11 嫉妬
フードを深くかぶった背の高いひょろりとした男が、街中を人の間をゆっくりと歩いていた。フードの奥では、通り過ぎる人、自分を追い抜く人を、ぎょろぎょろとしたいような目つきで眺めている。
今までは人の少ない場所を彷徨っていたのだが、あまりに人が少なく、目的とする人物に出会わないために街中を探索することにしたのだ。
こうも人が多いというのに見つからねぇ。どいつもこいつもクズばかりっ!どこだ…どこにいるっ!
フードの下の瞳は積極的に獲物を探し異常なほど動いている。
まだ…まだなんだ。あいつを倒すには力が足りない…俺に屈辱をあわせたあいつ…俺は何もしていないというのに、一方的に仕掛けてきやがって、みんなの前で恥をかかせた。その結果、友達だと思っていたやつも離れていった。両親もあざけ、見捨てる始末。
俺は何もしていないというのに、こんな目に合わなければならないのか。
(そう、お前は何一つ悪くはない。すべて、あいつが悪い)
…そうだ。俺は悪くはない。のうのうとしている、あいつが憎い。あいつを倒すためなら…俺は――
(もっと探せ。もっともっと髪を集めよ。髪で足りないのなら、血を、肉を求めよ。そして力を手に入れるのだ)
頭の中で残忍な声が響いてくる。常識を逸していると言うのに、男は何の疑いもなくその声を受け入れる。
(復讐するにはまだ、足りないぞ)
その声は己の内なる声なのか、悪魔の囁きなのか判断するすべはなく、声に従う。男はそれほどに自分を陥れた奴を倒す為に、力に固執していた。
(もっと、もっと俺によこせ)
極力人目を避けるように脇道に入りながらも、欲しているものを探し続ける男の耳に、甲高い声が届く。
「気に入らないわ。なんなのよ、あの子は!ちやほやされて、許さない!」
成長しきっていない耳障りな甲高い声は、怒りが満ちて男には心地よい音色にさえ聞こえる。聞いているだけで満たされようとする体の欲求に従い、物陰に隠れて彼女の声を聞くことにした。
「誰も彼もあの子を特別視して、絶対に記憶喪失なんて嘘だわ。可哀そうだと思われたいから嘘を付いているのよ!先輩も騙されているのよ!」
「本当にそうだわ。多少は可愛い顔立ちしているかもしれないけれど、香織の方が断然綺麗なのにクラスの人達はおもしろさを取るなんておかしいわよね」
隣に一緒に歩いている二人の女の子の内、ぽっちゃりとしている女の子が同調しているものの、香織と言う少女が欲しい言葉から的は少々ずれているようで怒りを表している香織は顔をしかめている。
「当日、邪魔するなんてどうかしら、香織?」
もう傍らの背の高い女子が提案をする。
「馬鹿ね、そんなことすれば、確実に私に疑いがかかるわ。今日のことがあるし」
「今日って…あれってわざとだったの?」
ぽっちゃりが驚いて立ち止まってしまう。それを見た香織は意地悪く微笑むだけで肯定する。
「気付かなかったの?久美って呑気なんだから」
「千夏の言うとおりよ。久美は暢気すぎるわ。チャンスは自分で掴むものなのよ。今日のチャンスは失敗してしまったけれど、次は物にして見せるわ。それにしてもちょっと切ったぐらいで大騒ぎして、いやになるわ、あの子」
「……」
大騒ぎしたのは、怪我をしたあの子というよりも、そのあとの出来事だったんじゃ…と久美は思ったものの、香織の怒り様を身近に感じていると言葉には出せなかった。
「え~と、ま、気晴らしに来たんだから、パァ~と遊ぼうよ」
これ以上失言をしてしまうと、香織の怒りは鰻上りになる為に、話題を換えることにしたようだ。
「そうね、あの子のことで頭いっぱいにするなんて、癪に障るわ」
「香織、これ見てよ。可愛いわよ」
そこに、運良く店の前に並んでいた小物を発見した千夏は香織を呼ぶ。
「本当、私に似合うかしら」
「似合う!似合う!」
矛先が変わったことに安堵する久美も、彼女たちの輪の中に入っていく。
物陰に隠れて彼女たちの声を聞いていた男が、ムクリと動き出した。
―――あの女だ。
あいつから、俺が求めているものが、ある!!あれを手に入れることが出来れば、俺は…
口元が三日月形に歪められ、ぎょろぎょろと動いていた瞳は香織に固定された。
男は――髪切り通り魔は、他の女の子たちからはぐれて一人になるのを待ち、それを求めて手を伸ばす――




