第40話 ハムに噛まれず、撫でる方法
祝日に関わらず、早くに目が覚めた。
相変わらず、吐く息が酒臭い。幸いなことに二日酔いにはなっていなかった。
二階の自室を出て一階の和室に向かう。部屋に入った瞬間、ガリガリと齧る音が聞こえる。
窓際に置かれた段ボール箱を覗いてみる。左手の奥、カマボコ板に守られた強固な角をハムが仰向けの姿で齧っていた。
その間に中へ入れたケージの蓋を取り外す。餌の容器を手に取ると、かなり中身が減っていた。ヒマワリの殻を取り除き、餌を補充する。給水器の水も少なくなっていたので入れ換えた。
急ぎ足で戻る途中、齧る音が聞こえないことに気付いた。
上から見るとハムがケージの上部に前脚を掛けてもがいていた。鉄棒で逆上がりができずにいる児童の姿とよく似ている。それは第24話で書いた『真脱走経路』を証明する行動だった。
黙って見ていると勝手に落ちた。無様に転がる姿は見せない。見事な着地を決めると何事もなかったかのように砂を入れた容器の上に乗った。給水器をセットしている間に跳び、距離が足りずに壁へ当たって落ちた。闘志に火が点いたのか。その行動を延々と繰り返す。
ついに前脚が上部に掛かった。先程と同じようにもがく。這い上がろうとして、なんと成功した。細い上の部分を用心しながら歩く。ケージの開いた扉を目指しているようだ。
その上は更に細い。揺れながらも一歩を踏み出す。バランスを取りながら少しずつ歩く。
このままでは外へ逃げられる。俺は妨害のつもりでハムの背中を指で撫でた。無視して前進を試みる。
全く噛まれないことに気を良くして掌で撫でた。ハムは足を踏み外し、木屑の中に半ば埋まった。
十分に和んだのでケージの蓋を取り付けた。ハムは抗議するようにケージの壁を前脚で猛然と引っ掻いた。
秋分の日、俺はハムに噛まれず、背中を撫でる方法を編み出した。




