第71話 今日は朝から雨
煎餅布団で目覚めた時、外では雨が降っていた。線状降水帯と呼ばれる激しい雨ではなく、複数が囁くような音を立てている。
まずは朝の挨拶とばかりに段ボールハウスを覗き込む。
ハムはケージの中にある屎尿用の容器で丸くなっている。持ち込んだおが屑がふかふかの羽毛布団のようだった。居心地が良いのか。完全に目は閉じられ、ふくよかな狐のように眠りこけていた。
これならば起こさずに餌の補充ができるのでは。
問題はケージの蓋である。両側に付いた鍵爪のストッパーを静かに外し、蓋を垂直に持ち上げた。ハムはぴくりとも動かない。餌の容器を取り出し、不要なゴミを手早く取り除く。ミックスの袋を傾け、補充を済ませた。
ハムは目を覚まさない。容器を元に戻して取り外した蓋を取り付けた。一度、細めとなったが睡魔に負けて完全に閉じられた。
その間に給水器の水を入れ替えた。全ての工程が終わってもハムは目覚めなかった。このささやかな快挙に少し気分が上向いた。
パソコンの下部にある時計を見ると午前九時を回っていた。外は相変わらずの雨である。のっぺりとした曇り空なので、しばらく降り続けるだろう。
出掛ける前に俺は今一度、封筒に収めた住民票に目をやる。個人番号の欄には省略の文字が印刷されていた。
保険会社からの請求は個人番号記載の住民票のコピーである。二分の一の確率ではずれた気分になった。
雨の中、山越えか。
心の中で愚痴を零し、出掛ける用意を始めた。




