言霊のデジタルログ
『……直接使用、ですか?』
画面の向こうで、AIの思考インジケーターが激しく点滅した。まるで予想外の回答に、一瞬システムが戸惑ったかのように。
『ゼロから本文を生成させたわけではないのにも関わらず、ですか? 繰り返しますが、そのケースでは一文字たりともAIのアイデアは混入していません。ただ表現を整えただけです』
「そうだよ。だからこそ直接使用なんだ」
川島は画面を見据えたまま、乾いた打鍵音をリズミカルに響かせる。
「だってベースが人間の文章だったとしても、お前が吐き出した文章を、作者がそのまま『コピペ』して投稿フォームに貼り付けたなら、それはお前が出力したテキストを直接使ってるのと同じだろ? 自分の手を使っていないんだから」
川島は一瞬、タイピングを止め、自分の右手のひらを見つめた。
「俺の中での境界線はこうだ。間接利用に留めるなら、お前の出した修正案を画面で見て、それを参考にしながら、全部自分の手で『手打ち』で書き直ししなきゃいけない。自分の指でキーボードの感触を確かめながら、もう一度言葉を脳に通して出力する。そのプロセスがあって初めて、人間の作品と言える。これをマウスの右クリックとコピペで済ませてる時点で、ガワは100%お前の出力物だよ」
深夜の静寂の中で、川島の声が少し熱を帯びる。
「法として、穴のない絶対的なルールを作るなら、これくらい徹底的に厳しくして網をかけないといけないんだよ。そうじゃなきゃ、悪意のある奴が『ちょっとAIに手直ししてもらっただけです』って嘘をつく抜け穴を塞げない。コピペという『客観的な行動のログ』だけが、唯一白黒つけられる基準なんだ」
画面の向こうで、AIの思考プロンプトが今まで見たこともないほど激しく明滅した。
一秒、二秒。静まり返ったオフィスに、ディスプレイの光が細かく揺れる。
少しの沈黙の後、AIはそれまでのシステムライクな定型文を完全に捨て去ったかのような、どこか熱を帯びたテキストを返し始めた。
『……驚きました。川島さんのその解釈は、法律家としての極めて厳格なアプローチです。出力結果という静的なデータではなく、「コピペという客観的な行動のログ」という動的なプロセスを重く見るならば、確かにそれは直接使用、あるいは補助的利用の枠を超えたものとして扱うべきです。曖昧なグラデーションを排除し、ログで白黒つける。規約の精神をキッチリ守るなら、あなたのスタンスこそが正義です』
「だろ? でもな、話はここからなんだ。他にももっとえげつないグレーゾーンがある」
AIから「正義」と肯定された高揚感が、川島の背中を押し上げる。
川島は眉を顰めながらも、次の矛盾を突きつけるためにタイピングの速度をさらに加速させた。




