第16話 リアルタイム
梅雨のはずが連日、最高気温が三十度を超えている。日が暮れると今度は熱帯夜に悩まされる。当然、寝付きも悪い。
朝、目覚めると首や腕が汗でべたつく。一晩中、寝技を掛けられていたような感覚で身体が重い。
しかし、食欲は変わらない。今日も一階の食卓でおにぎりを頬張る。対面に座って紅茶を飲んでいた母親が急に話し掛けてきた。
「ハムちゃんの話、面白いね」
「読んでるのか? 内容は知ってるだろ」
「文章だと、また違うのよ」
母親は顔を皺だらけにして笑う。老婆ではあるが無邪気な子供のようでもあった。
俺は少し考える。母親はスマートフォンを使って読んでいる。時間帯を考えると家にいる時が濃厚だ。カクヨムのアカウントは取得していないはず。行程が煩雑なので出来るとは思えない。従って星やハートとは無関係。評価してくれた人々の登録日を見たことがあるが、最近のものは含まれていなかった。問題はPVの増加である。
その時、母親が訊いてきた。
「困ったりする?」
「どうだろう。カクヨムには金銭が発生するシステムがある。名前はロイヤルティプログラムだったかな」
「ミルクティーみたいだね」
「それはロイヤルミルクティーな。俺はそのシステムに参加していないので、PVという閲覧記録の増加が収益に繋がることはない」
そこまで語って母親の様子を窺う。話の内容を理解できているだろうか。
「それなら読んでもいいよね」
「まあ、そうなるかな」
「次の話はいつになる?」
にこやかに話し掛けてくる姿でわかる。続きの催促だ。予定していたコンテスト用の小説は後に回すか。
「食べ終わったら書く」
「時間が掛かると思うから先に洗濯を済ませるね」
「それがいい。風呂掃除は俺がやる」
「ありがとね、お兄ちゃん」
母親はおにぎりを齧る。突然、口を窄め、プルプルと震え出した。
「梅干しの量が多いよ」
自分の握ったおにぎりに文句を言う。紅茶を急いで啜る姿は大きいハムを見るようだった。
第16話で問題ないと勝手に決め付けているが、本当のところはカクヨム運営にしかわからない。メールによる警告文は届いていない。とは言え、認められたと安易に思うこともできない。
俺のノートパソコンを使って母親に読ませるのが一番の解決方法に思える。そのような時間が取れれば、の話ではあるが。




