第19話 常識を疑う
作品の執筆にはネットでの検索が欠かせない。例え自分が知っている事柄であっても一度は調べる。過去、正しいとされた内容が現在まで通用するとは限らないからだ。
少し前の話になるが、鎌倉幕府の成立年を検索で知った。昔の覚え方、1192作ろう鎌倉幕府ではなく、1185作ろう鎌倉幕府に変更された。現代の箱物行政を連想させて不穏な門出を醸し出す。
それと同様に人類最古はアウストラロピテクスではなくなった。サヘラントロプスチャデンシスという生徒の記憶力を試すような名前で爆誕した。
このように検索で得られた副産物は多い。しかも記憶の修正に大いに役立つ。
最近ではハムスターの撫で方のコツと銘打たれた内容を見つけた。その前に目にした情報では触られるのが苦手とあった。矛盾しているように思うが、興味は撫で方に移っているので無視する。
冒頭近くに死角からのお触りはNGとあった。恐怖を覚えるそうだ。感覚で理解して先に進める。そこに欲しい情報が記されていた。見える位置から手を伸ばし、頭から背中の毛並みに添って撫でるのがコツらしい。
試したい一心で階段を駆け下り、段ボール箱へ向かった。
ハムはケージの中にいた。何もしないで腹這いで丸まっている。やや目は細く寝る寸前のように思えた。
早速、コツの内容に従って手を入れる。給水器から突き出たノズルを避けながらハムの頭に触れようとした。
拒絶するかのように後脚で立ち上がった。狙いを後頭部に切り替えた。後ろに下がって対応した。
指先で背後に回り込もうとしても動きに合わせてハムが回りながら下がる。半ばまで開いた口は、ある種の警告のように思えた。
どうやっても頭を触れない。背中を撫でる行為は遠い夢となっていた。そこでやり方にアレンジを加える。鍵爪の状態で指の間隔を開き、ハムの頭部の全方位を狙えるようにした。
名付けてハムキャッチャー。指の位置に翻弄されて対応できないはずだ。
狙いを定めた俺は右手を真下にいるハムに下していく。早々と親指と人差し指を噛まれた。痛さに耐えていると薬指を前脚で掴んで齧った。
噛まれた手を引き上げ、軽く振って立ち上がる。洗面所で手を洗うついでに指先をよく冷やした。
静かに階段を上がってゆく。そこで思う。
常識はいつでも塗り替えられると。あのコツも古びて現代では通用しなくなったのだろう。
そのように自分に言い聞かせて、すごすごと部屋へ戻っていった。




