第20話 また、いない!
まさか一日に三回も更新するとは思わなかった。たった今、汗ばんだ身体で自室に駆け込み、文字を直打ちしている。歯の間に挟まった焼きそばの青のりを気にしている場合ではない。
またしてもハムがいなくなった。聖域は四枚のカマボコ板に覆われて隙間さえ見えない。対面の角には浅い穴はあるが貫通はしていない。外側にはもしもに備えて一枚のカマボコ板を貼り付けていた。
右隅の二つの角を見ても浅く掘られた程度の軽微な被害にとどまる。脱出経路の解明は忘れて、まずはハムの行方を追うことにした。文机の下にはいない。前例があるので壁伝いに移動できる仏壇の前で耳を澄ます。掌を打ち付けて音の反応を試みた。
確信は持てないが、いないと判断した。今度は耳に頼る。微かな音も聞き逃さないように集中した。
ほんの僅か、引っ掻くような音がした。発生源に近付き、再び耳を澄ます。
ようやく出所を突き止めた。段ボール箱の右横に置かれたプラスチック製の四角い物体、通称おもちゃ箱の中から聞こえた。上から見てもハムの姿は見つからない。
布製のクマの人形を取り出す。奥に押し込まれたけん玉を取り去り、空気の抜けたビニール製のボールを握って持ち上げた。底の方に頭を突っ込んで挟まったハムが藻掻いていた。
どのようにして入り込んだのだろうか。考える前に行動に移し、おもちゃ箱を真横にした状態で段ボール箱の中に置いた。ハムは自ら飛び出し、ケージの中へ駆け込んだ。餌の容器は無視して給水器に齧り付いた。
長い時間、おもちゃ箱の中で暴れていたようだ。
俺は脱走経路に思いを馳せる。穴に執着しないで全体に目を向けた。
右隅の奥の角、垂直の壁に細かい縦の線が幾つも入っていた。他の角にはないのでここから抜け出した可能性は否めない。大雑把な対抗策として線が多く入った箇所から上の部分をガムテープで覆った。ツルツルした表面に期待したい。
この予想が外れれば三度目の脱走を許すことになるだろう。
今後の話の展開に目が離せない。それを俺がいうかと。取り敢えず、汗だくなので風呂に入る。




