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その壁を抜けたら───  作者: メイズ
謎環境に放り込まれた
8/26

8 2通目のお手紙を開封

「ねえ、アノールって通常は滞在者に干渉はしないし、許可なく話すことは禁じられているんでしょ? なのに私の前に姿を現したのは、私が話し相手を望んだからなの? 私の挙動は察知されてるのね」


「そのNNKデスからの封筒は、たぶんそのことについて書いてあると思う。食卓の食器を片付けたら開封してみるがいい」



 ★★★



「さて、どれどれ。これね。アノールも一緒に見ようよ。何が書いてあるんだろう? ちょっと緊張する・・・」


 アノールを肩に乗せてから、ドキドキしながら封筒の中身の二つ折りの厚紙を開いた。




 ***ウォールクラッシャー暮科透子様***



 NNKツアー《現世を滅ぼすための壁崩しコース》はいかがでしょうか?───


 ☆隠しクエスト☆


 ・自発的に畑仕事を始める(収穫と種まき)

 ・ニワトリとギブアンドテイク(卵獲得と鶏の世話)

 ・施設の適切な使用と管理


 これら3点の仕草が確認されたため、4月1日より現使用小屋の管理人である《ヤモリ》と会話することを許可いたします。


 当管理人と、どのような関係を築くかはNNKデストロイ管理組合は関知いたしませんが、管理(ヤモリ)に危害を加える、所有する、小屋から連れ去ることは固く禁じます。


※過失により何らかの損害が発生した場合、加害者の生命エネルギー換置により弁済していただく方式を採用しております。


 引き続きご武運をお祈り申し上げます。




 NNKデストロイ管理組合一同


 *************************************



 何回読み直しても内容がイマイチ飲み込めないよ・・・


 じっと黙ったまま、繰り返し文字に目を這わせてる私の肩で、アノールがお気楽な口調で言った。


「オレは先に連絡を受けてたからフライングしてトーコに話しかけて驚かせてしまったからなw そこは謝る」


 肩に乗ってるアノールを手のひらに誘導し、顔の前にもって来てから返事を返した。


「私も雑な扱いしてごめんね。異種が人間の言葉を話すこと自体が、私がいた世界ではありえないし、おののいたのよ。2秒で慣れたけど。ここは私には謎が多くて。申し訳ないけど、この通知の内容を解説してくれない? 何回読み返してもさっぱりわからないの。それにここには監視カメラでもあるの?」


「おう。詳しくは言えないけど、プライバシーには一応配慮した安全のための監視システムがある。そしてここにあるアイテムやイベントには、隠しクエストが用意されているものがあるのさ。挑戦者が無意識のうちに達成すれば何かしらの特典が得られるって寸法さ」


「生活様式はレトロだしメルヘンチックだけど根底のシステムはハイテクなのね。ここは一体?・・・それに私が挑戦者って? 知らんけど何かに挑戦してるの? 対戦相手もいないのに」


「は? 何言ってんだ? トーコは望んでここに来たんだろう? 優しくない世界を滅ぼすために」


「ん? なにそれ? 私の元の世界のこと?」


「んーと、要するに、トーコは運良く選ばれてここに来たってことさ。トーコにあてがわれた肩書きはウォールクラッシャーだろ? なら壁を壊せ。トーコを閉じ込めている壁を壊すんだ。それがひいては元の世界に通じてるってこと。それ以上は聞かれても言えないし、オレだって単なる小さな歯車の一つだし、この世の全てを知ってるわけじゃない」


「・・・わかった。教えてくれてありがとう、アノール」


「で、オレはホントは夜行性なんで、もう寝かせて貰う。夜中は小屋の点検であちこち回ってる。今まではトーコに見つかんないように気をつけていたけど、これからは堂々と仕事するんで、オレを見かけても驚くなよ?」


「わかった。また今夜会えるといいな。じゃあ、寝床に行って。おやすみ、アノール」



 アノールはテーブルに飛び移り、シュシュシュッって素早い動きで裏に回って脚を通って、床を走って、垂直方向な壁を歩いて、あれよあれよでどこかに行ってしまった。けどこの小屋のどこかにはいつもいるはずだね。



 聞こえるのは再び小鳥の声と木々のざわめきだけに戻った。


「今朝は変化球の朝の始まりだったな。今日はエイプリルフールだし、ヤモリとおしゃべりしたなんて、もし誰かにお話しできたとしても信じてもらえないよ? フフッ・・・」


 アノールの姿が見えなくてもその存在だけで頼もしく思う。



 《※過失により何らかの損害が発生した場合、加害者の生命エネルギー換置により弁済していただく方式を採用しております。》


 この一文は気になるけど何? 生命エネルギーって? 補償金じゃなくて? まあ、私には関係ないか。



 弾みをつけてボスンッとベッドサイドに座った。


「うふふ〜、初めての異種生物のお友だちが出来たよ? 猫ちゃ〜ん。私、すっごく嬉しい♡」



 NNKデスからの通知のお手紙を猫の置き物の下に挟んだ。


 黒い陶器の置き物は、相変わらずの2つのお月様の目をこちらに向けて、不思議顔で私を見上げてる。


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