第12話 庭を有効に使いたい
ケージは生活に困らない最低限の要素がギュッと詰め込まれていた。排泄用の砂場。運動用の回し車。給水器と餌の容器。敷き詰められた紙の恩恵で場所を選ばず、寝床に使える。
最大のネックは狭さにあった。そこで段ボール箱を使って拡張した。一気にスペースが広がって快適空間となった。見慣れてくるとそれでも狭いように思えてきた。
俺は窓辺に立ち、庭を眺める。四月に入っていろいろな物が生えてきた。三つ葉と紫蘇が覇権を争う。遠巻きにしていたニラが追い込むように勢力を伸ばす。
排水溝で隔絶された土地ではクローバーが繁茂していた。チアリーダーが扱う白いポンポンに似た花を至るところに咲かせている。大気には甘い香りが漂い、思わず深呼吸をしてしまう程だ。
境界である壁際には柿の木を筆頭に高木が瑞々しい緑で輝く。その下にはチャノキやグミが落ち着いた佇まいを見せた。
この庭をハムの遊び場に出来ないだろうか。理想は庭に離し、自由に行動させる。その間、俺はゆったりした気分で縁側に座り、のんびりとビールを楽しむ。
遊び疲れたハムは俺の元に戻ってきて、愛らしい声で鳴く。わかったという風に頷き、掌に乗せて段ボール箱へ戻す。
なんと素晴らしいファンタジーなのだろうか。庭にハムを離せば自発的に戻ることは絶対にない。草花に身を隠しながら脱走を図るに決まっている。手綱になる何かがあれば状況は変わるかもしれない。
最初に頭に浮かんだのは四本の紐だった。個々の先端に丸い輪を作る。そこにハムの四肢を通し、背中の辺りで軽く結び、束ねた紐の先端を俺が握る。
その状態で庭に離せば脱走を食い止めることができる。ハムは存分に身体を動かし、晩に食べるカボチャやひまわりの種に舌鼓を打つだろう。
単純な方法でありながら有効性も十分。そこまで考えて苦笑した。
無理だろうな。
胸中で思った。紐を取り付けたハムの姿が全く想像できない。恐らく暴れる。それだけでは済まず、噛まれる。何度も噛み、全身で拒む。嫌がらせを受けたと取られる可能性さえある。
少し歩み寄った関係が壊れ、今後、掌に乗ることはなくなるかもしれない。
この案は早々に見送られた。取り敢えず、朝食後、段ボール箱に立ち寄り、ハムに微笑みながら手を伸ばす。
中指を噛まれた。甘噛みと強く思い、俺は今日の執筆を始めるのだった。




