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 吉報が届いたのはその日のお昼だった。モモこと六合と天空は授業に関係なく動くことが出来るけれど、勾陳は天野として授業に出ていたのに一体いいつ動いていたのだろう?疑問に思うけれど、実体に縛られているわけじゃない神様の一員なんだ。私には想像がつかないやり方というがあるのかも。とむりやり納得する。

 誰にも聞かれないように教室の隅により、勾陳の報告を聞くことにする。


「煉はすぐに見つかったぜ。伝言は伝えたし、今日の放課後、屋上に来るそうだ」

「早かったね。有難う」

「捜索するだけだったから割と簡単だった。それに煉だし。霊気をダダもれさせていたから」


 それを聞いて常に全力の煉らしいと苦笑するしかなかった。駄々漏れだったのなら私でも探すことが出来たのなか?と一瞬頭をよぎったけれど、校舎には緑川の結界があるから、私が校舎から出ればばれることになる。と思い至って、勾陳に頼んでよかったと思う。


「学校に来ないで何をしていたんだろう?分かる?」


 私の質問にたいしてニマニマ笑う勾陳。


「あいつって健気だよな。お前の為の修行だってさ」

「修行?」


 勾陳から聞いた煉の状況は、なにやら山近くの河原で霊力をコントロールする修行をしていたそうだ。

 コントロールする修行をしていて霊気をダダ漏れ?それは効果がない…ということ?


「でも何故僕のためなんだ?」


 一人称に『僕』を使っているのは、まだ彼らにも自分が女性だと気づいたことを知らせていないからである。式神達は性別をそれほど重視していないから、ばれてもばれなくてもどちらでもいいんだけどね、念のためにまだ隠している。


「前に、晴明から『お前では雫を傷つけるだけだ』と言われたんだろう?あれで結構傷ついてしまったらしい。近くで守りたい人がいるのに、自分が力を振るえば守りたい人まで傷つけてしまうから、修行をしていたんだと」


 雫からの伝言を聞きたければ、何をしていたのかを教えろ。と言うと渋々ながら教えてくれたんだ。とその時のことを思い出しながら楽しそうにケラケラと笑う勾陳。

 勾陳の態度を見ていたら、散々からかわれただろうと予測できる。う~ん、煉にはなんだか可哀想な事をしたのかも。それにしても、式神であるにもかかわらず、勾陳は人間くさいな~。


「で、屋上に行くんだろう?あいつのフォローをしてやれよ。俺は結構、煉というヤツを気に入ったぜ。晴明より素直で可愛い」


 それは褒めているんだろうか?男に対して素直で可愛いとはとても褒めているようには聞こえないだろう。うん、煉には言わないでおこう。


「六合と天空はどうなっているのか分かる?勾陳」


 いつまでもニマニマ笑ってこっちを見ているから、私まで居心地が悪く感じて話題を変えることにしたのだが、厄介なのはこっちなのだ。


「二人ともそこにいるぜ」

「え?」


 そこってどこ?勾陳の目線は窓の外だ。ということは外にいるということ?

 でも、校庭が目に入るが誰も外にいる様子はない。


「集中してみてみろよ。白石なら見えるだろうよ」


 そう言われて、勾陳の目線の先を凝視してみることに……すると、半透明ではっきりとは認識できないまでも窓の寄りかかっている二人の姿が浮かび上がってきた。


「わぁ、二人ともかっこいいね。十二神将って皆かっこいいんだ!」


 吃驚したけれど、なんとか回りに聞こえない程度までに声を抑えることに成功した私に神々しいまでの美声が響いた。


「人間の理想が具現化しただけです」


 好んでこの姿でいるわけではないとも取れるし、ただ単に照れているようにも取れる天空は、その名の通り、淡い水色の髪をした青年だった。姿同様、声も他の人には聞こえないに違いない。


「素直に有難うといえばいいのに、天空はひねくれ者だな」

「ひねくれてはいない。この容姿の為に人の中にまぎれるのは大変なんだ」

「そんなこと気にせずに出ればいいのに」


 天空の受け答えをしているのは六合だ。六合は春と調和を司るだけあって、楽観的というかオープンな感じでかなり明るい性格をしているようだ。瞳も髪も深い緑色をしている。

 天空は仲間内だと普通に話しているのに、私に話しかけるときは丁寧に語尾に「です」って…固い!


「おい、白石、朝も感じたことなんだが、記憶が戻ったんだよな?だったら俺達を見て『かっこいい』って初対面みたいな感想は変じゃないか?俺達は生まれ変わったわけでもない、数千年ほど同じなんだが…白石…もしかして思い出していない?」


 ギクリ…ッと首筋に汗をかく。

 軽い感じなのに勾陳って結構細かいことをっ!一度疑問をもたれてしまったら、これをごまかすことは難しいと感じた私は観念する。


「……十二天将たちなら話してもいいかなぁ。勾陳も僕の行動を細かく緑川さんに報告していないみたいだし」

「ああ、大丈夫だぜ。約束だからな。向こうは俺達の主だが、白石は俺達の友達だ。主から聞かれないことは答えなくてすむから、逐一報告していない」


 雅也と出かけた一日も、『何処に行ったのか。通り魔に襲われたりしなかったか?』と聞かれたぐらいで、その返事しかしていないとのこと。

 私が河原で頭痛を起こし様子がおかしかったことや、通り魔と緑川さんとその河原で出会ったことも話していないと勾陳は教えてくれて、安堵した。

 勾陳と約束したとはいえ、嘘をつくことが出来ない彼らが緑川に問いただされれば答えるしかないのは分かっていたから、どこまで私のことが筒抜けなのか心配だった。


 でも、緑川は自分の術に自信を持っているらしく、それほど記憶が戻ることを危惧していないようだ。


「そう、よかった。それじゃ、緑川さんに聞かれるまで内緒ということで。んじゃ、勾陳達には言うね。僕の記憶は戻ったというよりも、知識を得ただけなんだ」


 私の言葉で思い思い考えているようだったが、六合は直ぐに根を上げて


「記憶と知識ってどう違うの?」


 私に聞いてくる。勾陳は眉を寄せて次の言葉を待っていようだ。


「…なんとなくですが、分かりました」

「へ?分かったの?」


 理解をしめした天空に驚く六合。


「その内ばれることなんだけどね。記憶と知識じゃ、肝心なことが抜けているんだ」

「感情ですね」

「そう、天空の言うとおり。知っているだけで僕の中には眞那が感じた感情は蓄積されていない。君達が十二天将ということと、見分けが付くように映像と気配を教わった。教科書で勉強したって感じかな?」


 学校の歴史勉強で「戦争があったんだ」と詳しく教わっても、「怖いね」とか「恐ろしい」「その場にいなくて良かった」「戦争がおきないようになればいいね」の感想が出てくるぐらいで、実際に体験したことがないから、本当の恐ろしさを感じることが出来ないのと同じように、私も眞那が感じた辛さや楽しさ感動とが欠落しているのだ。

 だから、知識で十二天将を知っていても、実際に会うとその神々しさに驚きもする。会って初めて自分の中で実感するのだ。


「どうして、そんな偏ったことになったんだ?」

「やはり晴明の封印のせいでしょうか?」

「不便はない?」


 六合は楽観的な感想に対し他の二人はそのことを重く感じているようだ。


「晴明…さん…の封印は関係ないよ。白石雫が生まれてからあの日までの記憶が一切ないから晴明の封印はしっかりと効いているよ。前世の記憶の一部は眞那が晴明から守ったんだ。だから、僕が夢の中で眞那に会うことで引き継いだ。この偏りは僕が記憶じゃなく、知識として引き継ぐことを条件にしたからなんだ」

「そんな条件を出す必要なんてないだろう。意味があるとは思えないが、何か考えがあるのか?」


 不思議顔の勾陳に対して僕はニッコリと微笑み返す。


「もちろん意味はあるよ。新たな運命の輪を回すためには、当事者でありながら第三者が必要だと思うから。でないと皆が皆前世に引きずられるからね」


 そう思わない?と三人を見渡すと、思い当たる部分があるのか、反論を返してくる人はいなかった。沈黙が残るだけで賛成もなかったけど。


「おお~い、白石、そろそろ先生が来るから、席に着けよ~」


 前に体育の授業の後に雅也のことで聞いた二人は、あれから私に話しかけるようになり、今もこうして先生が来る足音を聞いて忠告をくれた。


「有難う。松本君」


 話に夢中になって授業が始まるチャイムがなったことに気づかなかったな。席に戻ろうとする僕の後ろから勾陳が、そして姿が見えない二人が付いてくる。


「二人とも日本語は読めるよね?」


 姿も声も他の人には聞こえない。話の続きは授業中に筆談で二人の成果を聞くことにした。私の意図を察知した二人は「もちろん」とうなずき返す。

 緑川さんが『健彦』で、青柳は中庭の一件で勾陳の台詞から『水豊』だと分かっている。多分、性格から煉は『那岐』だろうと思う。

 だったら、あの時あの場所にいたもう一人『雲霧』―――彼は…



***


黒崎 真 side ―――


 先生から頼まれたプリントを受け取った帰り、それほど重くない束を抱えつつ、校舎ののどかな風景に目をやっていた。以前とは比べ物にならないほど本当に平和な国になったもんだ。今の年のころには戦場に出ていたというのに、色恋やゲームの話題ばかり。

 血がたぎる…なんて知らないのだろう。

 かなり物足りなさに、戦を起こしたくなる気持ちを堪えているのは、今の時代にそぐわないからだ。


「黒崎、なんだ、また先生に頼まれたのか。重いだろう。半分持ってやるよ」


 と、前から来るのはクラスメートの男子だ。有難うとお礼を言う相手の名前なんて興味がないので覚えていない。


「さっきさ、お前のこと意識している女子と出会ったんだ。かなりの美人だったけど、何処のクラスなんだろう?あんなに美人なら噂になりそうなんだけどな~」


 ニマニマと嫌な笑みを浮かべているクラスメートには悪気はないのだろうが、平凡な彼の瞳には意識せずに嫉妬が混ざっていた。


 自分の容姿がかなり上なのは自覚している。そういう輩が集まってくることも。学校に気づかれない程度に遊んでみたりもしたが、ただの性欲処理で面白くも何ともなかった。

 その手の話に乗り気がしないから返事をなしなかったが、彼は気にしていないようで話を続ける。


「黒崎って見た目可愛いのに変に色気があるから、女の子が協定組むぐらいなんだもんな。惚れられるなんて今更か。だけどあの子、変なことばかり聞いていたから、もしかするとストーカーになるかもな。気をつけたほうがいいぜ」


 親切に教えてくれる内容に、引っかかるものがある。


「変なことってどんなことを聞かれたの?」


 彼らのイメージする通りに可愛らしい印象で、首をかしげて嫌味にならないように聞くと、彼はほんのりと顔を赤くする。

 おいおい、男に対してその反応は可笑しいだろう。


「あ、いや、始めは誕生日とか趣味とかを聞いていたけど、段々と込み入ったことを聞いてきていたな。本当、表情も真剣で怖かったよ」

「込み入ったことって?」


 肝心なことを簡単に流すな。早く言え!


「そうだな~しつこく聞いていたのは、どうして学年が1年下なのか…を。後、仲のいい人はいるのかとか。彼女はいるのかも聞かれたから、一応、いるらしいと答えておいた。だって黒崎は小田切と仲がいいだろう?クラス公認の仲だし。あの子に割り込まれたら、もめるんじゃないかと思って、悪いこととしたか?」


 小田切とは蘭のことだ。

 彼は私がモテることに嫉妬しているのだ。だから付き合ってもいないのに、勝手に「彼女がいる」と答え、他の女性が私に目を向けないように線を引いたといったところだろう。少々自覚もあるらしく余計なことを言ったと詫びているが、だけど、そんなことはどうでもいい。


「もしかして蘭のことも言っちゃった?」

「え、…言っちゃった。小田切のほうが美人だから、諦めるかな~と思って。ごめん。悪かった」


 他人の情報を与えすぎたことを詫びている彼にプリントを押し付ける。


「これ教室にもっていって、僕は蘭のところに行くから」

「ああ、そうだよな。悪かった。その子と小田切が出会ってなかったらいいな」


 本当にそうだ。勝手に人のことをべらべらと、情報が命取りになることもあるんだぜ。殴りつけたい気分を押さえつけ、「気にしないで」と笑顔で彼にプリントを任せると、私は蘭の元へと急ぐ。


 もしかすると―――考えすぎじゃなければいいのだが。


 蘭の気をたどれば何処にいるのかが直ぐに分かる。気をたどれるのは条件を満たした彼女だけなのだが。

 三階へと続く階段の踊り場で蘭が倒れているのを発見すると、肩を揺さぶって蘭の目覚めを促した。


「おい、蘭、しっかりしろ。何があった」

「…あ、……様…申し訳ありません。奪われました…」


 蘭は私を見ると直ぐに跪き許しを請う。何が奪われたのか詳細を聞かずとも分かるというもの。


「お前ほどのものが太刀打ちできなかったとは、相当な使い手だな」

「……はい、知らない男生徒に声をかけられて、話をしている間に術をかけられてようで、抗えませんでした」

「油断したな」

「……申し訳ありません」


 蘭に油断なんてなかっただろう、しかし、そう言わずにいられなかった。

 奪われたのは、十中八九、私の一年の空白。何処で何があり、私が何者だったのかを知るに価する一年だ。


「まあ、いい。知られた相手にもよるが、知られたところで私の目的に変更はない」


 ただ手段は変わってくるかも知れないがな。それに、焼け付く昔の記憶に苦しんで、あふれる霊力をもてあましたことを世間に隠しているが、都会から離れ養生していたことに変わりない。


「もう少し隠して楽しみたかったが、相手も手荒くするしかない何かが起こったということだろう。蘭、探れるか?」

「はい。お任せください」

「ふふふふ、この織田信長をどう扱うつもりなのか、楽しみが増えたというものだ」


 不遜で自信に満ちた笑い声が、階段の踊り場に響く。


黒崎 真 side ―――終


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