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第94話 ケージの蓋

 ハムの餌(えさ)の補充、水の入れ換えは朝に纏(まと)めて行っていた。最近では気付いた時にするようになった。

 昨晩は熱燗を呑んでいる時に気付き、ケージの蓋(ふた)を開けて餌を補充した。寒さはあまり感じなかったので使い捨てカイロは入れず、テレビ観戦に戻って猪口を呷(あお)った。徳利の中身が無くなれば酒をなみなみと注ぎ、レンジで熱燗に仕上げた。

 どれくらい呑んだのだろう。唐突に眠気が襲ってきた。なんとなく頭が揺れていることがわかる。

 そこで意識がプツンと途切れた。


 意識が戻ると翌日の早朝になっていた。テレビはアニメ番組を流し、部屋の明かりは点けっ放しであった。

 無意識でも布団に潜り込んでいた俺は上体を起こした。喉の渇きを覚え、リモコンでテレビを消すと冷蔵庫に入れていたレモン水を喉に流し込んだ。酒臭い息が少し緩和されたような気がする。

 戻る過程で畳に置かれたケージの蓋に目が留まる。慌ててケージの中を覗き込むとハムは餌の容器の側で丸くなって寝ていた。

 脱走の仕方を忘れたのだろうか。以前はケージの蓋がないことを利用して屎尿(しにょう)用のケースを踏み台にして跳んだ。前脚を縁に引っ掛け、よじ登ると上をそろそろと歩いた。開いた扉は細いがバランスを取って、そこから段ボールハウスの外へ飛び出した。

 鮮やかな脱走劇をこなしたのだが、もう、その心配はないようだった。

 体力の衰えもあるのだろうか。なんにしても大事には至らなくてよかった。

 ケージの蓋を元に戻し、再び布団の中に潜り込んだ。

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