第83話 これも遺産?
今日は朝の七時に目が覚めた。ハムの様子を見る前にリモコンでテレビを点ける。BSにある地域天気予報にチャンネルを合わせた。一日、晴天となっていた。黄砂も飛来しないようで安心した。
早速、縁側に新聞紙を広げた。網かごは複数、用意した。菜箸も必要だ。しつこい蚊の対策には緑の渦巻きを使う。
用意が整ったところで主役の甕を両手で持ち、縁側に置いた。蓋を開けると酸っぱい香りが漂う。
中を覗くと母親が生前に浸けていた梅干しがぎっしりと詰まっていた。浸かり過ぎて塩が結晶化しているものもあった。
こんなものがあるとは。
家の廊下の隅に甕は置かれていた。ずっと放置されていたので中身を確かめることはなかった。昨日、母親の友人が訪れ、初めて知った。
「お兄ちゃん、これ早く干さないとダメになるよ」
「わかりました。明日にでも干してみます」
「梅干しが嫌いじゃないなら、そうしないと」
その指摘を受けて梅干しの天日干しを始めた。
菜箸を使い、一個ずつ、網かごに入れていく。五十個くらいでいっぱいになった。二つ、三つと入れて最後は五粒となった。平皿に置いて済ませた。
百五十を超える梅干しを見て俺は思った。
食べ切るのに何年、掛かるのだろう。
干し終わったら一粒は仏壇に供えるつもりだ。最大の功労者が眠っているし、気は心ということで。
一仕事を終えた気分でハムのケージの蓋を開けた。餌の容器に尻を引っ付ける形で寝ていた。手早く容器を取り上げて中のおが屑を摘まみ出し、バランスよく餌を補充した。
ハムは俺の行動に抗議するかのようにケージの壁を前脚で掻き始めた。
「短気は損気だぞ」
言い含めて容器をそろりと下ろす。待ち切れないハムは後脚で立ち、縁を掴もうとしてやめた。急に鼻の辺りを前脚で擦り出した。
指を噛まれることなく容器を置けた。ハムは頭を突っ込み、ガリガリと何かを齧り始めた。
その様子を眺めながら俺は自分の指を鼻に近付けた。ほんのりと酸味が香り、胸いっぱいに吸い込んだ。
ハムは苦手かもしれないが、俺の今日の朝食は梅茶漬けとなった。




