第3話 深緑の悪魔
座り仕事は肩や腰を痛め易い。そこで定期的に近所の山へ登る。昔の旧街道は起伏に富んでいる。
夏場は道が木々に覆われていて涼しい。一部で水が湧き出し、沢蟹を目にすることができた。開けた場所もあって、そこそこの眺望を楽しめる。山間部を突っ切ると別の街道に行き当たる。
その先まで足を伸ばすとかなりの時間を取られる。半日コースになるので山を背景にした田畑を眺めながら大回りで帰宅するのが常だった。
今日も約二時間の山登りを経て我が家に帰ってきた。そのまま浴室に直行。汗を洗い流し、さっぱりした状態で落ち付いた。
午後五時という時間もあって口は肉を求めてやまない。厚さ二センチのサーロインステーキが頭に浮かぶ。切り分ける時に滲み出す肉汁を想像するだけで胃が刺激された。付け合わせはマヨネーズと黒コショウが効いたマッシュポテト。たっぷりのニンニクと焦がしベーコンの入ったコンソメスープも欲しくなる。
食欲の加速に合わせて機敏に動く。足早に冷蔵庫へ向かい、野菜室を開けた。
その直後にげんなりした。カットされたカボチャが底の方に転がっていたのだ。中心の種の部分は取り除かれていた。
俺は白いレースカーテンを開けて縁側を睨み付ける。陽のよく当たるところに豆腐の容器を見つけた。中には綺麗に洗われたカボチャの種が入っていた。
一目でわかる。あれはハムの餌である。同時に過去の夕飯を思い出す。
ある晩、カボチャの煮付けを食べていると母親が唐突に言い出した。
「カボチャの種もハムちゃんの餌になるよね?」
「梅干しの種よりは食べるだろうな」
「そうよね。きっと、そう」
それからである。我が家の野菜室にカボチャが居座るようになったのは。
使い切ってもすぐに母親の手で補充される。そのせいで日々、何かしらのカボチャ料理が加わった。
定番のカボチャの煮付け。カボチャのスープ。少し凝ったカボチャのグラタン。カボチャの天ぷら。焼きカボチャ。
どれだけ工夫をしても食べ飽きる。そこで俺はネットをフルに活用した。検索した結果を母親に伝える。
「ハムスター専用のミックスフードが手軽で良いそうだ」
その効果は絶大で悪夢のような日々を脱した。もう、三日もカボチャを見ていない。
四日目、深緑の悪魔は野菜室にしれっと舞い戻ってきた。




