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46.始末をつけさせてもらうとするわ

 マスターが裏口から姿を消し、店の外では複数の車から人が降り立つ気配がした。


 車のドアを叩きつけるようにして閉める音が次々と響く。


 不揃いな何人もの足音。


 デシーカは弾かれたように床を蹴ると、バーカウンターを飛び越えて身を隠した。


 見れば同じようにしたロレッタがすぐ隣にいる。


 瞬間――店の外から腹の底に響く重たい唸り声がした。


 電動ノコギリのような音。


 それが機関銃から吐き出される銃声であることに、デシーカは少しあとに気づいた。


 浴びせられた弾丸はバーのドアや外壁に無数の穴を穿ち、発泡スチロールのようにぐずぐずにした。


 そのまま店内が蹂躙される。


 木製のテーブルが吹き飛ばされ、よく磨かれた床はささくれ立つようにしてボロボロになる。


 レジが金属質な音を何度か立てて、弾丸に追い立てられるようにして転げ落ちた。


 その隣にある公衆電話は、腹を割かれたように破壊されて硬貨を吐き出していた。


 陳列されている酒瓶が次々に割れ、あらゆる酒がぶち撒けられる。


 だが、二人が身を隠しているバーカウンターだけは無事だった。


 外側は破壊されても、弾丸は貫通しない。


 なにせこんなときのために、分厚い鉄板が仕込まれている。


 弾丸が鉄板にぶち当たる度にごんごんという衝撃が響き、火花が無数に散った。


 電動ノコギリを思わせる銃声に負けないようにして、デシーカは声を張りあげた。


「キルシェトルテのやつ! 機関銃なんてどこから買いつけてきたんだか!」

「火力バカだから、あのヤク中!」


 銃火器ならせいぜい短機関銃という黒社会の抗争で、二五〇発の給弾ベルトを装着した機関銃を用意してくるようなやつはそういない。


 そういう意味では〈シターン・レーベル〉は生粋の戦争屋で、この前の抗争では構成員の多くが死んだが、〈ティンパ商会〉相手に二万発撃った。敵対組織の幹部を、乗っていた列車ごと対戦車ロケットで吹き飛ばしたこともある。


「この前の戦争で連中の懐は空っぽになったと思ったが、ずいぶんと景気がいいみたいだな」

「闇金が儲かっているのよ。戦争屋がやるしのぎではないけれどね」

「それなら殺し屋も大陸から雇えそうだ」


 デシーカは嘆息すると、抱えるようにしていた魔術刀の柄に手をかけた。


「私が突破口を開くとするよ」

「その魔術刀、もう使えるの?」

「ああ、マギは十分食わせたからな。とはいえ、海のものとも山のものともわからない。どんな妖精が練り込まれているのかは、抜いてみてから確かめるさ」

「そんな危なかっしい。だったら、わたしが引き受けるわ」


 ロレッタは眼鏡を軽く押しあげると、何度か右手を握っては開いた。


「そう言うなら任せるが――あまり掛かりすぎるなよ、ロレッタ」

「連中が賞金首の飼い主なら、連れてきているでしょう。わたしにやらせてよ」


 いつもは冷静なロレッタの、こういう好戦的なところはきらいではなかったが、彼女と賞金首をサシで戦わせることは気が進まなかった。


 ロレッタは不満な顔をするかもしれないが、〈ラウ書店〉のためには賞金首にかけられた金が必要だ。金に執着するロクサーナのことがよくわかる。結局、金は命あっての物種で、そのためには生き延びなければならない。


「一番槍は譲ってやるが、そのあとは二人がかりといこう」


 それを聞いて、ロレッタは苦笑した。


「そういう冷徹さは、ラウ師父(スーフー)譲りよね」

「私は誇り高い剣客ではないからな」

「それを言うなら、わたしも別に誇り高い武闘家なんかではないのよ」


 電動ノコギリのような機関銃の唸り声がやんだ。


「所詮は殺し屋か」


 ロレッタはそう言って身を翻すなり、バーカウンターの上に飛び乗った。


「すうぅぅぅぅぅぅ」


 拳を握り、腰をすっと落とす。


 眼鏡の奥の黒い瞳には、鋼鉄の冷たい光。


 廃墟のようになった店内を一瞥する。


 通りに面した入口はすっかり風とおしがよくなっていた。


 停車している何台もの車と店を取り囲む黒いスーツのエルフ人たちの姿が見える。


「しいぃぃぃぃぃぃ」


 身構えた彼女の周囲で、紫の電光が次々と爆ぜて空気を焦がした。


 胸の前で、両手の拳をぶつけあう。


「八卦功夫六合合一拳!」


 ロレッタを中心に一際大きな放電が起こった。


 同時に外にいるエルフ人の男が、肩に担いだ筒のようなものをこちらに向けた。


 それは闇市場でテロリスト相手によく出回っている、神聖帝国陸軍の型落ちした対戦車ロケットで、さすがのロレッタもぎょっとした。


 乾いた発射音。


 一本の黒い筋が白い煙の尾を引きながら、一直線にこちらへ向かってくる。


 ロレッタは一瞬で眼前にまで迫った弾頭を、本能的な反射だけで蹴りあげた。


 ごん、という鈍い打撃音。


 バーの天井に向きを変えた弾頭が突き刺さる。


 轟音とともに爆炎が店全体を飲み込み、衝撃波がわずかに残っていた窓ガラスを粉々に砕いて周囲に撒き散らした。


 炎に背中を炙られるようにして、ロレッタはバーから転がり出た。そんな彼女をまち構えていたかのように、車の前に並んだエルフ人どもが短機関銃の銃口を向けている。


「まったく、これじゃあ、あれっぽっちの修理代では足りやしないわね」


 ロレッタはつぶやき、ゆっくりと立ちあがった。


 ずらりと並んだエルフ人やハーフエルフを睥睨し、凶悪な笑みを浮かべる。


「すうぅぅぅぅぅぅ」


 ロレッタは腰を落とし半身に構えると、大きく息を吸い、静かに吐き出した。


「しいぃぃぃぃぃぃ」


 バシバシという紫の放電が地を這って迸り、小さな爆発をそこいらで引き起こす。


「〈ティンパ商会〉直系組織〈ラウ書店〉の露払い、〈紫閃電(ジーシンディン)〉のロレッタ・イェンが、始末をつけさせてもらうとするわ」


 その言葉に応えるように、向けられていた銃口が一斉に火を吹いた。

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