47.せっかくだからやり合うっすよ
猛烈に襲いかかる弾丸の嵐に、ロレッタは眉ひとつ動かさなかった。
重なる短機関銃の銃声が鼓膜を叩き、明滅する無数の銃火が彼女の眼鏡に反射する。
跳弾がそこらで火花を散らすなか、紫電をまとったロレッタは敢然と駆けた。
「しいぃぃぃぃぃぃ」
練りあげた魔氣は短機関銃の弾丸をものともしなかった。
命中するなり見えない壁に当たったかのように停止し、そのまま落下する。
ロレッタは弾幕をかき分けるようにして、一足飛びに距離を詰めた。
手近にいたエルフ人の男の懐に、左肩からぶつかるようにして飛び込む。
握り締めた右拳を、体重を乗せて突き出した。
紫の電光が爆ぜる。
男は投げ捨てられた人形のように軽々と吹き飛んだ。
そのまま停車していた車に激突してぴくりとも動かなくなる。
ロレッタはそんな様子には一瞥もくれず、別の男の腹部に強烈な前蹴りを喰らわせた。
骨が折れる鈍い感触。
「げえっ……!」
男が悲鳴とともに身体をくの字に曲げ、アスファルトをごろごろと転がる。
「すうぅぅぅぅぅぅ」
ロレッタは姿勢を低くするなり、次の獲物に飛び掛かる。
猫科の獣を思わせるしなやかな動きだった。
短機関銃の銃口を目の前に突き出されるような格好になり、ハーフエルフの男がろくに狙いもつけずに引き金を絞った。
ロレッタは動じることなく、短機関銃の銃身を左手の裏拳で横殴りにした。
銃口がぶれて、あらぬ方向に弾丸が吐き出される。
がら空きになった懐に滑り込むなり、ロレッタは右拳を突きあげた。
電光。爆発。
「がっは」
ハーフエルフの男は軽々と舞いあがり、どしゃりと落下する。
ロレッタはぐるりと周囲を睥睨し、停車していた車の屋根に飛び乗った。
踏み台にして空高く舞いあがる。
「八卦功夫六合合一拳!」
唖然とするエルフ人どもを見下ろして、彼女は空中で両拳をぶつけた。
紫の電光が一際激しく瞬き、周囲を駆け巡る。
「〈天網恢恢〉!」
ロレッタは両手を組み合わせると、落下の勢いに任せてアスファルトに叩きつけた。
落雷のような轟音が響く。
彼女を中心に蜘蛛の巣状に紫電の網が広がり、放電をともなった大小の爆発がいたるところで起きた。
地に足をついていた者は人であれなんであれ、紫電の網から逃れられない。
エルフ人どもは身体の外側と内側を紫電に焦がされ、自覚する前に死んでいた。
巻き込まれた車は爆発し、信号と道路標識は黒焦げになり、アスファルトはいたるところで爆砕されて穴だらけになった。
「ふうぅぅぅぅぅぅ」
ロレッタは深く息を吐き出しながら、周囲の惨状を平然とした顔で見渡した。
死屍累々といった有様で、焼け焦げた肉のにおいが鼻を突く。
「いやー、お見事。ロレッタちゃん容赦なさすぎっすよ。ひひっ」
おざなりな拍手が聞こえて、ロレッタはそちらへと視線を向けた。
「キルシェトルテ」
「お久しぶりー」
ポンプアクション式のショットガンを肩に担ぎ、トレンチコートを着たエルフ人の女が、ふらふらとした足取りで笑っていた。
艶のないぱさぱさの金髪に濁った碧眼。
目の下には濃い隈があり、へらへらと笑う表情は幸福そうだが虚ろだった。
「ひひっ、せっかく生き残った連中集めてたのに。ひっどいことするなー」
彼女はトレンチコートのポケットからピルケースを取り出すと、錠剤を口に放り込んでガリガリと噛み砕いた。
「おっ……ほっ……!」
恍惚とした声をもらし、天を仰いで身体を震わせる。
〈シターン・レーベル〉のキルシェトルテ・ルクスは相変わらずのヤク中で、得体が知れない雰囲気はロレッタもよく知っている彼女のそれだった。
「この前の戦争で八卦功夫をぶち込んでやったのに、よくも五体満足でいられるものだわ」
「あー……あーし、ヤクで身体バグってるんで」
キルシェトルテはげらげらと笑うと、急に真顔になった。
「いやー、ロレッタちゃん。やることがえげつないっす。系列の闇金ハメられて戦争の口実つくられて、上からは見捨てられて、もうやり合うしかないじゃないっすかー」
「〈ティンパ商会〉の幹部を殺して回っている、殺し屋の飼い主を探しているのよ。わたしも殺されかけたね。〈ティンパ商会〉から三億ロンガンの賞金がかけられているの」
「あー……ひひっ、それであれっすか? あーしが飼い主だって?」
「そう思っているけれど?」
「いやいや、知らないっすよー」
「口ではなんとでも言えるわ。だから、こうして戦争をすることにしたのよ、キルシェトルテ。賞金首をここに連れてきているなら、あなたは殺さないでおいてもいいわ」
「いやー、いやいやいや。本当に知らないんすけどー」
キルシェトルテはへらへらと笑いながら、濁った碧眼に明確な殺意を宿した。
「ひひっ……戦争は好きだしー、せっかくだからやり合うっすよ」
ふらふらしていたショットガンの銃口が、ぴたりと定まる。
「ロレッタちゃん!」




