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31.子どもっぽくて好きよ

「なかなか当たりは引かないものだな」


 デシーカはロクサーナのリストにある名前に斜線を引いた。


 ここ数日、ロレッタと組んで故買屋を見つけては身体に聞いてきたおかけで、リストにある名前の多くはすでに消されている。


 休憩に立ち寄ったハンバーガーチェーン店は、騒がしさに満ちていた。


 ほとんどの席は埋まっており、デシーカは窓際のカウンター席に座っていた。


 大きな道路に面した活気ある景色が一望でき、ひっきりなしにいき交う赤いタクシー、二階建てバス、そして雑多な看板の数々をデシーカはぼんやりと眺めた。


 プラスチックのチープな椅子の座り心地が悪く身じろぎする。


「おまたせ」


 隣の席にトレイをもったロレッタが戻ってきた。


 二人分のハンバーガーとフライドポテト、紙カップのドリンクが載っている。


「アイスコーヒーだけでいいと言ったのに」

「ここのところ、ろくに食べてないでしょう」

「食欲がないんだ」


 デシーカは腹部に手を当てると、まともな食事をしたのはいつだったか思い出せないことに気づいた。ここ数日はなにか食べれば吐き気がすし、ろくに味もしなかった。


「それでも食べる。生きたいならね」


 トレイをカウンターに置くと、ロレッタはどかりと隣に座った。


「明日を生きるには、とにかく食べないといけない。明日になれば、なにかいいことが起きるかもしれない。わたしたちはそうやって、地べたを這いずり回ってきたじゃない」

「……そうだな」


 彼女の言うとおり、自分たちはそうやって生きてきた。世界で二番目に不幸な少女が、いつか訪れるかも知れない幸福のために一日一日を必死に生きてきた。


「それに昔は、まともな食事にありつけるだけでラッキーだった」


 ロレッタがフライドポテトを手に取ると、口元に差し出してくる。


 そっぽを向くと、カウンターの下で軽く足を蹴られた。


 蹴り返すと、また蹴り返される。


 何度かそれを繰り返して、デシーカは仕方なさそうに笑った。


「わかったわかった。食べるから蹴らないでくれ」

「よろしい」


 フライドポテトを食べると、ロレッタも小さく笑った。


「野良犬を餌付けしている気分だわ」

「ひどい言われようだ」


 口のなかにフライドポテトのぱさぱさした食感と強い塩味を感じながら、デシーカはアイスコーヒーに二人分のミルクとガムシロップを入れた。


 その様子を見て、にまにましているロレッタに半眼になってうめく。


「なんだ?」

「ブラックコーヒー飲めないところとか、子どもっぽくて好きよ」

「あまりからかうな」


 デシーカは嘆息すると、アイスコーヒーのストローに口をつけ、ずすずと啜った。


 ロレッタが買ってきたフィッシュバーガーを無理やり口に運び、アイスコーヒーで胃に流し込む。一人でいるときとは違って、不思議と吐き気はしなかった。


 こちらの様子に満足したのか、ロレッタもトレイに残るフィッシュバーガーに齧りついた。


「リストも随分と減ったわね。当たりがいると思う?」

「どうかな。ロクサーナも言っていたが、魔術刀なんて代物が横流しされればすぐに噂になる。そうなっていないなら、いつも使っている故買屋には流していない可能性のほうが高いが。ロクサーナが横流しした警官を突きとめるまでの、念のためというやつさ」

「万馬券だってあるしね」

「ああ、違いない」


 フィッシュバーガーを平らげたロレッタが、包み紙を丁寧に四つ折りにした。


 昔から知っているその癖が妙におかしくて、デシーカは声を押し殺して笑った。


「なに?」

「いや、なんでもない」

「笑っているじゃない」

「気にするな」

「気になる」


 ロレッタが身体を揺らして肩を軽くぶつけてくる。


「わたし気になりますけどー」


 そんな些細なことに奇妙な安らぎを覚えて、デシーカは目を閉じて何度かぶつけられるままにしておいた。だが、不意にロレッタのぴたりと動きがとまる。


「?」


 目を開けてロレッタの視線の先を追うと、窓を挟んでよく見知った人狼がにやにやしながらこちらを見ていた。胸元が大きく開いた柄シャツにサングラス。脇に茶封筒を挟んだロクサーナ・セクリスタだった。

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