第54話 寒波にハムは
最強の寒波が到来した。ノートパソコンのキーを打つ指が冷たくて、そこそこ痛い。頻繁に炬燵の中に両手を突っ込み、休ませながらの執筆となった。
そこで集中力が途切れた。ハムの様子が気になる。
画面の下部を見ると朝の七時を回っていた。階下からテレビの音が微かに聞こえる。老齢の母親が起きたようだ。
俺はパソコンをスリープ状態にして薄暗い階段を下りていった。
一階の居間のカーテンは全開で淡い朝陽が差し込む。母親はキッチンで洗い物を始めていた。
俺は横目に和室へ踏み込む。窓際に置かれた段ボールハウスの異変を一目で理解した。右隅の一部から紙が溢れ出していた。その中にはヒマワリの殻や穀物のような糞が混ざっていた。
貫通を予想して敷いたカマボコ板は大きく横にずらされた。ハツカネズミのようにほっそりした姿で拾われたハム。今はどこかの銘菓のように丸っこい姿になっていた。更にこちらの予想を上回る腕力も身に付けたようだ。
手早くゴミの掃除を済ませる。ずれたカマボコ板は元に戻し、ガムテープでしっかりと貼り付けた。
その作業の音が気になったのか。ハムが紙の山から顔を出した。俺を見つけると駆け寄って後ろ脚で立った。その姿で段ボールハウスの壁を前脚で掻き毟る。
俺はケージの中の容器を目にした。餌の量がかなり減っていた。
遊びの要求ではないと判断してカボチャの種を摘まんで横手に差し出す。ハムは釣られてふらふらと歩き、種の先端に齧り付いた。
その間に俺は見えない位置に移動。テーブルの隅に置かれた多機能のデジタル時計を目にする。部屋の温度は三℃と表示されていた。
ハムスターは寒さに非常に弱いという定説を易々と打ち破る。野良時代の経験で培われたものなのか。
不思議に思いながら俺はハムスター気分でエアコンを起動させた。




