第57話 微かに臭う
一階の和室に微かな尿の臭いが漂う。発生源はわかっている。窓際に置かれた段ボールハウスである。
今日もハムは輪切りにしたニンジンを齧っている。覗き込む俺に気付くと紙の山に頭から突っ込んだ。
五分くらい眺めていたが出て来ない。中でオシッコをしているのだろう。
ケージの中に入れた糞尿用の砂箱は紙で覆われていた。頻繁にカボチャの種を咥え、カリカリと中で食べている。寝転がって砂浴びみたいなこともする。用途が違うのだが。
砂よりも紙の方がオシッコをし易いのだろうか。全体的に臭うが紙の山が一番、臭気が強くて鼻の奥を刺激した。
そこで殺菌することにした。障子を開けると青い空が見える。柔らかい日差しが紙の山を包んだ。他は日陰なのでハムが目を傷めることはないだろう。ネットの情報によるとガラス越しでは効果が弱いとされていた。
寒さ覚悟で窓を開けた。冷たい風が全身に当たる。そこそこの深さがある段ボールハウスにはあまり吹き込んでいないようだ。
朝から熱燗を呑みたい気分になったが、コーヒーで我慢した。段ボールハウスの側に腰を下ろし、ゆっくりと味わう。
紙の山の一部が脈動するように動く。そこからハムが顔を出した。朝陽を嫌うように対面の陰に入り込み、俺を見つめる。
また、お前か。眩しいんだけど。噛むよ? 血が出るまで噛むよ?
黒い艶やかな瞳で訴え掛けてくる、ような気がした。
数秒、見つめ合うとハムは走り出した。ケージの裏側を突っ切り、カマボコ板を貼り付けた聖地で毛づくろいを始めた。
気が済むとケージの中へ駆け込み、餌の容器に頭を突っ込む。ヒマワリの種を中心に食い漁る。零れる餌には見向きもしない。最後はカボチャの種を咥え、紙の山の中に持ち込んだ。
忙しない行動から寒さが窺える。段ボールハウスの紙の入れ替えはもう少し暖かくなってから行った方がいいだろう。
最後の一口を飲み終えた。庭の片隅にある蝋梅の黄色い花でタンポポを想像した。
寒さで身体が震える中、すぐそこまで来ている春を感じた。




