなかった。と言いたかったが、煉が驚きの表情で割り込んできた。


「どうして、眞那が孤独なんだ?眞那には水豊がいたじゃないか」


 私の言っていることが信じられないみたいだ。そんなことも気づいてもらえていないなんて、気丈に振舞っていたにしても眞那が可愛そうだ。


「ああ、もう、じれったい!!俺達が眞那の傍にいたのがいい例だろうがっ!」


 姿と神気を隠して傍で私達の会話を聞いていた勾陳が本来の姿で現し、煉の背後から蹴りを入れる。


「お、お前っ」


 よろめいて地に手を着いた煉は、突然現れた勾陳に目をむいた。


「人間じゃない俺達が眞那の傍にいたのは、彼女が純粋で霊力が高いだけじゃない。彼女が俺達を必要とするぐらいに孤独だったから俺達は彼女と親しくなったんだ。俺達は彼女に巫女を求めていなかったからな」

「なんだよ、それ…」


 信じられない事実を突きつけられ、気づけなかった不甲斐なさからうな垂れる煉、でも、眞那はそれでいいと思っていたんだ。気づかれたくなかったんだ。多分ね。だから、それを隠して戦いに挑み失敗した。


「眞那はもういなくなったけど、眞那がやりのこしたことを遂行しようよ。煉、力を貸してくれるね」


 ショックから立ち直っていない煉の肩に手を置いて、立ち上がらせ、再度協力を頼む。


「……眞那の望みなら。だけど、雫はそれでいいのか?」

「いいもなにも、邪塊が蘇ったら大変なことになるからね。嫌でも前に進むしかないでしょう」


 私はもっと未来に進みたいのだから。


「強くなったな。雫。」


 雫に生まれてからの記憶は無いけれど、幼馴染みである煉から逃げまくっていた以前の私は、同じ運命をたどりたくなくて避けていたのだと思う。だけど今の私は以前の私ではない。それは弱さを知ったから。以前の私は同じ運命をたどりたくないと思っていても、結局生まれ変わる眞那と同じく一人で何もかも終わらそうとしていたのだろうと思う。だから煉からも逃げていた。彼を巻き込まないために。それは青柳に対しても同じだろう。

 だけど、今の私はただの穢れに太刀打ちできないほど弱いことを体験したのだ。手助けを求めてしまう。煉は「強い」と言うけれど、それが強さなのか分からない。


「本当に強かったら、悩むことなんてないんだけどね」


 だって私はまだ自分が女性だと気づいたことを彼らに話していない。それを伝えてしまえば同じ悲劇を歩むかもしれない恐れがあるから。そう、彼らに信を置いていても、感情の面に恐れを抱いているのだ。


「今世の雲霧と眞那の関係を聞きたいところだが、それよりも、悩んでいるって何か悩むことがあるのか?」

「あるよ、ある。いっぱいある。青柳さんと緑川さんの説得は、世界を守りたいと言えば協力してくれるだろうけど、真君はどうだろう?それに煉に授けるというのか、バージョンアップするには封印を守っている朱雀が必要だし、彼を封印から解放してしまうと邪塊が即復活するかも…という心配もある。他には通り魔のこと。あいつは早くに浄化してしまわないと、朱雀が封印していても触発されて邪塊が…とか」

「ちょ、ちょっとまて!」


 悩み事を一気にまくし立てると、煉が付いてこれないようでストップされた。私も隠したい悩み事があったから、それを隠すためにまくし立てたんだけど、ちょっと悪いことしたかな?


「……なんだか…盛り沢山突っ込みたい気がする…」

「まぁ、落ち着けよ。煉、これからは雫の傍にいるんだろう?ゆっくりと相談に乗ってやれ。知識を得ただけで、まだ霊力も安定していないし、相談に乗ってやると色々とオプションが付いてくるかもしれないぜ」

「おお!そうだよな。一緒に修行だ!と、かこつけて雫にべったり!相談の乗るということは二人っきり!勾陳、お前っていいやつだったんだなっ」

「……」


 あの~聞こえていますけど。やることや頭が痛い悩みが多いのに、これ以上、悩みを増やさないでください!!

 てか、これが世界を救うメンバーなのかな?煉と勾陳の緊張感が……限りなく低いんですけど。

 いたずらっ子の如く瞳を輝かせて大きな内緒話をしている二人を見ていると、多少はおき楽に考えてもいいのかもと思ってしまう。

 ま、煉が戻ってきたことをよしとしないとね。


 あ、そうだ。聞き忘れていたことがあった。でも、あんまり聞きたくないんだけど、う~ん、興味あるし、よし、聞いてみよう!


「あのね、煉」

「なんだ?」


 勾陳とああだこうだと、具体的にどうしたら二人の仲が進むのかを話しているのを中断させる。山で遭難しろとか、何!?恐ろしい…。


「那岐以外の前世の記憶って覚えている?何をしていたの?」


 この二人をくっつけると碌なことをしないような気がするので、話を割って正解だ。


「は?那岐以外?そういや何度か転生していたな。一番印象に残っているのは……あ、そうだ。坊さんだったぜ。それで憂さ晴らしに武人をやっつけたりして、刀を集めていたな。目標達成の最後のヤツに負けてしまって、家来にしてもらった。あの時は時代も大変だったけど、有意義な人生を歩んだと思うぜ」

「……………」


 ………それって、あの『弁慶』というお名前なのでは…?

……やっぱり聞かなきゃよかった。



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