第88話 遂に動き出した者達
先まで泣き崩れていた玲那、今は何とか心が安寧を取り戻しつつあるようだ。俺はそっと涙を拭ってやり、優しく頭を撫で続けていた。前の世界に居た時より涙脆くなってるなと思ったのは、恐らく自分だけだろうな。
「落ち着いたか?」
「うん……ごめんね、取り乱しちゃって」
「いや、大丈夫」
少しすると2人は離れる、すると空気を読んで黙っていた皓が静かに口を開く。
「それで……今後どうするんだ?」
「今後?」
首を傾げる、確かにそうだ。玲那は少しだけ考え込み、眉間にシワが寄る。
「雪咲は……まだ分からんから後で聞くとして、俺は魔王討伐がまだ残っている。だが玲那、お前はどうするんだ?」
「私は出来ればお兄ちゃんと一緒に居たい」
「だがアメノウズメもいる、果たして一度雪咲の驚異になったお前を仲間として迎えるか?」
「それは……」
玲那は俯いて考え込んでいる、それと同時に少しだけ震えている気がした。”俺は別に構わないけど”という言葉を口にしようとした瞬間、何処からかとてつもない魔力の波動が伝わってくる。それと同時に、誰かの言葉が念となって3人の頭の中に響いてきた。
”役立たずめ”
何処からこの声が聞こえてくるのだと思い辺りを見渡す俺と皓、すると上空の方に肌を切り裂くような程の強大な魔力が集まる感覚。その魔力溜まりの方へ視線を向けてみると、真っ黒な空に広がっていく謎の煙のようなもの。空の黒を更に深くしたような色で、煌めいていた星々を全て飲み込んでいく。変な例えをするなら、テーブルの上にコーヒーを溢してしまった時のようなあの広がり方だ。
空で起こっている謎の現象に恐怖心を抱きつつも警戒していると、不意に背後から新たな気配を5つ感じ取る。俺は咄嗟の判断で気配の方に視線を向ける、そこに居たのはアメノウズメ・冬望・眞弓・アーシュ・ユリナだった。
「なっ……!?どうしてここに!」
「いきなり空が変なことになって、もしかしたら雪咲くんが大変なことに巻き込まれているんじゃないかって心配になって……!」
「全く、何であんたの所で頻繁にこういうイベントが起こるのよ!」
「……トラブルに愛されている」
「……」
「それに関しては否定出来ないわね」
眞弓は心底心配そうに、冬望は呆れながら、アーシュはため息混じりにユリナはそれに同意、アメノウズメは苦笑を浮かべつつも皆が皆雪咲のことを心配していた。その気持を感じ取ることは出来たのだが、俺は上空に現る無数の邪悪な気配にみんなが巻き込まれないか逆に心配だった。
「だめだ、逃げろ!!」
俺が皆に向けて言葉を口にした瞬間、空からの思念にかき消されてしまう。
”もう遅い!我は今この時より復活するのだ!”
その言葉と共に空に漂っていた無数の邪悪なる気配は一箇所に集まり、それは大きな一つの邪悪となってそこに顕現する形になってしまった。その姿はまさに”恐怖”そのもので、人の形というものやもはや生物の生態系を崩しかねぬような、悍ましい見た目をしていた。




