↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界なき者  作者: 虎テツ
第一章 アストリア聖王国 三女神教の国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/32

第八話 途切れる意識

 スラムへ戻った翌朝。俺は、いつも通りゴミ捨て場へ向かった。体にはまだ重さが残っていた。それでも、休んでいる暇はない。これから先、ゼロとともにここを出るためには、食料も道具も必要になる。瓦礫を漁る手つきは、いつもより遅かった。それでも時間をかけて拾い集めていくうちに、袋にはそれなりの重さが加わっていった。俺は袋を背負い、いつもの買取屋へ向かった。


「よう。昨日は来なかったな」


 店に入ると、珍しく店主の老人から声を掛けられた。


「……ちょっと、体調を崩してました」


「そうかい」


 老人はそれ以上追及することなく、袋の中身を一つずつ取り出していく。金属片。古びた部品。使い道の分からない機械の残骸。いつものように選別を続けていたが、ふと思い出したように口を開いた。


「そういや、お前が来なかった日な。教会の連中がえらく騒いでたぞ」


「……教会が?」


「ああ。広場の方で何かあったらしくてな。騎士が何人も、ゴミ捨て場の辺りまで探し回ってた」


 俺の手が止まりかけた。だが、すぐに動かす。


「何を、探してたんですか」


「知らねえよ。俺には関係ねえ話だ」


 老人は興味を失ったように肩をすくめ、選別を終えると硬貨を俺の前へ置いた。


「ほら。また明日な」


「……どうも」


 硬貨を受け取り、店を出る。外へ出た瞬間、俺は小さく息を吐いた。心臓が、嫌な速さで脈打っている。教会騎士がゴミ捨て場を探していた。偶然なのか。それとも……。その答えが出ないまま、翌日を迎えた。いつものように瓦礫を漁っていると、すれ違う住人たちの視線が妙に絡みついてくる。何かを話している。だが、俺が近づくと声が小さくなる。目が合えば、すぐに逸らされる。何かを言いかけているのに、誰も直接声を掛けてこない。


「……なんだよ」


 誰に向けるでもなく呟いた。返事はない。その理由を知ったのは、拾い屋たちの会話を偶然耳にしたときだった。


「あいつだよ。一昨日、スラムの外から戻ってきたって噂の」


「マジか? 誰があんな所まで行くんだよ。正気か?」


「見た奴がいるんだと。えらく汚れた格好で、こそこそ戻ってきたらしい」


 その瞬間。以前、声を掛けてきた男の顔が脳裏に浮かんだ。


(まさか……)


 あの日、俺に声を掛けてきた男。あいつが、余計なことを話したのか。胸の奥が冷たくなる。そのときだった。遠くから、人のざわめきが広がった。俺が顔を上げる。人だかりの向こう。鎧をまとった教会騎士が、数人。スラムの奥へ入り込んでくるのが見えた。騎士たちは住人に何かを尋ねながら、一人ずつ顔を確かめるように声を掛けている。探している。誰かを。俺の背筋を、冷たいものが走った。


〈教会騎士、複数を確認。捜索行動の可能性があります〉


 頭の中に響いたゼロの声に、心臓が大きく跳ねた。


「……分かってるよ」


(探しに来た)


 確信はない。だが、体はすでに動いていた。俺は騎士たちから距離を取るように、瓦礫の陰へ向かって歩き始めた。できるだけ自然に。急がず。走らない。


〈移動方向、適切です。走らないでください。不審な動きは、逆に注意を引きます〉


「分かってる」


 言われなくても分かっていた。それでも、ゼロの冷静な声が頭の中にあるだけで、ほんの少しだけ呼吸を整えることができた。視線を落としたまま歩く。騎士たちを見ない。何も知らないふりをする。そのまま通り過ぎようとした。だが。背中に視線を感じた。誰かが、こちらを見ている。


〈対象、こちらを注視。距離を詰めています〉


「……くそ」


 俺の歩みがわずかに速くなる。


「そこの少年」


 背後から声が飛んできた。有無を言わせない、硬い声だった。俺は振り返らず、そのまま歩き続けようとした。だが、足音が迫ってくる。一歩。また一歩。そして――。


「待て、と言っている」


 肩を掴まれた。


「っ!」


 強引に体を引かれ、無理やり振り向かされる。目の前には、一人の教会騎士。その目が、俺の全身を値踏みするように動いた。


〈バイタルサインに急激な変化。落ち着いてください〉


 ゼロの声が響く。だが。落ち着けるわけがなかった。


「お前。一昨日、どこにいた?」


「……分かりません。いつも通り、ここにいました」


「嘘をつくな」


 騎士の声が低くなる。


「何人かがお前を見たと言っている」


 その目には、すでに疑いを超えた確信が宿っていた。逃げ道が、少しずつ塞がれていく。


〈否定を継続してください。現時点では証拠が不十分です〉


 ゼロの声は、いつも通り冷静だった。その冷静さが、今は少しだけ心強い。


「いいから、着いてこい」


「離せよ」


 肩を掴む手を振り払おうと、俺は身を捩った。


〈推奨しません。複数を相手にした抵抗は――〉


 最後まで聞くことはできなかった。拳が飛んできた。


「ぐっ……!」


 顔面を打ち抜かれた瞬間、視界が白く弾ける。膝から力が抜けた。地面が急速に近づいてくる。だが、その動きさえも妙にゆっくりと感じられた。


〈意識レベル低下を検知。生命反応に異常はありません〉


 遠くで、誰かが怒鳴っている。その声とゼロの声が重なり、次第に遠ざかっていく。視界が暗くなる。音が消える。そして――。何も分からなくなった。静かに生きる。誰の記憶にも残らない。それが、これまで俺が自分を守るために決めていた唯一のルールだった。だが、そのルールはもう、とっくに破られていた。

聖教会の騎士

騎士には七段階の階級が存在する。各階級には、使用できる魔法の種類や威力、習熟度などを示す目安が設けられている。

大聖騎士:上級〜超級

聖騎士団長:上級

聖騎士:中級〜上級

上級教会騎士:中級

教会騎士:初級〜中級

従騎士:初級

騎士見習い:初級

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。