第8話 カマボコ攻防戦
朝食のおにぎりをやめた。自ら茶碗で食べるようになった。その変化はおかずにも影響した。
新たに出汁巻き卵が加わった。飽きない工夫で茹で卵やベーコンエッグになる日もある。納豆や冷奴、キュウリの酢の物で脇を固めて品数を充実させた。
バリエーションが増えても変わらない一品がある。それはカマボコ。これだけは絶対に外せない。
朝は生のカマボコをスライスにして醤油に浸して食べる。
昼はうどんに入れた。ワカメや天かすの具の仲間入りを果たす。
当然、夜も食べる。五ミリの厚切りにしたカマボコの両面をフライパンで軽く炒めた。ワサビ醤油で食べれば立派な肴になる。
その努力が実って遂にカマボコ板を手に入れた。ハムが開けた穴を塞ぐように縦に入れてガムテープでしっかりと貼り付けた。完全には塞がっていないが潜り抜けることは至難。
実際、目で見た。ハムが隙間に鼻先を突っ込み、前脚で引っ掻く。一向に前へ進まず、グルグルと横回転を始めた。
その様子に思わず、ほくそ笑む。ハムは動きを止めてこちらを見上げる。
黒い円らな瞳で、おまえの仕業だな? と怒りを含んだ問い掛けは、たぶん気のせいだ。
その俺の行動が功を奏し、ハムは大人しくなった。一日だけではあったが。
小さな身体に大きな反骨精神を宿しているのか。カマボコ板の下部に食らい付く。手足をばたつかせた仰向けで無心に齧る。
「落ち着け」
もちろん、そんな声を無視して齧る。その勢いは凄まじく突破されるのも時間の問題に思えた。
当然、こちらも無抵抗ではいられない。カマボコの量を増やした。味噌汁、吸い物、茶碗蒸しまでは珍しくないが、お好み焼き、焼きそば、パスタ、カレーにまでぶち込んだ。
得られた板は綺麗に洗って縁側で天日干しにする。連日のハムの猛攻で一枚目の板が突破されそうになっていた。
辛うじて間に合った。強力な援軍のおかげで完全に穴は塞がった。下部を削られたカマボコ板は逆さまにして再投入した。僅かに食み出た穴はガムテープで隠した。下の損傷の酷いところには更に板を二枚、横並びで追加してミリ単位の隙間も許さない。
鉄壁の布陣である。迎え撃つ用意が整ったのでケージに閉じ込めていたハムを解放することにした。一面の左右の扉を開けて動向を見守る。
どのような行動に出るのか。期待してハムを見ていると出て来なかった。ケージの中で腹這いになって眠っていた。
楽しみを後回しにして俺は速やかに執筆へ戻っていった。
その後、左端の奥の角は聖域となった。齧る独特な音は、もう聞こえない。
下に並べられた板はハムのくつろぎスペースとなった。腹這いでゆったりしたところを何度も目にした。
果たして俺の苦労は報われたのだろうか。ハム心は秋の空、移り気で心配の種は尽きないが変化に富んで楽しくもあった。




