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59.年の功ってやつよ……!

「すうぅぅぅぅぅぅ」


 対峙したイオの様子を冷静に観察しながら、ロレッタは魔氣を練りあげた。


「しいぃぃぃぃぃぃ」


 全身から紫の電光が派手に迸り、いたるところで小さな爆発が起きる。


 教会の暗がりを明滅する閃光が照らし、空気が焼かれる。


 練りあげた魔氣を一気に解放させるような感覚で、ロレッタは両拳を胸の前で叩き合わせた。制御できる限界ぎりぎりまで、魔氣の出力をあげる。


 白い肌が自らの紫電で焼け、右腕の竜鱗が焦げて逆立った。


 ロレッタはその痛みを無視して構えを取り、挑発するような笑みを浮かべた。


「この前のようにはいかないわよ」


 手招きするようにして言い放つ。


「きなさい」

「言われなくても――」


 イオが正眼に構えた白無垢鉄火の切っ先をわずかに揺らした。


 踏み込むタイミングを探っている。


 ロレッタは心が冷え冷えとするのを感じた。どこで身につけたのか知らないが、イオの実力は一度やり合って十分にわかっている。余計な感情は死につながるだけだ。


 所詮、殺し屋は殺し屋。必要なら誰でも殺す。


 揺れる切っ先のリズムが――変わる。


「――殺してやるから!」


 ずだん、という床を蹴る音。


 白無垢鉄火を肩に担ぐように振りあげて、イオが一足飛びに距離を詰めてきた。


 すぐそこに、怒り狂った犬のような彼女の顔がある。


 殺意に満ちた眼光は、ロレッタでもぞっするほどだった。


 灼熱の軌跡を描いて、魔術刀が疾駆する。


 ロレッタはあえて半歩だけ踏み込み、イオが魔術刀を振りおろす間合いを殺した。


「しっ!」


 最小限の動きで右拳を振り抜き、白無垢鉄火の腹にぶち当てる。


 紫電が爆ぜる。


 白無垢鉄火が大きく跳ねあがった。


 だが、イオはまったく動じなかった。


 こちらの追撃よりも先に前蹴りがくる。


 腹に強烈な一撃を喰らって、ロレッタは一歩退がった。


 殺した間合いが生き返る。


 灼熱の刃が一閃した。


「ちっ!」


 ロレッタは舌打ちすると同時に、左拳の裏拳で再び白無垢鉄火の刃を跳ねあげた。


 続け様に撃ち込みがくる。


 執拗に右、右、右と斬撃が走り、ロレッタの拳と激突した。


 爆発。衝撃。


 迸った紫の電光が、周囲に伝播してあらゆるものを焼き焦がした。


 剣閃が変化し、右袈裟と見せかけてイオが右足を踏み込んできた。


 肩からぶち当たるようにして押し込んでくる。


 こちらが反射的に押し返した反動を利用して、距離を取られる。


 左袈裟、一閃。


「しいぃぃぃぃぃぃ!」


 ロレッタは首筋に迫る灼熱の刃を、両手で挟み込むようにしてとめた。


 手のひらが焦げる感覚。


 体重をかけて魔術刀をじりじりと押し込みながら、イオは苛立った声をあげた。


「なんで、だよ!」


 数ミリずつ首筋に迫ってくる灼熱の刃に、ロレッタは顔色ひとつ変えなかった。


 それでも白無垢鉄火の熱に炙られる感覚がいやになる。


「年の功ってやつよ……!」


 ことさら皮肉げに、ロレッタは言った。


 イオの腕は確かだが、一度やり合った相手だ。初見よりは対応できる。実戦では経験した場数がものを言う。ロレッタ・イェンほど修羅場を経験してきた女を殺したいのなら、手の内がまったくわからない、初めてやり合ったときに絶対に殺しておくべきだったのだ。


 詰めの甘さは経験値の差。


 それは剣の腕とはまったく別の話で、イオには決定的に不足しているものだった。


「もうあなたに、わたしを殺せやしないわよ」


「いまから、そうするよ……!」


 力任せに押し込まれ、灼熱の刃はもうほとんど首に触れそうだった。


 圧力に膝が折れ、腰が落ちる。


 犬歯を剥き出しにして、イオが凶暴な笑みを浮かべた。


「ほら!」


「そうは――」


 ロレッタはさらに腰を沈めるなり、魔術刀を奪い取るようにして挟んだ両手を強引に左側に振った。そのまま身体を捻るようにして、右足を高らかに蹴りあげる。


「――ならないのよ!」

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