第49話 不思議な商品
ハムの餌の代表格。ヒマワリの種が残り少なくなった。
そこで専門の店に訪れた。目的のヒマワリの種は二袋。栄養バランスを考えてミックスも買った。あとは段ボールハウスに敷き詰める冬用の紙を買い込む。
レジに向かう途中で別の一品が目に留まった。同じ長さに揃えられた木の枝が袋に入っていた。合計で十本、ハムスター専用の齧る枝らしい。
そこで少し前のことを思い出す。やたらと段ボールを齧るので山で拾ってきた木の枝を入れてみた。見向きもされなかった。朝に置いた枝は夜まで同じ位置にあった。当然のことながら齧られた跡もない。
訝し気に見ていると店員に声を掛けられた。
「その枝はリンゴの枝なので、とても甘い香りがしてハムスターはよく齧りますよ」
「そうなんですか」
疑問に思いながらも一つを手に取る。空気穴のようなものが開けられていたので鼻を近付ける。木の香りはするが甘いとは思えなかった。
だが、買ってしまった。店員の笑顔に押し切られた。
自宅に帰ると和室に直行した。ハムは段ボールハウスの左手前の角にいた。横向きで丸まって鼻の辺りを前脚で掻いていた。少し露骨だが枝の一本を被せるように置いた。即座に飛び付いて齧る姿を想像したが、そうはならなかった。
何も気にしないで動きを止めた。本格的な眠りに入ったようだった。眺めている時間が惜しくなり、俺は二階の自室へ戻った。
午後六時を少し回った。ノートパソコンをスリープ状態にして下へ降りる。
夕飯に取り掛かる前にハムの様子を窺う。入れた枝は齧られていた。齧りながら回したのか。樹皮が剥けて白い輪を作っていた。
適当に山道で拾った枝よりも、リンゴの枝の方が好みに合ったらしい。値段に見合う活躍にまずは満足した。これで段ボールへの直接の被害も少しは緩和されるだろう。
でも、本当にリンゴの枝は甘いのか?
一本を摘まんで口元に運んだが、そこで思いとどまる。どうにか人間の尊厳を守った俺は夕飯に鶏の甘酢餡かけの一品を加えることにした。




