第21話 ハムのことを考えて
早朝のキッチンに立った俺は動きを止めた。指先で摘まんだニンジンの先端を眺める。刻めばいろいろと使えるが少量なので味に貢献することはない。
端材と侮って捨てるのはもったいない。庭のコンポスターに入れれば肥料になる。
他に使い道はないのだろうか。ニンジンを見ながら考える。その時、ガリガリと齧る音が聞こえてきた。
そこからの俺は迷わない。ケージの中に置かれた餌の容器にニンジンの先端を押し込んだ。
左角を齧っていたハムは気付いていない。仰向けの状態で穴の拡張に勤しんでいる。外側からカマボコ板で補強された部分なので俺は余裕の笑みを浮かべた。
二階の自室で執筆を始めて八時間が経過した。終わるタイミングと思い、ノートパソコンをスリープ状態にした。
夕飯を作り始めるには少し早いが、ニンジンの状態が気になる。
一階に下りた俺はその足で段ボール箱へ向かった。ハムは右隅の奥側で横向きに丸まっていた。邪魔が入らないうちにケージに目をやる。容器に寄り添う形でニンジンが落ちていた。
人差し指で引っ繰り返すと齧った跡が見られた。底の半分くらいが斜めに削られているので、食べたと判断してもいいだろう。
ネットの検索ではメロンの皮を好んで食べるハムスターがいた。他にキャベツを与えている画像を見たことがある。確かリンゴもあった。雑食なのだろうか。
あの鋭い歯(体験済)であれば、パイナップルの皮も好みの範疇に入るような気がする。アボガドや脱穀前の米もいけそうだ。
数日前、冷蔵庫の奥で発見された納豆が頭に浮かぶ。まだ開けてはいない。水分を失って石のような状態が想像できる。ハムに与える時は当然のことだが、タレは掛けない。自分で食べる場合でも半分くらいしか使わない濃さだ。
ハムの身体のことを親身に考え、しかもリサイクルになる。環境にも優しいとくれば試さない手はない。
たぶん今の俺は、かなり悪そうな顔で笑っていると思う。




