第4話 貰った段ボール箱
喉の渇きを覚えて一階の冷蔵庫を漁る。奥の方に突っ込まれたペットボトルを見つけて引っ張り出す。ミルクティーの商品名に少し悩むものの口を付けて一気に飲み干した。
甘さは控え目で後味の香りも悪くない。喉の調子も少し改善されたようだ。
執筆を再開しようと玄関へ向かう。横手の階段の手前で足を止めた。階段下の収納庫の前に段ボール箱が置かれていた。
定番の長方形の物ではなくて縦に長い。あまり目にしたことのない形で側面に企業名のようなものが印刷されていた。
目は母親を探す。居間に入って横手の窓を開けると駐車場に車はあった。すかさず庭を見ると小さな木製の椅子に座った母親が草むしりに精を出していた。
縁側に出て声を掛ける。
「階段下の段ボールの用途はなんだ?」
「あー、あれは整骨院で貰ってきたんだよ。ハムちゃんに使ってあげて」
適度に太ったハムにケージは狭い。そこで縦に長い段ボール箱を利用する案を提示していると解釈した。
どうやって?
心の中に投げ掛けた疑問で思考が止まってしまった。考えてわからなければ実行あるのみ。その独特な形の段ボール箱を居間に運び入れる。開いた上部からケージをそのまま収めてみた。
自然光が届かないせいで薄暗い。内部を確かめる為に上部の蓋を開けた。後ろ脚で立ち上がったハムがおどおどした様子でいた。走っては立ち止まり、周囲を気にする素振りを見せた。
俺はケージを元の座卓に戻した。
今一度、真摯に段ボール箱と向き合う。横幅はあまりないので縦の長さに注目した。数分で妙案が頭に閃き、早々と実行に移す。
まずは段ボール箱の底の部分を開いた。全体を平たい状態にして半ば辺りを糸鋸で切断。切り分けた物の蓋となる部分は閉じて強力なガムテープで補強した。あとは二つの側面の部分を切り抜いて繋げればいい。もちろん合わせた部分がずれないようにガムテープでしっかり貼り付ける。
完成した横長の段ボール箱を窓際に置く。障子を通した淡い光が底の部分をほのかに照らす。ケージは左寄りに入れた。左と前後は今後、通路として使えるように間を空けておく。
段ボール箱の中にも紙を敷き詰める。一袋の半分が無くなった。
舞台が整うとケージの側面にある左右の扉を開けた。ハムの意思で出入りが自由に行えるようになった。
その状態でハムの動向を見守る。給水器の近くで縮こまっていた。呑気な見た目と違って意外と用心深い。五分も経てば慣れてくるのか。ようやく出てきた。
広々としたところを一気に走り出す。ケージの間の通路を利用して周回を重ねた。どうやら気に入って貰えたようだ。
俺は切り分けた時に発生した紙屑を処理して二階の自室へ戻った。
夕方、一階に下りると真っ先にハムのところへ向かう。
「どこだ?」
一瞥した程度では見つからない。脱走という言葉が頭に浮かんだが、そうではなかった。ケージの外の左隅が不自然に盛り上がっている。軽く息を吹き掛けると一部が、もぞもぞと動き出した。
広さの恩恵を感じるのはこれからなのだろう、と思いつつ鶏肉の解凍を始めた。




