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その壁を抜けたら───  作者: メイズ
恋と共に秘密探索
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57 救世のヤギ

 脚がカンガルーって?


 響さん、遺伝操作で自分の身体を強化したってことなの?! ああ、このフィールドは現実離れした戦慄(せんりつ)の別世界だ。


「天川早くッ!」


 取っ手を引いて扉を思いっきり開きながら振り返ると、天川の後ろ襟首を掴もうと迫り来る響さんの手があった。


「逃さないよ? 私の卵子!! オマケのカエル検体さんも。フィールドに放置すればアマガエルのまま野垂れ死ぬと思っていたのに、まさか生き残っていた強運。こちらが驚きだわ。フフフ‥‥ここまで来たせっかくだし、内部までえぐり出してとことん調べ尽くして差し上げるわ」


「そうはいきませんッ!! トーコさんと今夜の約束を果たすために僕はここで捕まるわけにはいかないのですッ!!」


 天川ったら、そんなに今夜の緊急お月見会を楽しみにしているの? 家にだんご粉と粒あんパックの買い置きがあったはず。帰ってから作るのは言わずもがな面倒だけど、それで天川がこんなに頑張れるなら、私の咄嗟の閃きが素晴らしかったってことだね♡



 天川は素早くしゃがんで響さんの魔手を避け、空を切った響さんは前につんのめった。


「トーコさんッ! さあ、行きましょう!」


 天川はその低体勢のまま、私の手で開かれた扉の外まで、見事なカエルジャンプで一気に飛び出た。私も続く。



「うおぉぉぉぉーッッ!」


 転ぶ寸で体勢を保った響さんが踏ん張ったまま、気合の雄たけびの咆哮(ほうこう)をあげた。


 その、気合のままダッシュで一歩踏み出した途端、彼女はズベッと前のめりにすっ転んだ。



「キャーッ!! いったぁい!! 滑った?! ゲッ、床がネバネバッッッ!! これ誰が掃除すんのよ? キッショッッッ!!」


 響さんが四つん這いの姿勢のまま鬼の形相で私たちを睨ん出るのが、閉まり行く扉の隙間から見えた。


「褒めてください、トーコさん! 僕、しゃがんで避けた咄嗟に床に粘液を撒いておきました! さあ、今のうちに」


 天川ナイス!! 程よくカエル人間になった天川のお陰で、少し希望の光が見え始めた。


 地下施設ってとんでも恐ろしい世界ね! なんとか部屋から出られたけど、地上に出る前に筋力スキルの差であっという間に捕まってしまうよ!


 扉はガチャンッと一旦閉まった。



 ここは階段途中の広めの踊り場だ。


 急激に薄暗くなった空間に、艷やかな純白の毛皮のヤギカワさんが闇に浮かんで見える。


「ヤギカワさんッ!! ここにいてくれたんだ!」


「こっちだ! トーコ、天川!! このヤギに続け!! 元の道を戻るぞッ!!」


 私たちが出た踊り場から続く下り階段には、頭にアノールを乗せたヤギカワさんがスタートダッシュ体勢で待ち構えていた。


「僕が殿(しんがり)を務めます!!」


 天川ったらいつになくカッコいい!!


 私はアノールを乗せたヤギカワさんのお尻を追う、少し後ろを天川が走る。


 流石にヤギカワさんは速くて、どんどん距離が空いて、時々カーブで見えなくなる。響さんのあの特殊な筋力なら直ぐに追いつかれること必至。


 チラリと振り返ると、天川が粘液を背後に振りまきながら走っていた。


 ハァ ハァ ハァ ハァ‥‥苦しい‥‥けど、止まれない。止まったらゲームオーバー。



「トーコ! とにかく来た時の分岐点の、あの上り階段始まりの通路まで急ごう!」 


 エコーがかったアノールの声が、前方向こうから響いた。


「トーコさん、頑張って! 僕がついてますッ!」



 息が上がって返事が出来ないから、走りながら左手親指を上げて合図した。


 苦しいけど、脚が石みたいに重たいけど、私だってここに来てから農作業で鍛えられてるの! 本物の筋肉は卑怯な改造筋肉になんて負けないんだから!



 ハァ ハァ ハァ ハァ‥‥まだ‥‥? 行きはよいよい帰りは怖い、ってこんなことだったりして?



「よし、ここまで来れば通路は目前だ!」


 アノールの励ましの声と入れ替わりに、天川の焦燥の叫び!


「ヤバいです! この速度ではあの女に追いつかれます!」


「ヨシ! トーコ、このヤギに飛び乗れ!!」


「メェ~!」


 えっ? ヤギカワさんに私が乗っていいの? 


「しがみつくように掴まれ!! ヤモリのようにw」


「やってみる!」



 スピードを落としたヤギカワさんに思い切って飛び乗った。



 ───ヨシ!!


 両腕両足で背中にしがみつけた。ヤモリのようにw



 これがヤギの背中か。


 温かいヤギの身体から力強い躍動が伝わって来る。


 私、本当はもう脚はガクガク、限界だったの。



「‥‥ありがとうヤギカワさん。今までちょっと意地悪言ってごめんね‥‥」


「フッ‥‥メェ‥‥」


「おやおやw ヤギカワが小さく鼻で嗤って『勝った』と呟いたぞ? フフッ‥‥」


 って、アノールがヤギ語の通訳した。


「‥‥やっぱヤギカワさんはヤギカワさんねw けどそんな小憎らしいとこも今は愛おしいよ」


「よし、その下が通路だ!」


 響さんの大きく響く雄叫びと、迫り来る気配。カーブで見えないけどすぐそこに来てる!


 私たちが階段を降りきり通路に出る刹那、天川が私たちに言った。


「わー、もうダメです!! 僕がここに残って食い止めますから皆さんは先に行って下さい!!」



天川さん、大丈夫? ( ´ー`)φ

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