第39話 新ルート
少し汗ばんだTシャツを摘まんで引っ張る。生温い風が入り込み、不快な気分が少し改善された。が、喉の渇きは一向に癒えず、一階へ下りた。
冷蔵庫に直行。ロンググラスに冷やした水をなみなみと注ぎ、一気に飲み干した。
その間、耳はガリガリという音を聞いていた。目は和室の段ボール箱に向かう。過去の脱出経路はカマボコ板で塞いだ。その仕返しで齧っている姿が頭に浮かぶ。
足音を忍ばせて覗き込むと左隅のカマボコ板の対面にハムがいた。横向きになって角を齧る。仰向けになって穴を広げ、うつ伏せにもなった。その激しさを和らげようと敷き詰められた木屑をハムに掛けた。
払い除けるように回転して尚も齧る。
その挑戦、受けて立つ。
近くの木屑を手で集めてドサッとハムの上に被せた。全身が見えなくなると前脚で撥ね退けようとした。対抗して更に木屑を足した。小さな両手両足をばたつかせて木屑を懸命に払い落とす。
そこで俺は様子見の態勢に入った。ようやく落ち着いたハムがこちらを円らな黒目で見上げる。
何を思ったのか。突然、ハムが走り出した。ケージを回り込んで右隅の奥の巣穴に頭から潜り込んだ。丸くて白い尻尾は隠さず、寝る体勢に入った。
しばらく出て来ないと思い、改めて左手前の角に目を落とす。全体的に穴が広がっていた。
まさか……。
顔を近づけた。大きさは小指の爪くらいで畳が露出していた。齧られた跡はないので、余った段ボール箱の一部を切り取って外側から穴を塞いだ。無駄とは思いながらも広がった穴に木屑を詰め込む。指で押して表面を固めた。
ちらりとハムの様子を窺う。愛らしい丸い尻尾を見せたまま眠っているようだった。自然に頬が緩む。
カマボコを買い足すか。
親馬鹿ならぬ、ハム馬鹿になる日曜日の午後であった。




