第18話 港町〈ハルカス〉
馬車の周りに、大量のゴブリンが発生!
これに対し、雪咲は圧倒的な力でその場を次々と制圧していく。
だが圧倒的過ぎる力のせいで、コーネリア達に怯えられてしまうことになる?!
ゴブリンの群れを退け、雪咲達は再び馬車に揺られている。その間誰も何一つ物言わず、とても静寂な時間だけが流れていた。だが明らかにコーネリアとジュリアの見る目は変わっており、〈興味の対象〉から〈畏怖の対象〉になっていた。雪咲は当然分かってはいたが、あえて黙って無視していた。時折ユリナやグランが気を利かせ何かを言おうとするが、すぐに下を向いてしまう。
馬車に揺られること体感3時間、馬車は遂にハルカスに入る門を通過する。そこから窓の外に映る景色は先程の草原とは一変、とても賑わった町中で冒険者や漁船関係者みたいな人達がこれでもかと言うほど行き交っていた。屋台や店では魚みたいな見た目の魔物の肉や、海から取れる塩の結晶や海藻みたいなものが売られていた。
……微かに潮の香りがする
そんな事を考えながら別方向の窓の外に視線を向けると、一面が海の蒼色だった。現実世界の海とは少し違い、完全にほぼ蒼一色だったのだ。普通なら蒼以外にも多少の色はあったはず、だがここには多少の色さえ存在はしない。予想とは遥かに違う海の姿に、雪咲は興味深そうに外をじっと見つめる。無意識に手がそわそわし始め、今にも飛び込みそうだった。そんな雪咲の様子を見て、口にはしないが馬車内の誰もがホッコリしたという……。
「さて、着いたわ」
馬車が止まった所は、豪華な船が停まっている場所の近く。既に準備万端らしく、船の上に向けて木製の橋みたいなのが用意されていた。
「分かった、それじゃ俺たちは此処で……契約は完遂したし、料金も取らない。船旅、気を付けてね」
そう言い残し、雪咲達は馬車を降りる。コーネリアは名残惜しそうに頷き、馬車は船の上へと駆け上がっていく。普通なら重力で登りきれないような坂道だったが、どうやら魔法で重力一切を打ち消しているようだった。それにより抵抗なく登ることが出来、すぐさまその船は出港した。
「さてと、まずは皆疲れただろうし宿に行こうか」
雪咲が団員全員に聞こえるように声を上げると、歓喜の声を上げる。そしてお祭り気分な団員連中を引き連れ宿屋に入る、するととても賑やかだった宿屋は一瞬で静かになる。どうやら宿屋だけではなく酒場もしていたみたいで、常連客らしき厳つい男性達が皆して雪咲達のことをジロジロと見てくる。団員達が気後れして固まってる中、雪咲とユリナとグランとアーシュが受付らしきカウンターの所へ歩を進める。
カウンターの中からは、とても屈強そうな男勝りの恰幅の良い女性が現れる。その女性は明らかに、面倒事を持ち込まれたみたいな顔をしていた。
「えっと、これでこいつら全員止めることは出来る?」
そういって懐〈異次元袋〉から、金貨5枚をテーブルの上に置く。
何故異次元袋を隠す必要があるのかと言うと、どうやらこの世界では異次元袋のスキルを持った人は全然居ないらしい。数千万人に一人の確率という事をアーシュから聞き、今後は隠すよう努力すると誓った。そうじゃないと、殺してスキルを奪おうと考える輩が際限なく現れるらしいからだ。
話は逸れたが、金貨を出しても女性の顔はピクリとも動かない。何故だろうとキョトンとした顔で首を傾げると、女性は急にバンっとカウンターを叩く。
「アンタのギルドカードか、身分を確認出来る物を出せって言ってるんだよ!」
あまりに唐突だったため、少し驚き肩が跳ねる。だがそれも一瞬、雪咲はそっとギルドカードを提出する。すると、怪訝な目で見られる。
「アンタみたいなガキが、王印付きのギルドカードだぁ!?」
女性のその言葉に、酒場に居た男性達は声を上げて笑う。
「え……はっ!?」
思わず言葉にする雪咲、もしかしたら自分が可笑しい事でもしてるのではないかと思えて来た。だが、男性達の笑いのツボは別にあったようだ。
「アンタみたいなガキが王印付きのギルドカード見せても、何の威厳も無い。所詮は何の実力もない七光りって所だろう?此処は実力主義なんだよ!」
そう言って、ギルドカードを叩き返す女性。雪咲はそっと手に取り、小さくため息をつく。そのため息の意味はただ単に馬鹿にされたのに腹立たしく思い呆れたのではなく、今日も野宿をさせてしまうという団員達への申し訳無さで出たもの。それを見た女性はため息をついた雪咲に少しイラッと来たのか、男性達の中で1番実力のある男性を呼ぶ。
「もしアンタに実力があるってんなら、この男に勝ってみな」
「……」
自称1番の男は、品定めするかのようにジロジロと雪咲を見つめる。その視線に対して、少し殺意の篭った視線を向けると……男は少し後ずさる。
「何してんだい、さっさと口だけのガキなんざやっちまいな!」
女性は声を荒げ、男に武器を投げる。雪咲の足元にも投げるが、男のとは違い木製の剣。それに対して男の武器は、鉄製の剣だったことに腹立たしさを覚える。だがそれに腹立たしさを覚えていたのは雪咲だけではなかったみたいで、アーシュやグランやユリナまでもが臨戦態勢と言わんばかりに女性の方を睨んでいた。だが雪咲は、視線で落ち着けと伝える。すると、悔しそうな顔をしながらも抑えてくれた。
「武器が武器だ、お前さんから打ち込んできな」
男は煽るような口振りで言葉を吐く、その言葉にピクリと反応を示す雪咲。
「いいの?」
「あぁ」
その言葉に甘え、構える。力加減を間違えると死なせてしまうので、死なせない程度の力で……そっと剣を振り下ろす。雪咲からしてみれば、100分の1すらも実力を出してはいなかった。その筈なのだが、振り下ろした木の剣は目にも留まらぬ速度で男の剣を持っていた右肩を直撃。そのまま嫌な音が響き、肉が裂け辺りに血が飛び散る。その光景を目にしたユリナはそっと目を伏せ、グランは他所を向き、アーシュは笑いを堪えるので大変そうだった。
「あがぁあぁあぁあぁあぁあぁ!?!?」
声帯が張り裂けんばかりに絶叫する男、激痛の余りその場で気を失い失禁してしまう。その様子に誰もが唖然とし、女性は眼を丸くしていた。
「いやぁ、木の剣を渡すとか……意味分からないわ」
木の剣をポイッと捨てながら、女性に向かって微笑む。だが今までのような笑みではなく、殺意の篭ったような笑みで女性は心底ゾッとしていたようだ。一瞬で顔色は真っ青になり、カウンターに着いていた手はガタガタと震え始めている。
木の剣の方が痛みと傷が酷いと言ったが、半分は正解で半分は冗談だ。何故なら鉄の剣ならばすっぱりと絶ち斬ることが出来る、それ故に傷は今回の場合は右肩から腕1本だけで済む。しかし木の剣は切断力は一切無く、その代り肉を裂けさせる事は出来る。その為先程の嫌な音は骨の音だけではなく、ミチミチっと肉が裂ける音だったのだ。当然骨も見えているし、その骨は粉々になり恐らくは一生使い物にはならないかも知れない。意味分からないと言ったのは、この様な事も考えられた筈なのに雪咲に木の剣を渡したことに対してだった。
「それで……泊めてくれるの?無理ならいいよ……別行くから」
「っ……分かったよ、何日が希望だい?」
雪咲の殺意丸出しの視線に少し怯え、ようやく冷静に宿屋の仕事らしいことをし始めた女性だった。
ちなみに、雪咲は想像魔法の一つで終始動画として記録しておいた。
次の話は、明日投稿致します!
正直な話、女将の頭逝ってると書いてて思いましたw




