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17 集結


助けてくれるかもしれない人が現れたというのに、通り魔の背中に頬をつけている状態で、反対側にいる人物を見ることは出来なかった。


「俺の邪魔をするのなら、容赦はしないよ」


僕に対するときよりも幾分か固い声質は、邪魔をするなら排除するよと強気なのに、相手をかなり警戒しているようだ。

それに対し、現れた人物は淡々としていた。


「何をしたいのかは興味ない。邪魔するつもりもない。勝手にすれば良いだろう」

「何!?だったら…」


突然現れただけでなく、常人じゃありえない異質な力を目撃しておきながら、逃げるわけでもない目の前の人物の意外な言葉に、通り魔は戸惑いを感じたようだ。


だったらこいつは何のために現れたのだ?得体の知れない人物に、更なる緊張感を露にする。

それは、僕も同じだった。

もしかすると、助けになるかもしれないと安堵した矢先の「邪魔はしない」というあの言葉。それじゃ、なぜ立ちはだかっているのだろう?止めようと出てきたはいいけど、立ちすくんでしまったのだろうか?

まさか…まさか…通り魔の加担しようとしている…とか…じゃ、ないよね。

なんにせよ、僕を助けてくれる気はないみたいで、失望感はぬぐえなかった。


「ならば、そこを退いてもらおう」


敵でないのなら、いつまでも相手をしていられないと、前に出る通り魔。

それでも一応警戒してか、攻撃態勢を解いていない通り魔に、立ちはだかる男がその場を動く気配が無いどころか、怯むことなく凛とした声で言い放つ。


「貴様の邪魔をするつもりなんてないが―――背に担いでいるそいつは置いていってもらおうか」


と、毅然と言うと動く気配を感じた。――通り魔が数歩後ずさることで、男が何やら攻撃を仕掛けたのが僕にも分かった。


「なんだ、何を出してきたのかと思ったらただの棒切れじゃないか。吃驚させないでよ。そんなもので俺に勝てないよ。それに邪魔をしないとお前も言っていただろう?ならばそこを退け!!」


棒切れの攻撃で冷やりとさせられた怒りからか、苛立った声がコンクリートの建物に木霊する。


「貴様が何を目的として通り魔をしているかなんて俺には関係ない。ただそいつだけは巻き込むな――連れて行くというのなら、貴様を倒す」

「あははははっ!そんなもので倒せると思うの?身の程知らずにも程がある。笑っちゃうね………俺を舐めるな!!」


頭を覆っているフードの中が、髪の毛が蛇がうねっているように意思を持ち蠢く。そして、立ちはだかる男に針となって向かう―――――

しかし、声を上げたのは、通り魔だった。


「な!!何をしたっ!どうして俺の攻撃が効かない!?」

「そんなに驚くことはないだろう。ただ振り払っただけだ」


次はこっちの番とばかりに男が攻撃を仕掛けているようだ。通り魔が苦渋の呻きをあげながら交わしている所為で、肩に担がれた僕はその動きによって振り回される。

僕を担ぎなら攻撃を避けるのは困難らしく、荷物のように道の端に放り投げられた。


「…っつう……」


 痛みからうめき声が自然と口をついて出る。


「そこで大人しく待っていろ!」


と、命令されるが誰が通り魔の言うとおりにするものか!この場からすぐさま逃げてやる!と打ち付けられた痛みも押し殺して立ち上がろうとしたが、思うように体が動かない。血を流しすぎた所為で、まるで、全身が鉛となったみたいだ。


「……くっ…」


せめて、もの陰に隠れようと体を引きずると、二人が戦っている姿が眼に映る。


「―――!!」


あの人はっ!!

通り魔の前に立ちはだかった男の人は、細いただの木の棒、いや、何処から取ってきたのか知らないが枝を手に攻防を振り広げていた。何の変哲もない木の枝…それを一蹴するだけで通り魔の針の攻撃を難なく無効化している。

不利を感じた通り魔は、僕を盾にしようと考えたのだろう、こちらに向かって走ってきた。


「させるかっ!」


しかし、それよりも早く男が僕を背にかばう。大きく頼もしく見える背。

その背に向かって、


「……青柳…さん、どうして…」


そう、彼は僕を病院に運んでくれた青柳昴だった。これで彼には二度助けられたことになる。

Tシャツに上着をはおり、そしてジーパンといったラフないで立ちの彼はこのオフィス街には不釣合いな恰好をしている。こんな時間になぜここにいるのか不思議で仕方なかった。


「君がいると攻撃が出来ない、そこの建物の陰に隠れていろ。行けるか?」


僕の質問に答えている暇はないのだろう。指示を出す間も枝を振り攻撃をかわしている。


「行きます!」


通り魔に「邪魔はしない」と言っていたのに、僕を助けてくれようとしている。だったら、僕は彼の足手まといになってはいけない。貧血と縛られて思うように動かない体を無理やり動かし、建物の陰に隠れた。

それを確認した青柳は、通り魔の隙を狙って枝を大きく振りはらう。直接触れたわけではないのに、通り魔の胸から一気に鮮血が飛び散った。


「な!!…な、に!?」


目を見開いて通り魔が驚いている。だけど、それは僕も同じ。真っ直ぐな木の棒じゃないのに、それも細い木の枝であそこまでの剣圧が繰り出せるのだろうか?

一陣の風が吹き、通り魔の服どころか皮膚を裂き、あまつ通りの向こうの木々を揺らしている。


「お、お前…何者だ…?」


倒れないのが不思議な傷を受けているのに尚、目の輝きは尋常じゃない通り魔の質問は、他の登場人物によって遮られる。


「雫さん!」


静まる建物の中、凛と声を張り上げたのは、モモをつれて走ってきた緑川さんだった。

迎えに来てほしいと頼んだのに、僕が待ち合わせの場所にいないので探しに来てくれたのだろう。

そしてモモの無事な姿を確認できて肩の力を落としながら、駆けつけたモモの体当たりを食らった。元気なのは嬉しいんだけど、少しの衝撃でも腕が痛いんですよモモ。それでも愛犬が無事なほうが嬉しいので非難することは無い。


「モモ、怪我はない?」


大丈夫だよという返事の変わりに頬を舐めてくれた。暖かい体温を感じると、張り詰めていた緊張すら揺らぐほどだ。

しかし、それは僕だけであって、瞬時に状況を把握した緑川さんも通り魔を睨み付け、戦いに終焉は打たれていないことを見て取る。

通り魔を警戒しながら、戦っている青柳さんの元へと走りよる緑川さん。その間に、僕の拘束はモモによって解かれていた。


「君は確か青柳君だったね。この彼は、世間を騒がせている通り魔だと認識していいのかな?」

「ああ、そうだ」

「あの傷は君が?」

「……」


通り魔の胸から滴り落ちる血を見ての問い、だが彼は答えなかった。


「ま、いいけど、あんな傷を折って尚、平然と立っているということは普通の人物じゃないね。妖気も禍々しい」


二人の会話を物陰から聞いていた僕は、最後の言葉は、どういうことだろう?僕が見た黒い靄のこと?それが妖気なのだろうか?そして緑川さんは妖気を感じ取れるということ?と疑問を口に出したかったが、今は邪魔をするだけだと口を閉ざした。


緑川さんが登場してつかの間、違う方向からまた声が飛んできた。


「あ……なんですか?これは…??」


飛び散る血、張り詰めた空気に異様さを感じた彼は、戸惑っているようだ。


「ま、真君!危ないから近寄ったら駄目!」


緑川が来た道とは違う道から迷い込んできた彼は、黒崎真だった。咄嗟に声をかけたものの、彼はどれ程危険な場所に迷い込んだのか理解してくれただろうか?


「お祭りでもやってんの、しぃ?」


真君に気を取られていて、傍らから来た人物にはまったく気が付かなかった。それは、みんなも同じようで、目を見開いていることから予想外だったことを裏付ける。


「う、そ、雅也まで…」


吃驚している間に登場人物はもう一人、高らかに足音を立て駆けてきたのは煉だった。


「雫を狙うとはなんつー奴だ!!許せんぞ!!雫、大丈夫か?」


息を上げている煉は、ある程度こういう状況になっていたことを知っていたかのように、瞬時に応戦体制に入った。

つかの間に五人の人たちが通り魔を囲む形となり、さすがの通り魔もうろたえる。


「何なんだよ、君たち。一対五とは卑怯だろう?」

「ふざけているのはそっちだろう!雫に手を出しておいて、ただじゃすまないぜ!」

「なんとなく状況は分かりました。皆さんが戦っている間、先輩は僕が守ります」

「しぃは僕が安全なところに連れて行くよ」

「さぁ、どうしますか通り魔?私たちと戦ってみますか?」


一体全体これはどういった巡り合せ何だろうか!?こんな誰も必要以上に通ることが無いオフィス街に、病室で出会ったあのメンバーが全員そろっているとは。こんな偶然はあり得ない。そう、あり得ないんだけど、心の片隅ではこれが普通なのだと、なんだか懐かしい気持ちにさせられていた。

しかし、いくらこちらが人数的に多くなっても、相手は不可思議な力を持つ通り魔だ。油断は許されない。それでなくても見境無く襲ってくる危険な通り魔だというのに、どうしてこの人たちは日常の会話をしているかのように危機感がないんだろう?


「ふ~ん、ただの人間が俺に勝てると思っているの?気をつける相手はただ一人、そっちの帽子の男だけだ」


わらわらと集まってきた人たちを無視して、通り魔は青柳のみに視線を置いている。


「それは、どうでしょう?」


にっこりと微笑んだ緑川は『気をつける相手』の部分に返事を返したのだろうか?それとも『ただの人間』?どちらにしろ、体術には多少なりとも自信を持っていての応戦的だ。


「さ、雫さん、こちらに」


自分の背後にいれば安全だと、通り魔を警戒しつつ手を差し伸べる緑川、に対し、


「僕が守りますよ」

「しぃ?」

「雫、こっちへ」

「背後から出るんじゃない!」


それぞれが、僕の身を心配して声をかけてくれる。戦いになったとき、守るべき対象者が背後にいれば攻撃を仕掛けやすいのだろう。


分かっているが、誰の手をとればいい?


みんな通り魔を警戒しているから、僕のところまで来ている余裕がない。僕が差し伸べる手を掴まないと…


僕が信頼できる相手……それは――――



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