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第二話:始まりの温泉

「水遊びには少ない水たまりだけどなんかあったかくて気持ちいいかも!」


「水質は普通……?土の色、でしょうか……ほんのり茶色みがあるような……匂いは無い、ですね……」


 浅瀬で楽しそうにぱしゃぱしゃと水を踏みはしゃぐペネロと、その横でお湯を掬っては不思議そうに温泉を見つめるシーカの横で俺は顎に手を当て考える。


 温泉宿を作る、と意気込んだものの建築の知識もスキルもない一般成人男性がゼロから温泉宿を作るなど夢のまた夢だろう。


 まずは異世界に来てから新しく身につけた俺のスキル『材料加工』がどの程度の精度や範囲で利用できるのかを試してみたかった。


 俺の持つスキル『材料加工』について、分かっている能力は3つある。


 まず一つは『素材の切り取り』

 読んで字の如くだが、石や木などの素材を好きな形に型抜きができる能力だ。

 素材に手のひらを当て、頭の中で形をイメージして念じるとその形に切り出される。


 そして二つ目が『接合』

 これもその名の通り、素材同士をぴたりと貼り付けることができる能力だ。

 接着させたい部分に指で円をなぞり、部分同士を貼り付けるとまるで接着剤でもつけたかのように動かなくなる。

 意外とこれが便利で、かなりの接合力がある。


 最後が『研磨』だ

 素材を磨く、ただそれだけの能力だが石は光を反射するほどになるし木の断面はささくれなくスベスベになる。

 

 とは言ったものの、村でこれらの能力を使う時は家具や道具の修理、補強がほとんどであり、荷物持ちや買い出しなどそれ以外の手伝いもあったため、有って無いような能力だった。


「2人とも、試してみたいことがある、ちょっといいか?」


 俺は2人の前に出ると肘ほどの深さまで温泉の溜まっている窪みの前に腰を下ろす。


「リ、リョウさん……?なにを……?」


「なになに?どうしたのー?」


 不思議そうに見つめる2人をよそに、でこぼことした温泉溜まりに腕を入れ、手のひらで地面の岩肌に触れる。


(横120、縦80、深さ50の程の長方形をイメージ……地面をくり抜くように……っ!)


 頭の中の形を伝えるように、強く手のひらを地面に押し付けたその瞬間。



 ━━━ごぼぼぼ……っ!


 まるで風呂の栓を引き抜いた時のような、勢いよく水の抜ける音と小さな衝撃と共に、俺の目に現れた、()()()()()()()()()()()()()に、少し遅れて周りのお湯が流れ込む。


「…………」


 衝撃から遅れて、手の平からじわり、と、急激に心拍数が跳ね上がるかのような高揚感が押し寄せてくる。


(……できた……本当にできた……っ!)


 予想通り、いやむしろ予想以上に上手くいった達成感と、自身のスキルの新たな可能性への驚きで、俺はしばらくその体勢のまま動けずにいた


「な、何をしたんですか……!? こ、攻撃魔法……!?いやでも、魔力の発生も、詠唱も、魔法陣すら無かったのに……!?」


 一番に声を上げたシーカは、普段の姿からは見たこともない程に目を見開き、くり抜かれた穴と俺の姿を交互に見つめている。


 スキルを行使した俺自身ですらまさかこんなことができるなんて思っても見なかったのだ。

 魔法使いかつ研究肌の彼女にとって、今の現象は常識を覆すほどの衝撃だったのだろう。


「すごーーい! キミ、穴掘り上手だね!?どうやったのー?ねぇもう一回!もう一回やってよ!!」


 尻尾をプロペラのようにぶんぶんと振り回し顔を近づけるペネロに、まてまて、と落ち着かせながら、一息ついた俺はもう一つの『研磨』の能力を使うため、くり抜いた岩のフチに手を添える。


 意識を込めて手を横に流すと、削りたてで尖っていた岩の角が、丸みを帯びていき、その様を見てまたも2人がおおおっ、と感嘆の反応をしてくれる事に若干のむず痒さと照れ臭さを感じながらも、岩のフチを一周すると、まるで大理石のごとき輝きを持った岩の浴槽ができあがった。



━━━足湯の完成だ



 「よしっ、これで怪我もしないはず、2人とも、ちょっと靴を脱いで、ここに足を浸けてみてくれないか?」


 俺はぱしっと膝を叩いて立ち上がると、2人を足湯に誘導する。


「え…?え、えっ…それは……どういう……?」


 俺からの急な提案に、戸惑ったような反応を見せるシーカ。


「この中のお湯に足を入れるの?なになにー!どうなるんだろー!入る入る!」


 そんなシーカの隣で、興味津々といった様子のペネロは岩のフチに腰を下ろし、ちゃぽんと足をお湯につけた。



「…ふわ……っ、ふわわわっ……なにこれぇ……っ!」


 ぴこぴこと耳を震わせながら、さっきまでのはしゃぎようとは一変、床についた手に全ての体重を預けるように、ふわぁと息を吐きながらダラリと力を抜いていた。

 

 「あったかーい………ねえねぇ……これすっごく気持ちぃよぉ……」


 ふにゃりと顔をほころばせ、目の前で骨抜きになったペネロの様子を見たシーカはごくり、と喉を鳴らす。


「……じゃあ、私も……っ、し、失礼します……っ!」


 好奇心を刺激されたのか、シーカもいそいそと靴とタイツを脱ぐと、白く細い足を恐る恐るお湯へと沈める。


「っ……あ……!……ふあ、あぁ……っ」


 お湯に足を浸けた瞬間、シーカの口から蕩けた声が漏れる。


「な、何ですかこれ……っ、ただ温かいだけじゃなくて、じんわりと足の疲れが抜けていく……ような……このお湯の効果……?わからないけど……とにかく気持ちいい……」


 さっきまでの緊張が嘘のように、2人の表情がみるみる柔らかくなっていく。

 ペネロはともかく、シーカは遠出に、さらに足場の悪い山の中を走った後だ。足湯の心地よさは格別だろう。


 お湯に反射する木漏れ日の中で、自らが初めて作り上げた初めての温泉と、心地良さそうに足を揺らす彼女たちの姿を見ていると、俺の胸に確かな手応えと、これまでにない充実感が込み上げてくる。


(…うん、これなら……きっと夢じゃない……!)


 ━━俺はこのスキルで、理想の温泉宿を作り上げてみせる。


 改めて、確固たる意志を胸に刻んだ。

ご覧いただきありがとうございました。

大変励みになりますので、もしよければ評価やブックマーク、感想のほどよろしくお願いします。



加藤カト

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