第59話 ハムが出て来ない
亡くなった母親と親交のあった人々が弔問客として我が家を訪れる。昨日の午前九時ごろにも二人がきて祭壇に手を合わせた。
その二人と俺は初対面ではあるが、母親が生前に語った内容を覚えているのですぐに打ち解けた。元気な母親の山でのエピソードや相談に乗って貰った過去を泣きながら話し、こちらは黙って耳を傾けた。
ひとしきり話したあとは段ボールハウスに目が向かう。
「母親が整骨院の前で拾ってきたハムスターがいます」
俺の言葉に興味を覚えた様子で二人は目を細めて上から覗き込む。ケージの中にハムはいなかった。周囲にも姿はなく自然と右隅の紙の山に目がいく。
「いないね」
「たぶん、この紙が盛られた中に埋まっていると思います」
「寒いから縮こまっているのかな」
「あと夜行性なので朝はあまり姿を見せません」
二人は納得したようで段ボールハウスの傍ら、母親の話を始めた。聞くだけではなくて俺も加わって少しの花を添えた。
意外と時間が進んだようで気付けば正午を超えていた。ハムは未だに姿を見せない。長くいた二人は、ごめんなさいね、と口々に言って静々と帰っていった。
俺は和室に戻ってきた。胡坐を掻いて紙の山を見つめる。息を吹き掛けても反応がない。段ボールハウスの側面をわざと爪を立てて掻いたが無視された。
「ハムちゃん、お昼だよ」
日頃はしないが呼び掛けてみた。紙の山は不動でなんの変化も見られない。不安が急速に高まる。
俺は紙の山を指で崩した。掘り進めていくと丸っこい背中が見えた。ピクピクと動き、ハムは顔を上げた。黒光りする目で静かに威嚇をしているようだった。
正直、ほっとした。目尻を軽く指先で拭い、残っていた洗い物を済ませた。
ハムは短命と知っていたが、今は長く生きて欲しいと願っている。




