第26話 外への憧れ
ハムの様子がおかしい。昨日の昼までは一新した環境に興味を持ち、楽しんでいるように思えた。
昼を超えた辺りで異変に気付く。いつ見てもケージの中にいる。扉は開けっ放しで出入りは自由になっている。外は縦長の段ボール箱に覆われ、白樺の木屑が香って糞尿の臭いはほとんど感じ取れない。爽やかな空間が広がっていた。
素材のおかげで暑さもしのげる。走り回って遊んだあとは涼しい寝床でいつまでも眠ることが可能だ。その環境の改善に全く関心がないという風にケージの中で寝そべっていた。
ささやかな変化として見る度に位置と姿が微妙に違う。餌が盛られた容器の横に丸さを競うように寝ていた。ある時は排泄用の砂を入れた容器の上で丸くなる。回し車の中で腹這いになっていることもあった。
初回を除けば、ずっとケージの中で眠っていた。深夜帯はこちらも寝ているのでわからないが。
今朝の俺の目覚めは遅く、午前七時を少し回っていた。強い瞬きを繰り返し、急いで一階へ駆け下りた。
引き戸を開けて和室へ踏み込み、窓際に置かれた段ボール箱に大股で向かう。
ハムはケージの外にいた。俺の視線を気にせず、壁際を走って目に付いた角を齧る。再び走って急に立ち止まり、円らな黒目で上を眺めた。数秒で今度は全力疾走。カマボコ板で囲まれた聖域に仰向けとなって齧った。ジタバタする姿はいつ見ても和む。
気が済むと後ろ脚で立ち、またしても上を見る。背中が反り気味で後ろによろけることもあった。その視線は俺に向けられていない。脱走した時の興奮や喜びが脳内を駆け巡っているのだろうか。
どれほど広い棲み処を与えても広い世界への憧れは持ち続けるように思う。鍋掴みを両手に嵌めていればハムに噛まれる心配はない。思う存分、外の世界に連れ出すことができる。
その間、俺はハムに目を光らせていればいい。執筆の時間は取れないが、これも家族サービスと思えば……少し書き進めてから実行するか。




