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50.負け戦はしない主義なんすよー

 ぱっと血煙。


「うっへ! 痛い痛い痛い!」


 キルシェトルテは折れた銃剣を投げ捨てると、左右のショルダーホルスターから自動拳銃を抜いた。


 横撃ちに構えた二丁拳銃の引き金が絞られる。


 猛烈な勢いでスライドが前後して、空薬莢が次々と吐き出された。


 重なる銃声。銃声。銃声。


 一瞬でスライドが開き切る。


 至近距離から数十発の弾丸を浴びせられたデシーカは、何発も殴られたように足をとめた。


 一歩、二歩と後退し、だがそれだけだった。すべての弾丸は彼女の身体を貫くことなく、鉄板にでもぶつかったかのように潰れて転がっていた。


「ずっるいなー。魔術刀の妖精の加護。くそチートっす」


 キルシェトルテは自動拳銃を投げ捨ててへらへらと笑った。


 袈裟懸けに斬られた上着とシャツからは真っ白い肌が顕になっており、見えない刃が走ったあとはすっぱりと裂け、流れる血でぐっしょりと濡れている。


「賞金首になっている殺し屋を呼ぶなら、いまのうちだぞキルシェトルテ」


 デシーカは冷え冷えとした眼光をキルシェトルテに浴びせた。


 妖精の加護と言っても、不死身でも無敵でもない。


 弾丸がぶつかる衝撃はあったし、あれだけぶち込まれるとさすがにいやになる。


「えー……どうしよっかなー」


 傷が痛むのか、キルシェトルテはピルケースから錠剤を何粒も取り出してガリガリと噛み砕いた。腹を抱えてげらげらと笑う。


「そんな殺し屋、あーしは知らないってー。いや、やっぱり知ってるかーも」

「〈ティティス・レコード〉の世話人会は、大小姐(ダーシャオジェ)に媚びへつらう連中しかいないわ。〈ティンパ商会〉の幹部を殺して回ろうなんて頭のネジが外れたやつは、あなたくらいのものよ」


 ゆっくりとした足取りでキルシェトルテの背後に回り、ロレッタがそう言った。


「うひ……! くっくっ……ひひっ……おま言うっすよロレッタちゃん! 協定破ってるのはお互い様だし、それで言うならロレッタちゃんだって頭のネジ外れてるっすよ」


 視線だけを背後に向けて、キルシェトルテは続けた。


「こうやって殺し合いさせてくれてありがたいんすけどー、さすがにきっついっすわ」


 ふらふらとした足取りで、この騒ぎでも無事だった公衆電話にもたれかかる。


「それにあーしは、殺し合いは好きっすけど、負け戦はしない主義なんすよー」

「少し離れたところに暖機している車を隠しているな? 逃げられるとでも思っているならとんだお門違いだぞ」


 ロレッタの〈天網恢恢〉に巻き込まれていない時点で、この女はバーを包囲していた車のなかにはいなかったということだ。少し離れたところで様子を窺っていたのだろう。


「まさかー、デシーカちゃんから逃げられるなんて思ってないっすよー」


 キルシェトルテは受話器を取ると、硬貨を投入してダイヤルを回した。


「殺し屋を呼ぶつもりになったか?」

「ひひっ……どうかなー。なにが出るかな♫ なにが出るかな♫」


 数秒ののち、誰かが電話に出たようだった。


 キルシェトルテは一言、二言、言葉を交わすと、げらげらと笑ってデシーカを見た。


「ひひっ! デシーカちゃん! うひ! くっくっ……げほっげほっ」


 過呼吸になるほど笑ってから、キルシェトルテは受話器をこちら差し出した。


「どういうつもりだ?」

「出ればわかるっすよ」


 デシーカは慎重に受話器を手にした。


 耳に当てる。


「えっ……」


 聞こえてきた声に、デシーカは間の抜けた声をもらした。


 それはこんなときに聞こえてくるはずのない声で。


 絶対に、聞こえてきてはいけない声で。


 一瞬、意味がわからずに頭のなかが真っ白になる。


「デシーカ!」


 ロレッタが自分の名前を呼ぶのも。


 猛烈な勢いで公衆電話に向けてピックアップトラックが突っ込んでくるのも。


 まったく反応できなかった。


 どごしゃ、という音を残してピックアップトラックがデシーカと公衆電話に激突した。


 電話機は吹っ飛んでぐしゃぐしゃになり、デシーカもピックアップトラックのボンネットに乗りあげるようにして撥ね飛ばされて宙を舞った。


「うっひ……いくらあーしがバカでも! 負けないためには保険くらいはかけるっす!」


 キルシェトルテがピックアップトラックの荷台に飛び乗った。


 そのまま尻を蹴飛ばされたかのように発進する。


 デシーカはアスファルトに全身を強かに打ちつけて転がったまま、走り去るピックアップトラックを見ていた。


「デシーカ! 大丈夫なの?」


 駆け寄ってきたロレッタに、彼女は曖昧にうなずいた。


「ああ……」

「あの電話、なんだったの?」

「いや……」


 ほとんど呆然とした様子で、デシーカは頭を振った。


 まるでそれが真実であることを確かめるかのように、彼女は言った。


「イオが、捕まった」

「え?」


 今度はロレッタが間の抜けた声をもらした。


 デシーカは差し出された受話器から聞こえてきた声を思い出した。


 それは間違いなくイオのものだった。


 か細く、震える声で、彼女は言った。


『お姉ちゃん、助けて――』

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