第31話 ハムと雷
食中毒に罹った空がゴロゴロとうるさい。目に鋭い光が入り、数秒後に落雷のような音が聞こえた。
壁際は危ないと何かで読んだ記憶がある。俺はノートパソコンを部屋の中央に移動させて執筆を続けた。
再び目に光が入った。瞬間、胃に響くような音が降ってきた。時間にして一秒もない。真上のような位置関係に俺は即座に立ち上がった。
自室を飛び出して一階へ駆け下りる。和室の窓辺に置かれた段ボール箱を猛然と覗き込んだ。
ハムは右隅の奥で丸まっていた。腹を下した空がゴロゴロと音を立ててもピクリともしない。試しに息を吹き掛けたが微動だにしない。固い意志で起き上がることを拒否しているようだった。
マウンテンバイクで野山を駆け回っていた頃を思い出す。
その日、急な雨に降られた。ゲリラ豪雨に等しい。俺はハンドルを切って木々に覆われた山道へ逃げ込んだ。雷雲を伴っていて移動もままならない。
その時、木の枝にいるものに気付いた。鳥のようだった。
じっと見ても置物のように動かない。激しい雷の音にも動じない。木彫りの鳥のように枝にとどまっていた。
雷雲が遠のくと鳥は一瞬で飛び立った。
今のハムがその記憶の鳥と重なった。雷の脅威に晒され、身動きが取れない状態にいると判断した。
俺はそっと手を伸ばし、横っ腹に触れてみた。
ハムは瞬時に飛び起き、俺の人差し指を噛んだ。立つ鳥は跡を濁さないが齧歯類には関係ないのだろう。
人差し指の先端を親指で擦りながら俺は自室に戻っていった。




