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その壁を抜けたら───  作者: メイズ
謎環境に放り込まれた
6/26

6 2通目のお手紙

 4日目の朝。


 ここに来てから誰にも会っていない。誰もいないのは、怖いような怖くないような?



 会社はどうなっているのかな? 無断欠勤してクビになってたりして? それは困る。 かと言って私はどうすればいいの? どうにもなんないよね? なら今は考えてもムダ。


 そして私の一番の願いは───


「肉や魚が食べたーい!」


 鶏さんに卵は貰えてるけど。


 いっそのことあの鶏さんを─── 


 冗談よ。3日も一緒にいたら、あの子たちはもう私のペットみたいなものなの。それに側に生き物がいてくれるのは心が安らぐから、ぜーったいにいなくならないで欲しい。


「さすがにあの子たちは部屋の中には入れられないから、部屋には猫ちゃんでもいればいいのにな」


 ここに来てから独り言を言うようになった。じゃないと、声を出す機会がないもん。


 農作業の支度はここに全て揃ってる。


 取り敢えず、インビテーションカードの意図を読み込めば、私はここで生産もしなければ生き残れなそうよ? そして「ご武運を祈る」ってなんだろう? まるで戦うみたいじゃない。こんな平和なところでそれはない。


 午前中は収穫と種まきして午後は帰り道を探し、日が暮れる前には家に戻る、という日課に決めた。


 お天気が良くない日は本棚の本を読んでのんびり過ごせばいいや。ここには私の知らない作家たちの、これまで聞いたことがないタイトルの小説や絵本が並び、農業読本、植物図鑑やら、ライフハック的な本がレトロな木彫り彫刻の本棚に並んでる。


 私は自分のスケジュール管理には紙の手帳を使ってたことが幸いした。今日の日にちがわかる。先のことは計画を立てようもないから、手帳は日々のひとこと日記帳に変わった。


 今日の日記の一言は、


「あー、リアクションが誰からも得られない生活ってつまんない。お話相手もいないし、部屋の中で触れ合えるペットもいない」



 寝る前にはサイドテーブルの上のペーパーウェイトと化した置き物の猫ちゃんに今日の出来事を話し、おやすみを言ってから寝る癖がついた。



 ***



 早いものね。今日からもう4月。


 無断欠勤をここまでしたらもうクビに決まってる。運命にてどうにもならないことはもう忘れて捨てよう。


 ってか、私いつの間にかめちゃくちゃ体調がいいんだけど? 夜もベッドに入れば考え事する暇もないくらいすぐに寝ちゃってるし、朝はニワトリさんの声が目覚ましとなって苦もなく起きられる。


 出勤前の憂鬱の朝の日々が嘘みたい。満員電車の通勤もないってサイコーだね! 休みの日に顧客からの苦情ゲリラ電話を回されることもない。


 今日はお天気も良さそうね。


 草取りしてニワトリさんたちにあげて、鶏小屋掃除しよう。今日は何個卵があるかしら? うふふ〜・・・


 毎日畑で取れる素材と卵で手慣れた朝食作り。変わり映えしないけどこのメニューにはまだ飽きてはいない。ベーコンがあればもっと最高なんだけど。


「いただきま〜す!」



 ───ゴンゴンッ!! ゴンゴンッ!!



 一口目を口に入れたと同時に玄関扉に何かがぶつかる音が響いた。


 びっくりしてむせてしまった。


 ゲホゲホしながら背伸びして、目より少しばかり上にある扉の覗き窓から外を見る。


 誰もいないみたい? 


 そっと少しだけ扉を開いて隙間から外を覗いた刹那、ニョキッと白くてツヤツヤ毛の動物の鼻が突っ込んで来た!!


「ワワワッ、こ、これは・・・エッ?!」


 その白い四つ足動物は、藁色の見覚えのある封筒を咥えていて、玄関の内側にペッと落とした。


 しゃがんで拾い上げる、それはNNKデストロイ管理組合からの2通目の手紙で、ふと影を感じて顔を上げると白い動物とふと目が合った。不思議な色の不思議な瞳孔の形をした大きな瞳。キミは私の驚く姿をじっと見てたのね。


 目の前に現れた白い動物の全体像は───



「・・・あなたヤギ? あ? ・・・もしかして、リアルヤギさん郵便ッ!!」


 その白い四つ足動物はニヤリと笑ったような気がした。



「ありがとう。けどキミはイバラの壁のどこから抜けて来たの?」


 知れたら私はここから出て賃貸ワンルームマンションに帰れるはず!



「メェ~〜メェ~〜〜w」

『地下トンネルから。但し私にしか通れない、ザマァw』


 私の耳元でヤギの声とは別に、いかにも宇宙人然とした高音のたどたどしい声がした。



「なに今の? え? もしか私にはヤギ語が分かる異能がっ?! ま、待って、ヤギッ?!」


 私が驚きと混乱でオタオタしてる間に、ヤギはヤギとは思えないスゴい加速で走り去って行った。


「ヤバい・・・アイツ。普通のヤギじゃないよ? まさか遺伝子組み換え?」



 かくして私の手に残された、2通目の封筒────



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