第87話 長きに渡る因縁の終止符
あらすじ
突如辺りが暗闇に包まれ、気がつくと雪咲と皓は離れ離れになってしまう。
雪咲は皓を探すためにいろいろと思考を巡らせており、皓は黒フードに連れ去られ縛り付けられていた。
皓は連れ去られる際に、ある事に気がつく。
「お前女だろう?」
「どうしてそう思ったのかな?」
「幾ら隠そうとしても女性特有の骨格や、癖の一つ一つで分かるとまでは行かなくとも察することは出来るさ」
「驚いた、だけど私がわざとそう思わせるように振る舞っていたとした場合はどうするんだい?」
「外したなら外したで構わないさ、どうせただの推測なんだし。その時はそっちの演技の方が上手だったと言わざる得ないがな」
少しだけ長い沈黙が訪れ、黒フードがクスクスと笑う。そしてフードをそっと脱ぐと、皓は思わず言葉を詰まらせる。
「まぁ、当たりなんだけどね」
黒フードの中は、どこかで見たことのあるような顔をした華麗な女性だった。そう、少し前にアメノウズメに消されたはずの玲那と同じ顔だった。
「あ、有り得ない……お前、アメノウズメに刺されたはずじゃ」
「私があの程度で死ぬとでも?それこそ有り得ないわ。警戒して影武者を送り込んどいて正解だったわね、おかげで違和感なく私が動きやすくなったもの」
腰に手を当て、やれやれと行った感じで肩をすくめ首を横に振る。そして皓の視線に被せるように目を合わせ、そのままゆっくりと近づいていた。
「お兄ちゃんと私の仲を引き裂こうとする人は許さない、誰であろうと始末してあげる。お兄ちゃんを誑かす人も、誘惑する人も……絶対に無事じゃ済ませない!」
「”それ”が間違っているものだと、なぜ気付かない!」
「間違っていても、私にはどうすることもできない!お兄ちゃんが好きなことも、湧いてくるようなこの怒りも、憎しみも、殺意も身を任せることしか私は出来ない!」
先まで笑っていた顔とは思えぬほどに歪み、涙を流していた。
「確かに私は身勝手なことばかりしてお兄ちゃんに迷惑をかけていた、けど私は私なりにお兄ちゃんに幸せになってもらいたかった!あの時遠い親戚の人の所に行こうって言ったのだって、お兄ちゃんにあのままずっと苦労した生活を送ってほしくないから言ったの!」
「出任せを……!なら何故お前はあの時雪咲を手伝ってやらなかった、あいつがどれだけ苦労していたか分からないわけじゃないだろ!」
皓はいつの間にか、怒りに任せ怒鳴っていた。体に巻き付いている物が肉に食い込むのも気にせず、体にありったけの力を込めて。
「家の事以外で、私が何を手伝えるのよ。あの時小学生よ、何が出来るってのよ!中学に上がって遠いけど親戚の人も見つかって、これでお兄ちゃんもちゃんとした生活を送れるって思っていたのに……!」
「じゃあ何でお前がここに居るんだ!その遠い親戚とやらに引き取ってもらって、ちゃんとした生活を送っていたんじゃなかったのか?」
「……私だけ一人で行って、そこに私の居場所があるとでも?」
そう呟くように口にした言葉はどこか暗く、ゾッとするような程深い闇を見つめているような雰囲気に切り替わる。
「確かに叔父さんと叔母さんは優しかった、けど表面的にしか過ぎなかった。学校でも転校という形になって、お兄ちゃんも近くにいるわけじゃないから守ってくれる人も居なかった。新しい学校で待っていたのは酷い虐めと差別、教師も見て見ぬふり。だけどお世話になっている叔父さんと叔母さんには迷惑かけたくないから、いつも明るく振る舞っていた……。」
「……っ!」
「その数カ月後、叔母さんが突然亡くなって叔父さんは変わったの。私に対して暴力を振るうようにもなったし、そこにはもちろん性的暴力だってあった。それでも私は中学の間だけ耐え抜けばお兄ちゃんの所に戻れると信じてた、けど1回だけ耐えきれずにお兄ちゃんの所へ行った時があるの」
「まさか……」
「そうよ、だけど私は素直にはなれなかった。そのせいでお兄ちゃんと口喧嘩になっちゃって、その末貴方に叩かれた。行き場をなくした私は逃げて逃げて……その結果どこかの山奥で力尽きたわ」
皓は話を聞き終え、先まで怒りで高ぶっていた心が急に冷静さを取り戻す。そして、あの時の事が鮮明に脳裏に蘇る。
(じゃあ、あの時こいつは雪咲に助けを求めて……それを聞かずに俺はあんなことを……)
そう思うたび、胸が締め付けられるような感覚に襲われる。助けを求めて差し伸ばした手を、その場の怒りに任せてしまいその手を払い除けてしまった。その事実に、皓は大きなショックを受け俯いた。玲那の手には殺意の籠もった魔力、ゆっくりと皓に近づいていた。
しかしその瞬間、何かがひび割れるような音が響く。何事だと玲那は辺りを見渡す、視界に写ったのは真っ暗な空間に白い亀裂が数多に走っていた光景。
「なっ……?!」
白い亀裂が黒い空間の隅々まで行き渡った後、まるでパズルのピースのように剥がれ落ちて地面に消えていく。その空間の向こうは、ついさっきまで自分が雪咲と居た場所と同じ光景だ目に映る。
「私の結界が破られるなんて……」
呆然と立ち尽くす玲那、何処からか雪咲の声が聞こえてくる。
「この程度の結界なら破れないことはないよ、そんなことより黒フードの正体が玲那だったとはね」
結界が破られたことにより、雪咲が目視できる距離に現れる。玲那は警戒し少し後ずさり、雪咲は少し早足で玲那と皓の所へ向かう。雪咲が手を皓を縛っている物に触れた瞬間、まるで刃物で断ち切られたかのように切れするりと地面へ落ちていく。体が自由になった皓は、何処か以上はないか調べるようにその場で少し体を動かす。その後、雪咲は玲那の方へ改めて歩を進める。
「こ、来ないで……謝るから、私をもう……殺さないで……」
玲那はパニック状態に陥っており、冷静な判断ができない状態になっていた。手に集めた魔力を物質へと変換し、気がつけば手には鋭利なナイフが握られていた。それを雪咲に向け、ブンブンと振り回しながら後退りしていた。しかし、背後には大木があり既に逃げ場はない状態になっていた。
そんなことも気にせず、雪咲は玲那に近づく。手の届く距離に入り、ナイフが頬を掠める。傷口から滲み出るように赤い血が頬を伝い、地面に落ち行く。それに何を思ったのか、玲那は”ひっ”と小さく声を漏らしナイフをその場に落とす。体を小刻みに震わせながら、目をぎゅっと閉じた。
「……大丈夫」
雪咲は小さく呟き、そっと玲那を抱き寄せる。顔を覗いてみると目はぱちくりとしていたが、震えは収まっては居なかった。そのまま優しく頭を撫で、雪咲は目を閉じる。
「大丈夫だよ、さっきの2人の話は結界の外でも聞こえていたよ。そして、あの時の事を一瞬たりとて忘れたことはない。」
「私……お兄ちゃんに死んじゃえって……」
「確かにあれは辛かったな、けど俺は玲那の気持ちを察してあげられなかった」
「あんなに……色々と酷いこと言っちゃったのに……」
「それでも兄弟だからな、守ろうと必死だったから……ごめんな、玲那」
「私こそ……ごめんなさい……!」
雪咲の腕の中で、玲那は静かに泣き崩れる。雪咲は静かに、玲那の頭を優しく撫で続けていた。
今回の話は、少しばかり長くなりました。
まぁ、玲那と仲直り出来て良かったということで。
次話、雪咲は冬望・アーシュ・真弓・ユリナ・アメノウズメに自分の気持ちを打ち明ける。
受け入れてくれるのだろうか、そんな不安を胸に続きます。




