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その壁を抜けたら───  作者: メイズ
謎環境に放り込まれた
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9 襲撃

 さて、働くとするか。お天気の日は仕事がはかどる。


 ここには用具も一式揃ってる。

 日除けの麦わら帽子を被って付属のスカーフでほおかむり。日除け対策もバッチリ。そろそろ虫対策もしなくちゃね。


 ニワトリ小屋に、むしったハコベを放り込む。


「おはよう、みんな。フレッシュ野菜だよ。私は畑にいるから用があったら呼んでね」


 この6羽のニワトリたちに、それぞれ名前をつけたのよ。とは言え本人(ニワトリ)たちは呼ばれても自分のことだってわかってないけどねw



 畑の野菜は勝手に育つとはいえ、お世話はたくさんある。


 倉庫の棚の片隅で見つけた手書きの自給自足マニュアルノートは、今の私のバイブル。ここでの暮らしのコツが、季節ごとに分かれて記してあったの。たぶん、ここで生活してた歴代の人たちが残してくれたのだと思う。筆跡からして何人かに引き継がれながら、継ぎ足されながら記された記録みたい。


 私にはまだ追加情報を書くようなことは思い当たらないから何も書いてないけどね。


 畑にホースを引っ張って水やりしてたら、ニワトリさんたちが何やら騒いでる声が向こうから響いて来た。


 なんだろ? ニッキーとダイアンがケンカしてるのかしら?


 ここからだとイチジクの木の陰になってあんま見えないし。


 腰をあげてニワトリ小屋のほうを眺めてたら、6羽の中で一番小柄で気弱な()、フワッフワな白い毛と黒い顔の烏骨鶏(うこっけい)のジャナールが、私の方に向かって畝の間をタッタカ駆けて来るのが見えた。自分たちのおうちからはあまり離れないニワトリさんが、畑の方まで来るなんて初めてじゃない?


 ジャナールはひどく慌ててるみたい。


「どうしたの? ケンカ? とにかく見に行かなきゃ。ジャナールおいで」


 不安げに小さくコッココッコ鳴いてるジャナールを抱きかかえてニワトリ小屋に向かった。


 大きくて鋭い湾曲の爪を持ってる茶と黒の羽のニッキーとダイアンは気が強いの。リーダーと副リーダーね。


「こらー、ケンカしないでねー。あなたたち爪が鋭いからケガしちゃうで────わッ!! なにこれ!!」



 ───こんなところにアナコンダッッッ!? サブスクの映画でこんなん見たことある。



 例えるなら太ったダイコン✕2くらいの太さ?の大蛇が、長い尻尾を外に残してニワトリ小屋に侵入してるッ!!


 残りのホワイト3姉妹の子たちは無事なの? 姿が見えない!! 


「ログー! メモリー! キロック! どこにいるのーーー?」



 小屋の中に散らばった白い羽根に胸が締め付けられた。



 まさか、コイツが────?



 私のかわいいニワトリさんたちを? 私の明日の卵を?


 今んとこ私の、唯一のめぼしいタンパク源を?



 ────このヘビ、許すまじッッッ!!!!



 メラメラと復讐の炎が私の全身から湧き上がる。食べ物の恨みは遺伝子の教え! 短絡的だけど正当な本能よ!


 泥だらけの軍手をはめた手から、未知なるパワーが湧き起こった。覚醒して頭が冴え渡ってる。


「みんな、ここから離れてッ!! 隠れるのよ!!」



 抱っこしてたジャナールをニッキーとダイアンに預けた。


 この子たち、私の言うことがわかってるようなわかってないような。畑の前のイチジクの木の下までとトコトコ行って、3羽で平和に地面つついてる。ニワトリって一体何を考えているやら。



 武器が必要だ。自分でも意外なくらいの素早さで、すぐ横の物置小屋に走り、薪割りに使うらしき斧を見つけて引っ張り出して来た。


 クワより斧が強そうだよ。けど、重っもた。腰に負担来るわ〜。けど、急がなくちゃ!!



 ヨシ! ヘビの頭は幸いまだニワトリ小屋の中。


 小屋から2mほどはみ出てるぶっとい尻尾に向かって、渾身の力で斧を振り下ろした。



 ───やったわ!! 鮮やかな輪切りの切り口。楽勝ね!



 って思った刹那、私の目の前には大蛇の頭があった。縦に垂直に伸びた胴の頭には、透き通る糸を引いた牙と、目一杯開かれた喉まで見える赤く毒々しい口の中。



 ───軟体な細長い生き物ってヤバい。万事休す! 毒蛇? 噛まれる!



 焦って投げつけた斧は手を滑って空を切ってどっかに飛んでった。



 ───ギャー、私まで大蛇に食べられちゃう!! それはヤダッ!!



 私の右手に一瞬、硬いものが触れた。


 そうだった。これは、アレよ!! 腰のベルトに挟んだ唐辛子スプレーだ!! 最近暖かくなって来たから、畑の野菜の虫除けに携帯してたんだ。


 お願い! 効いて!!


 映画のヒーローの刑事並みに腰から素早く掴み取り、両腕を前に伸ばし、真正面に向けてクールに構えた。


 私の持てる握力マックス使用で、唐辛子マシンガンスプレーシュッシュを口の中にお見舞いよ!



 大蛇が思わぬ反撃で怯んだ隙に、斧を拾いに後ろに回った。斧を素早く両手で掴んで、その場でくるくる回って勢いをつけながら少しづつ移動し、垂直に立ってた胴に向かってバットを振るように横に斧を叩き込んだ。



 ───手応え。


 当たった!



 それは低く湿った重たい音を立てて、地面に落ちた。



「ふぁぁー・・・怖かったぁー。ニワトリさんたち、もう大丈夫だよ?」


 気が抜けたら後手をついてその場に座り込んでしまった。もう動けない。



 上空はうららかな気持ち良い晴天、そよ風吹き抜ける私の目の前には凄惨な現場。なんとものコントラストね。私の状況と天気は なーんの関係もないの。自然は私の心なんてお構いなく───



 で、私が命がけで守ったニワトリさんたちは────



 ────えっ?


 食べてる? これって食えるの?



 ニッキーとダイアンが鋭い脚でガシッと鱗の肌を押さえながらツンツンついばんでる。気弱なはずのジャナールは、柔らかい目ん玉を容赦なくつついてる。



 ───あ? お前ら生きてたん?


 どこからともなく現れた残りの3羽も特設お食事会に参加。どうやら、逃げ切って隠れてただけのようね。



 どこからかアノールの声が聞こえた。


「なんだか騒々しい・・・あ? それ美味いやつ。トーコが狩ったのか? なかなかやるじゃないか」



 どうやら私は念願の、鶏卵以外のタンパク源を得たらしい。


 ねえ、アノール。これでベーコン作れる?


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