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第17話 この野郎
執筆の手が止まってしまった。茶髪の若い女性が同性に向かって、この野郎、と叫ぶ場面。違和感なく書いたものの、ふと疑問が頭に過って文章を消した。『野郎』は男性限定の言葉なのではと思い直す。
ネットの辞書で調べてみた。男性を貶める言葉と明記されていた。
昔、テレビで観た女子プロレスが脳裏に蘇る。体格の良いヒール役がほっそりした女性の長髪を掴んで、この野郎、と観客にアピールするように叫んでリング内を引きずり回していた。この女郎とは決して言わない。
余計な情報が割り込んで考えが一向に纏まらず、頭が静かに煮え立つ。頭を冷やさなければ。一階に下りると冷蔵庫から冷えたビール缶を取り出し、中身を喉へ流し込んだ。
実に美味い。平日の夕方もあって背徳感の味がする。
「ハム~、ハムちゃ~ん」
少し陽気になった俺は歌うように段ボール箱へ近づく。ハムは後脚で立った状態で出迎えてくれた。気分よく手を差し出すと薬指の先端を噛まれた。いつもより強い力に驚き、一瞬で手を引き戻す。
瞬間、俺は怒りを忘れて階段を駆け上がる。自室の椅子に飛び乗り、急いで文章を書き足した。
「ふざけんじゃねぇ、この野郎! ぶっ殺すぞ!」
ビールで勢いも増した。雌のハムのおかげと言える。




