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第50話 寒い日

 我が家の地域の最高気温が十度になった。部屋の温度計は十五度より上にいかない。おまけに風が強く、窓の向こうで庭木が大きく枝を揺らす。

 ハムは寒さを敏感に感じ取ったのだろう。段ボールハウスの右隅に紙を盛り上げ、その中に引き籠っている。

 たまに抜け出してリンゴの枝を齧る。ケージの中の餌(えさ)は気付けば減っていた。給水器の水の減りは少しで運動不足に思えた。

 回し車は全く使っていない。紙が中に入れられて仮の寝床と化していた。

 十二月に入れば寒さは一段と厳しくなる。目前に控えた十一月の下旬。懐は寒くなるが温かいカイロを大量に購入した。

 早速、専用のプラスチック容器に入れて紙を盛り上げた下部にそっと押し込む。効果は十八時間なので寒い一日の大半をカバーできる。

 成果は上々(?)で引き籠る時間が長くなったように感じる。いつ見ても潜っている。枝を齧る音も聞こえて来ない。

 運動不足を推奨したつもりはないのだが。ネットの検索によるとハムスターは寒さに弱いと書かれていた。自前の毛皮は役に立たないようだ。

 実に悩ましい。短い寿命なのでストレスなく過ごして貰いたいと思う気持ちがある。折衷案として思い付いたことを実行に移す。

 夕飯の用意で一階に下りた俺は段ボールハウスへ直行。上から覗くとハムの姿が見えない。隠れられる唯一の箇所、紙の山に向かって息を吹き掛けた。一度や二度では顔を出さない。根気よく続けているとハムが横手から這い出した。

 すかさず用意したカボチャの種を摘まんで鼻先に近付ける。取られないタイミングで引き離す。ハムは釣られて追い掛ける。その一連の行動を繰り返した。

 これもハムの運動の為と心に言い聞かせてはいるが、ちょっと楽しい。ギリギリの距離を保ち、飛び付かれる前に後ろへ下がる。


「ただいま~」


 玄関から老齢の母親の声がした。気を取られた瞬間、ハムは齧り付いた。何故か俺の人差し指に。

 鋭い痛みで反射的に手を引っ込めた。その時に落としたカボチャの種を素早く咥え、猛ダッシュで紙の山に突っ込んだ。僅か数秒で完全に見えなくなった。

 少しは運動不足解消になっただろうか。噛まれた側面を摩りながら俺は今日の献立を思い浮かべた。

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