↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
58/95

第58話 ハムより先に

 このエッセイは夜明け前の午前三時半に書いている。一度は横になったが眠れない。

 ハムは段ボールハウスの中で走り回っている。とても元気だ。拾ってきた母親は昨晩、風呂場で亡くなった。気付いた時には手遅れで心臓マッサージも人工呼吸も意味をなさなかった。

 急いで救急車を呼んだが、車中でも母親の意識が戻ることはなかった。着いた病院で三十分くらい待った。その長さが一縷(いちる)の望みとなった。

 間もなくして担当医から母親が亡くなったことを告げられた。関係者と共に黙祷を捧げ、午後九時台に家へ帰ってきた。

 地元の警察が来て経緯を訊(き)かれた。正直に話した。ハムがリンゴの枝を齧る音がする。妙に心がふわふわして悲しさは麻痺していた。

 その後、刑事が家に訪れ、再び説明を求められた。生前の母親の習慣や持病の有無をわかる範囲で話した。事件性の有無を調べているようで、それも仕方がないと麻痺した心で思った。

 刑事が協力を感謝して帰ると静かな家に独りとなった。ハムが走っている。音のない灰色の世界に少しの色を添えた。今日は比較的、暖かいのでカイロは必要ないだろう。

 段ボールハウスを上から眺める。昨日までは母親が隣にいて、ハムちゃーん、と呼び掛けていた。それが今日はない。誰も寝ていない布団を横目で見ると少し鼻の奥が痛くなった。

 今日も朝からやることがある。葬儀屋と一緒に母親の遺体を持ち帰り、会館に安置する。緊急搬送された病院の支払いや葬儀の費用、あと相続の諸々の手続きが控えている。考えると憂鬱な気分になる。

 昨日まで元気にしていた母親を頭に浮かべると、今日の自分はハイエナのように思えた。そうではないと弱々しく否定しても、自分自身を責める声が勝手に湧き出す。

 そのような経緯でハムの続きを書いている。なんとなく落ち着く。文字に起こすことで自身の感情と向き合えているような気がした。


 これからはハムと共に生きていく。そのハムも命は短いが、先を考えないで接していこうと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。